【2017年の世界はこうなる】(07) 虚し過ぎるメルケル待望論

20170110 10
ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、国内では“ママ”と呼ばれ、頼りにされている。ドナルド・トランプがアメリカの次期大統領に選ばれたことに対して、世界中から悲鳴が上がっているところを見ると、世界がメルケルを“ママ”と頼るようになるのも時間の問題かもしれない。何しろトランプは、「自分が大統領になったら、アメリカは“自由世界のリーダー”の役割を果すつもりはない」と示唆している。だから、世界の識者たちは揃って、「それならメルケル率いるドイツがリーダーに…」と希望を託しているのだ。だが、そんな発想は馬鹿げている。メルケル自身も、2017年の連邦議会(下院)選挙で、首相として4期目を目指す意向を示した2016年の秋に、自分を新たな自由世界の守護者とみる向きについて、「そんな考え方は悍ましいもので、殆ど馬鹿げている」と切り捨てた。それもそうだろう。先ず、ドイツの影響力は地域的なものであり、グローバルだったことは無い。だから例えば、これまでアメリカの同盟国とされていたアジアの自由主義の国々を、ドイツが支えることはできない。ドイツにできるのは精々、“自由ヨーロッパのリーダー”が関の山と言えそうだが、それさえも幻想だろう。冷戦時代の初期から、自由世界(又はヨーロッパ)のリーダーには大きな軍事的責任が伴ってきた。だが、ドイツの軍事力は最小限に止まっており、それを拡大する意思は、政治的にも文化的にも乏しい。この問題は、ドイツとアメリカの軍事費を比較すれば明白だ。『国際戦略研究所(IISS)』によると、2015年のアメリカの軍事費は5975億ドルで、ドイツはその16分の1の367億ドルだった。これは、フランス(468ドル)やイギリス(562億ドル)よりも少ない。因みに、フランスとイギリスは核保有国だ。その意味では、「ドイツよりもフランスとイギリスのほうが“自由世界のリーダー”を名乗る資格がある」と言うこともできる。

経済規模を考えると、ドイツの軍事費は一段と少なく感じられる。『北大西洋条約機構(NATO)』加盟国には、「GDPの2%以上を軍事費に充てる」という基達がある。だが、アメリカ以外で同基準を守っている国は、ギリシャ、エストニア、ポーランド、イギリスの4ヵ国しかない。ドイツは長年に亘って1.3%と、最も割合が低い国の1つだった。それが、過去2年は更に下がって、今や1.2%を切る。メルケルは2016年、漸く2%目標の達成を約束したが、いつ達成するかは明言していない。では、実際のドイツの軍事力はどの程度なのか。冷戦時代、西ドイツはソビエト連邦の西進を抑える為、巨大な軍隊を擁していた。兵力は約50万人、主力戦車『レオパルト2』は2500両にも上った。ところが今は、兵力は17万6752人(アメリカ軍は150万人)、レオパルト2は200両しかない。ドイツ空軍も、戦闘機『ユーロファイタータイフーン』が109機、老朽化した戦闘攻撃機『トーネード』が89機しかない。アメリカは戦闘機『F35』・ステルス戦闘機『F22』・『F16』等、多種多様な戦闘機を豊富に揃えている。海軍の差はもっと大きい。アメリカ海軍には12空母打撃群があるが、ドイツは精々、10隻のフリゲート艦しかない。ドイツ国防省のウルズラ・フォンデアライエン大臣は2016年、向こう15年間で設備費を1300億ユーロ増やす計画を発表した。その一部は新しい兵器の購入に充てられるが、大部分は老朽化した既存の兵器の修繕に使われることになっている。つまり、設備費は事実上の保守整備費だ。例えば、ドイツ空軍が保有する『ユーロファイター』109機の内、真面に稼働するのは42機しかない。軍用ヘリコプター『NH90』も、実際に使えるのは僅か2機だ。ドイツの公共放送局『ARD』が入手したドイツ軍の秘密報告書によると、2014年に行われたNATOの軍事演習で、ドイツ兵は重機関銃が足りない為、箒を持って参加しなければならなかった。ドイツの軍事費が少なく、軍事力が限定的なのは、この国の戦略上の文化に由来する。ドイツ人も外国人も、「ドイツの軍隊が小さいのは、軍国主義の時代に大きな過ちを犯したことへの反省に由来する」と言う。それも一理あるかもしれない。だが、ドイツの軍事に対する考え方は、冷戦後の25年間に何度か変化している。1990年の東西ドイツ統一後の10年間は、「軍事力はフランスとイギリスと足並みを揃える形で行使する」という方針が定着したかにみえた。その究極の例が、1999年の『コソボ紛争』介入だった。こうして、ドイツの外交の基本原則は、“二度と戦争を繰り返すな”から“二度とアウシュビッツを繰り返すな”に変わったかにみえた。

20170110 11
ところが、2000年代に入り、アフガニスタンやその他への地域への軍事介入が失敗すると、“二度と戦争を繰り返すな”の原則が復活した。2011年にNATOが『リビア内戦』に介入した時も、ドイツは参加を拒否した。寧ろ、ドイツは“平和を齎す勢力”という自負を強くしていった。ドイツにはアメリカのように、兵士を称える文化が無い。アメリカでは、兵士が空港を歩いていると自然に拍手が湧くことがあるが、ドイツではあり得ない光景だ。だから、ドイツ軍は新兵採用に苦労している。ドイツ国防省は最近、リアリティー番組で若者にアピールする戦略を打ち出した。フォンデアライエンは「2023年までに兵力を7000人増やす」と発表したが、その目標をどう達成するかはわからない。そんなドイツ人の意識も、『ウクライナ危機』を機に変わり始めた。『ドイツ軍事史社会科学研究所』の最近の調査では、回答者の半分が「国防費を増やす必要がある」と答えた。「兵力を増強するべきだ」と答えた人も、2000年の調査開始以来初めて50%を上回った。それでもドイツ人は、ロシアには然程脅威を感じていない(※バルト海沿岸諸国やポーランドとは対照的だ)。寧ろ、ドイツ人の安全保障意識を変えているのは、より肌身に感じられる難民危機のようだ。勿論、「21世紀は軍事力よりも経済力のほうが重要だ」という主張もあるだろう。だが、ドイツ経済が輸出に大きく依存している(つまり外国市場に依存している)以上、ドイツにとって経済は国力の源であると同時に、弱点でもある。軍事力であれ経済力であれ、ドイツのパワーがヨーロッパ以外の世界に及ばす影響は乏しいことを考えると、メルケルは“自由世界の道徳的指導者”に止まるだろう。これでは、世界における権威主義の台頭に不安を抱く人たちは安心できない。ソ連の独裁者であったヨシフ・スターリンは嘗て、ローマ法王(教皇)の影響力を説くイギリスのウィンストン・チャーチル首相に、こう聞いた。「それで、彼は何個の師団を持っているんだ?」。今、世界が必要としているのも、精神的支柱ではなく、軍事力の裏付けがある指導者だ。 (『ジャーマンマーシャルファンド』上級研究員 ハンス・クンドナニ)


キャプチャ  2017年1月3日・10日号掲載

スポンサーサイト

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR