【2017年の世界はこうなる】(08) ヨーロッパの価値観を守ることこそ最大の防御だ

20170110 12
「国家と人と価値観を束ねる共同体としてのヨーロッパ連合(EU)が、政治的・組織的及び社会的な結束に苦しんだ」――。2016年は、そんな1年として歴史に刻まれるだろう。不透明さと目に見える失態が際立つ年でもあった。一方で、「真の成果もあった」と言える。EU離脱を決めた6月のイギリスの国民投票は、強い失望感を残した。だが、EUが域外との国境管理を強化する合意を新たにし、カナダと『包括的経済貿易協定(CETA)』を締結したことは、控えめながら明るい要素だ。未解決の問題は多い。難民・移民の大量流入や、ウクライナを巡るロシアとの対立等、安全保障上の脅威は、これからもEUの団結と力量を試すだろう。2016年の経験から、実体は未だ見えないが、誰もが感じる明確な変化が待ち受けていることは確かだ。そして、そうした変化は政治専門家らを戸惑わせている。選挙であれ国民投票であれ、現実の結果がここまで手酷く識者の予想や世論調査を裏切ったことは久しく無かった。現在起きている政治の構造変化は、2008年の金融危機の単なる余震ではない。変化の原因と本質は、失業した若者の怒りや、停滞する経済への欧米中流層の不満よりも根深いところにある。我々は皆、そうした政治構造の震動が、ヨーロッパの謂わば“大いなる安定期”の終焉を告げることを予感している。70年間続いた安定期は、3本の柱に支えられていた。1本目の柱は“国際秩序”。規範と合意を尊重する欧米の姿勢による秩序は、世界規模の紛争を阻止した。2本目は“リベラルな民主主義”、3本目の柱は“ヨーロッパの繁栄”だ。

我々は変化の予感に怯えるべきではないし、況してや恐怖で麻痺するべきでない。歴史家に聞けばわかる通り、移ろい易く短命なのは、危機よりも安定期のほうだ。危機は必然的に訪れるものだが、我々にそれを防ぐ力は無く、現状にしがみ付くのは得策でない。安定は何れ停滞に変わり、変化を求める声が世界に広がる。そのことは必ずしも破滅を招く訳ではないが、招かないとも限らない。未来は、我々が団結し、嵐の海を乗り切る力があるか否かに懸かっている。それには、EUの結束を守ることが大前提だ。内側から壊れた組織に、危機に立ち向かう力は無い。このことは何度でも強調しておきたい。本当の試練が訪れるのはこれからだが、ヨーロッパの結束の土台は脆いままだ。結束が無ければ変化の行方に影響を及ぼせないし、変化の担い手ではなく、犠牲者になってしまう。この暗い見通しを避けるには、我々を結び付ける共通項や、死守すべきものを再確認しなければならない。地理的な領土ではなく、文明的・文化的、更には象徴的な意味での領土を再定義しなければならない。今や人も国家も、神話と単純な二元論の威力に気付き始めている。今後、政治は野蛮化し、文化よりも荒々しい自然に近くなるだろう。そんな時代に肝心なのは、些末で浅薄なものと、時を越え、受け継がれてきたかけがえのない独自性(※スイスの歴史家であるヤーコプ・ブルクハルトが“精神の自由”と呼んだもの)とを正しく区別することだ。ヨーロッパの神髄は、文化と自由に宿る。だから、政治においては、基本理念である“自由を損なわない”という条件付きで、変化を受け入れる必要がある。EUの構造を大きく作り替える前に、我々はこれからも、自由の大陸としての理想を持ち続ける意思を確認しなければならない。今日の世界は野蛮な輩で溢れ、彼らは自由と文化を攻撃しようとしている。この戦いで「決して譲歩しない」という合意を抜きにして、ヨーロッパは試練を乗り越えられないだろう。野蛮の芽は、我々の周囲にも社会にも心の中にもある。EUが外からの圧力と内なる脆弱性に屈すれば、ヨーロッパの最も重要な政治理念(※自由と公民権を守るには、多数決の原理・法の支配・立憲政治が不可欠ということ)は、来るべき変化に揺るがされかねない。だからこそ、自由を攻撃する内外の者に対して、我々は殺然と立ち向かわねばならない。 (EU大統領 ドナルド・トゥスク)


キャプチャ  2017年1月3日・10日号掲載
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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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