【2017年の世界はこうなる】(13) “トランプ相場”は儚い幻想だ

20170110 21
新記録を連発する最近の株価を見る限り、アメリカは“正しい”候補者を選択したようだ。ドナルド・トランプが大統領選に勝利してから、ダウ平均は史上最高値を更新し続け、12月後半時点で2万ドルの大台に迫った。こんなことになるとは誰も予想していなかった。何せ、市場は安定を好むものだ。下馬評で不利だったトランプが勝つ可能性は低いと見做され、ヒラリー・クリントンの勝利がある程度まで株価に織り込まれていた(この点で世論調査機関は当てにならなかった)。それに、「若しトランプが勝てば、大統領就任後の政策が読めないことから、世界中の株価が乱高下しかねない」と考えられていた(証券アナリストも当てにならなかった)。だが、トランプ絡みの話の大半と同様に、現在のドル高・株高という“トランプ相場”も、幻想に過ぎないことが判明するだろう。それも思いの外、近いうちに。理由は以下の通りだ。トランプの衝動的で過激な独裁者紛いのスタイルは既に、国際政治とグローバル経済を動揺させている。直近の市場は堅調だが、“トランプ流”が経済データにはっきりと反映されるようになれば、市場の重しになるだろう。トランプは、大統領就任前の今でさえ、安全保障と貿易の両面で中国を敵に回し、“即興コメント”で一部の大企業の株価を引き下げ、「ロシアのハッカーが、トランプを有利にする目的で大統領選に介入した」というCIAの指摘を一蹴した。この先には未だ、外国で製品を製造するアメリカ企業への懲罰的関税の導入が控えている。

では何故、株式市場はこれまで上昇し続けたのか。『トムソンロイター』のコラムニストであるジェームズ・サフトは、トランプの公約に注目する一方、「トランプの脅威は無視した結果だ」と指摘した。だが、トランプの姿勢を見る限り、保護貿易の旗印を下ろす可能性は低い。保護貿易政策は、中国やメキシコといった主要貿易相手国からの報復を招くリスクが大きい。場合によっては、ダメージの大きい全面的な貿易戦争を引き起こす危険性もある。トランプがこれまでに指名した経済チームの顔触れは、この方向性を裏付けるものだ。減税を市場が好感したのは、容易に理解できる。共和党が多数を占める議会がトランプの減税案を承認すれば、富裕層は圧倒的に大きな恩恵を受ける立場にいる。しかし、トランプの政策が齎すもっと幅広い財政刺激効果への期待は、空振りに終わる可能性が高い。抑々、過去20年のアメリカの経済政策は、トランプとその顧問たちが信奉する“トリクルダウン理論”(「富裕層への恩恵が軈て中低所得層にも好影響を与える」という考え方)の破綻を再確認するものだった。左派と右派、両方の立場の研究結果(中立的な観測者の大半にとっても納得できるもの)によれば、低所得層向けの財政支出は、短期的には大きな経済効果を齎す可能性が高い。中低所得層は、新たな収入を支出に回す傾向が強いからだ。一方、超富裕層は、可処分所得の増加分を貯蓄に回す傾向が強い(最近の状況を考えれば、「貯蓄という“贅沢”をする余裕がある」とも言える)。アメリカ経済は、低い労働参加率や長期失業者数の高止まりといった構造的問題を抱えている。この現状では、政府による財政支出や減税が、嘗てなく大きな意味を持つ。今のところ、トランプの解決案は概ね、民間部門に対する税制上の優遇措置を重視しているように見える。空調機器大手『キヤリア』との交渉で、インディアナ州の工場移転を阻止したのは、その一例だ。一方、多くの地域で起きている急激な雇用喪失に対する本格的な対策は、どちらかといえば優先順位が低いようだ。この問題は、大統領選でトランプの勝利を後押しした要因なのだが…。

20170110 22
『国際通貨基金(IMF)』の元チーフエコノミストであるオリビエ・ブランシャールによれば、キヤリアの例のようなトランプが喧伝する官民協力は、正しいアプローチではない可能性がある。「少なくとも、一部を民間資金に頼る可能性があるプロジェクトに注力するのは、“悪い公共投資”になる恐れがある。インフラの修復・保全や公益性の高い事業のほうが、経済的効果は小さくても、社会的な恩恵は大きいかもしれない」。ビジネスの取引手法を政治の世界に持ち込もうとするトランプのやり方も、大きな懸念材料だ。ニュージャージー州アトランティックシティーのカジノを巡る交渉では上手くいった手法かもしれないが、中国の地政学的思考との相性がいいとは限らない。キヤリアとの取引は、「メキシコへの雇用流出の一部を阻止する為」という名目だったが、「それと引き換えに、州政府が700万ドルの減税措置を講じる」というものだった。トランプのミクロ経済的ビジョンが、マクロ経済的には酷い悪手であることを示す好例だ。多くのアナリストによれば、トランプのやり方は、他社からの優遇措置の要求と、更なる国外への雇用流出の脅威を齎すだけだ。注目度はそれほど高くないが、潜在的には更に重要なのが、反移民・反イスラム・反ユダヤの要素を色濃く持つイデオロギーの社会的影響だ。この種の差別主義は、アメリカ史の汚点として忌み嫌われているだけでなく、「経済成長にも悪影響を与える」というのが定説だ。今や、「アメリカ国内の社会的緊張は、公民権運動の時代以来、最も高いレベルにある」という説もある。消費支出と企業の投資を促すとは言い難い環境だ。確かに、石油や鉄鋼等、トランプの大盤振る舞いの恩恵を受ける一部の保護された産業部門は、この先も暫くは活況に沸く可能性がある。短期的な株価急騰の一因は、この見通しのせいかもしれない。12月の住宅建設業界の景況感指数は急上昇した。勿論、「“不動産王”の政権が、不動産価格に好影響を与える」と見込んでいるからに他ならない。富裕層が減税の恩恵を受けることも、彼らが多くの株式を保有していることも事実だ。こうした理由から、ダウ平均は押し上げられている。だが、それも“今のところは”の話だ。投資家の皆さん、“暴走列車”から飛び降りるタイミングにはくれぐれもご注意を。 (『ピーターソン国際経済研究所』 ペドロ・ニコラシ・ダコスタ)


キャプチャ  2017年1月3日・10日号掲載

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