【仁義なきメディア戦争】(08) 『日本経済新聞』×『フィナンシャルタイムズ』は世界で戦えるか?

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『日本経済新聞社』がイギリスの高級経済紙『フィナンシャルタイムズ(FT)』を含む『FTグループ』を買収してから約1年になる。買収額は、日本のメディア企業による海外買収で過去最大の8億4400万ポンド(当時約1600億円)。日経曰く“読者数で世界最大の経済メディア”は、激変する世界のメディアビジネスを勝ち抜けるだろうか。日経とFTは、以前から共同イベント開催や記事の相互利用等の協力関係にあり、日本でのFTの印刷・配達も日経が手掛けている。買収後、FTの東京支局は大手町にある日経本社ビルに移動。シンガポール支局も日経とオフィスを共有している。2018年には、FTのロンドン本社と日経の欧州総局が、FT旧本社ビル『ブラッケンハウス』に仲良く収まる予定だ。人材交流も、今年初めから本格化している。概ね数ヵ月単位で、両社の記者・編集者が互いのオフィスに勤務する仕組みで、これまでに25人が参加。互いのジャーナリズム手法や抱える課題を学び合う。共同編集の一例が、5月末に開催された『G20伊勢志摩サミット』だ。日経のサミット取材班が、FT記者と共同取材をして紙面を作った。FTは、世界でもデジタル化に成功した新聞メディアと言える。先月上旬時点で、購読数(紙版と電子版の合計)は80万を超えた(前年末比8%増)。この内、4分の3を占める電子版に限れば12%の増加で、紙の発行部数下落を電子版の拡大が埋めた(左表は1紙を回し読みするケースも考慮した読者数)。

躍進の秘訣は、2007年に導入した“メーター制”。電子版は、記事を一定本数まで無料で閲読でき、それ以上は有料契約が必要というもので、FTは無料閲読本数を巧みに上下させることで購読者を増やしてきた。昨年からは、1ポンド(約130円)で4週間閲読できるお試しサービスを展開している。閲読ライセンスは5000を超す企業に販売され、学生向けに月11.48ポンドのプランもある。同時に、有料の壁から“漏れる”部分も残す。『Google』・『Facebook』・『twitter』等のソーシャルメディアから流入してきた場合、月に数本を無料で読めるようにしている。『Apple』のアプリ『ニュース』にも、昨年11月から参画した。現在の収入の中で、コンテンツと広告の割合は6対4。2015年のデジタルコンテンツによる収入は、前年比15%増加したという。編集作業も、数年前から“デジタルファースト”にしている。600人のジャーナリストを抱える編集室は、人員の殆どが電子版制作を主とし、紙版は専従のエディターを含む少人数のグループが作る。紙版が主であった頃は、真夜中の最終版締め切りに合わせて、記者は午前10時頃から出勤していた。だが今は、24時間ニュースを出していく放送局のように、常時ニュースを制作し、デジタルで流す方式を取る。グローバルな拠点の朝に合わせて推薦記事を数本送る“ニュースレター”を書く為、午前6時から最初のシフトの記者が社に入る。記者や編集者は、ソーシャルを含めたマルチプラットフォームに、どの記事をいつどのようにして出すかについて、11人構成の“オーディエンスエンゲージメントチーム”と相談しながら決めていく。チームのキャップであるルネ・キャプラン氏が中心となって考案したダッシュボード“ランタン”を、記者・編集者・販売部等、全ての人員・部署が見られる。どの記事がどれくらいのページビューを集めたか、読者がどこから流れてきたか、ソーシャルメディアの関与率はどれぐらいかがわかるという。チームのメンバーが先月から日本に出張し、日経にもノウハウを注入している。「メディア界で生き残る為には、デジタル化を率先するしかない」――。欧米の主要メディアは、どこもそう考えている。先月初旬、FTはウェブサイトを刷新し、最短1.5秒、モバイルでは2.1秒で画面が表示されるようにした。“世界でも最も表示が早いサイト”の1つだという。

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日経の喜多恒雄会長(右画像中央)は、今年4月にロンドンで開かれたFTのイベントで、会場から買収価格の評価について聞かれ、こう答えている。「日経が10年後・20年後に生き残るには、グローバル展開しかない。日本は人口が減っている。『必要だ』と思うものを手に入れる。高い安いの問題ではない」。イギリスのメディア調査会社『エンダース』のダグラス・マッケイブCEOは、「FTは金融業界・政界に信頼され、知的レベル・ジャーナリズムの独立性・論考の多彩さでトップクラス。日経がグローバルなリーチをする為の重要な足掛かりだった。価格は正当化できる」と話す。FTの元親会社『ピアソン』は教育系の出版社。それに比べれば、「ジャーナリズム関連に、より大きな投資が行われるだろう」(同)。FTのアジア太平洋地域マネジングディレクターであるアンジェラ・マッカイ氏は、日経傘下に入った利点として、“尊敬する、価値観を共有する企業が、所有者兼ビジネス上のパートナーになったこと”を挙げる。「FTはイギリス、ヨーロッパ、アメリカに展開したが、日経は主にアジア太平洋地域にリーチする。共同イベントの拡大等、この地域で収益を上げる方策を一緒に考えている。日本で購読者を増やす為の対策も来年に実現させたい。競合相手は全てのメディア。“デジタルの爆発”が起きている」。つまり、「FTの競合がニューヨークタイムズやウォールストリートジャーナルだけだと考える時代は終わっている」という認識だ。「近い将来、新聞メディアは次第に規模が縮小していくだろう」とマッケイブ氏は予想する。「経費カットで凌ぐやり方は通用しなくなってきた。複数の新聞が印刷機・経理部・営業部等を共有するのも手だ。既存のビジネスを維持するのではなく、ゼロベースでニュースのコンテンツ作りを考えるべき」(同)。生き残りの為のバトルが、来年も続きそうだ。 (取材・文/在英ジャーナリスト 小林恭子)


キャプチャ  2016年11月19日号掲載

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