【「佳く生きる」為の処方箋】(34) 新しい年も“患者ファースト”で

東京オリンピック招致の際に世界にアピールされた日本の心、“おもてなし”。英語に訳すと“ホスピタリティー”となりますが、これは病院を意味する“ホスピタル”と語源が同じ。おもてなしも病院も、根本にあるのは人を温かく思いやる心という訳です。ところが、病院に対しては、「3時間待って3分診療」「医師は患者の顔も碌に見ずにパソコン画面ばかり見ている」等といった批判が聞かれるのも事実。病院が本来あるべきホスピタリティーを失っている訳で、これは由々しき事態です。病院は原点に戻り、ホスピタリティーをもっと大事にしなければなりません。ホスピタリティーの実践例として私が先ず思い浮かべるのが、JR東京駅で見た新幹線の車内清掃です。月に2回、仙台の病院で手術をする為に東北新幹線を使うのですが、初めてその光景を見た時は本当に驚きました。到着した新幹線から乗客が降りて、次の乗客が乗り込むまでの僅かな時間に、清掃スタッフが統制の取れた動きで車内をみるみる綺麗にしていく。しかも、彼らは清掃後、ホームに並んでお辞儀をしながら、出発する新幹線を見送ってくれるのです。これぞホスピタリティーと大いに感じ入りました。メディアでも“奇跡の7分間”等と紹介されましたから、ご存知の方も多いでしょう。利用者に気持ちよく新幹線を使ってもらい、「また次も乗りたい」と思ってもらう。飽く迄も主役は利用者。これは、医療においても全く同じです。主役は患者さんであり、医療従事者ではないのです。病院の第一の使命は診断と治療をして病気を治すことですが、ただ「治せばいい」というものではありません。患者さんの心情を思いやり、どうしたら満足してもらえるかを常に考え、実行する。このホスピタ リティーの心が、医療全体の質を上げる潤滑油になります。

前回紹介した医師の側から挨拶と自己紹介をする取り組みも、その1つです。他にも色々と知恵を出し合っており、早速、今年から始めようと動いているのが、薬の宅配です。『順天堂医院』の場合は院内処方ですから、患者さんは診察が終わっても、薬が出るまで暫く待たなくてはなりません。それが、病院から自宅へ直接、薬を届けられるようになれば、待ち時間が随分減ります。薬の量が多い患者さんもいますから、手荷物も減って助かるでしょう。現在、薬剤情報の伝達義務の課題をクリアにする等、対策チームが実現に向けて頑張っています。当院では毎年、『患者さん満足度調査』を実施していますが、やはり不満が多いのは待ち時間の長さです。1日約4000人の外来患者を抱えますから、一朝一夕に解決するのは難しいですが、1つ挑戦しているのが、待ち時間を“滞在時間”に変える試みです。違いは患者さんの受け止め方。待ち時間は“無駄な時間”であり、滞在時間は何かをする為に“必要な時間”という位置付けです。例えば、心臓血管外科では以前から待ち時間の有効活用をしてきました。血液検査やレントゲン検査等をすると、結果が出るまで待たなくてはなりませんが、その時間を使って他の検査もしてしまうのです。その日にできる検査は、その日の空いた時間を活用して済ませる。通常は、病院の都合で“後日改めて”となる例が多いのですが、病院ではなく、患者さんの都合を優先する訳です。勿論、後日のほうが都合がよい患者さんにはそのようにします。この“患者都合優先”を、他科にも広げようとしているのです。東京都の小池百合子知事は“都民ファースト”を掲げましたが、病院は“患者ファースト”が大前提。年初に当たり、その思いを新たにしているところです。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2017年1月12日号掲載
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