【トランプ氏の世界】(01) 予測不能な外交始動――フレッド・ハイアット氏(『ワシントンポスト』論説委員長)

アメリカで、既存の世界秩序や伝統に囚われぬドナルド・トランプ次期大統領が、今月20日に登場する。2017年は世界の安全保障や経済が揺らぎ、アメリカを中心とする戦後の世界秩序が大きく変わる可能性がある。不透明感が強まる世界の展望を、各地の識者に聞いた。

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トランプ氏が主張する“アメリカ第一”の立場が、世界にどのような意味を持ってくるのか、今のところわからない。バラク・オバマ大統領もそうだったように、「アメリカ経済を強くすることがアメリカのリーダーシップにとって最も重要だ」という立場かもしれないし、国際機構や同盟に対する関与を弱め、『北大西洋条約機構(NATO)』や日米同盟について、過去のアメリカの政策とは全く異なる立場を取るかもしれない。トランプ外交では、“予測不能さ”が重視されるだろう。予測不能であることは、「敵に対してアメリカの出方を読ませない」という意味では有用だが、リスクもある。若し、同盟国がアメリカを頼りにしていいかどうか自信を持てなければ、他の大国と何らかの取り決めや取引をして保険をかけようとするかもしれない。そうなれば、地域は不安定になり、アメリカの利益に反することになる。明確な立場を語らないとどのようなリスクがあるのかを示す例として、“アチソンライン”を挙げたい。ディーン・アチソン国務長官は1950年1月、アメリカの防衛線を語った時に韓国を含めなかった。そう間を置かずに、北朝鮮が韓国に侵攻した。若し防衛線に韓国を含めていれば、ソビエト連邦・中国・北朝鮮は異なる判断をしたかもしれない。オバマ氏は尖閣諸島について、「日米安全保障条約の対象になる」と非常に明確に述べた。トランプ氏が国防長官に起用する元中央軍司令官のジェームズ・マティス氏は、長年に亘って同盟国と共に仕事をしてきた。

現時点で、トランプ政権が安保条約をこれまでとは異なって解釈すると考える理由は無いが、立場を明確にしないことによってリスクが生じる可能性はある。在日アメリカ軍駐留経費の日本側負担についても、トランプ氏が大統領になった後、日本が既にどれだけの貢献を行い、(それによって実現している)太平洋と東アジアにおけるアメリカ軍の前方展開が如何にアメリカの国益にとって不可欠かについて、認識してくれることを望む。「同盟国の貢献が十分ではない」という不平はこれまでもあったが、「同盟関係は単なる財政的な契約ではない」と認めることも重要だ。トランプ氏は、「核戦力を強化する」と自身のツイッターで述べた。核政策は極めて深刻な問題で、発言1つにも慎重な配慮を払うべきだ。彼が核弾頭を増やすつもりなのか、現政権もやっている近代化に取り組むだけなのかはわからない。何れにしても、ツイッターで呟くのではなく、より熟慮された声明で対処するべきだ。米中関係は今、不公平なやり方で不均衡な状態にある。トランプ氏が台湾との関係を含めて「新たな取引が必要だ」と言うのは、わからない訳ではない。ただ、(「台湾を中国大陸の一部だ」と見做す)“1つの中国”政策には歴史があり、アメリカが中国の意向に反することをやれば、中国が台湾に対して何かするかもしれない。トランプ氏は、そうした可能性を全て検討しているようには見えない。アメリカのリーダーシップは、人権・自由経済・公正で開かれた貿易といった、他国と共有する価値観に基づく場合に最も強くなる。我々は、「オバマ大統領が、(共産主義体制の)中国等との関係において、このような価値観を十分に尊重していない」と批判している。しかしトランプ氏は、オバマ氏よりもこうした価値観を尊重する度合いが低そうだ。『環太平洋経済連携協定(TPP)』からの離脱は、アジアにおけるアメリカのリーダーシップの支柱を無くすことを意味し、大きな誤りだ。(アジアという)フィールドを全て中国に譲り渡したいのでなければ、トランプ氏は何らかの代替措置を取らなければならない。

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■勝利後、異例尽くし
トランプ氏は、昨年11月に大統領選で勝利した後、外交問題についてツイッターで度々、意見を表明している。次期大統領が就任式前に外交に口を挟むこと自体が極めて異例だが、その主たる方法がツイッターであることも前例が無く、批判が出ている。一方、トランプ氏は大統領選後、 記者会見を一度も開いていない。トランプ氏が、大統領就任後もこうしたスタイルを続けるのか、注目が集まっている。

■ビジネスとは違う  小川聡(本紙アメリカ総局長)
「手持ちの力ードをできるだけ増やし、相手に手の内を見せずに、強気の交渉で利益を勝ち取る」――。トランプ氏が約30年前に出版した自伝で説いた“取引のワザ”だ。トランプ氏は、オバマ政権の外交について、「あまりに予測し易い。喋り過ぎだ」と批判する。外交でも、「“予測不能”であることが強みになる」と信じているのは間違いない。ただ、成り行き次第で手を変えたり、引いたりすれば済むビジネス取引と、外交は異なる。ハイアット氏が指摘するように、失敗すれば紛争や同盟の弱体化を引き起こしかねず、大きな代償を伴う覚悟が必要だ。トランプ氏は、オバマ政権の対露・対中政策を大きく転換しそうだ。世界秩序の流動化は避けられない。


⦿読売新聞 2017年1月3日付掲載⦿

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テーマ : 国際政治
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