【中外時評】 ロシアが望む米国像――“リーダー役退場”実は懸念

退任を控え、土壇場で堪忍袋の緒が切れたのだろうか。アメリカのバラク・オバマ大統領は、「大統領選中にロシアがサイバー攻撃を仕掛けた」と激しく非難し、遂には昨年末、在米ロシア大使館等に勤務していた35人もの情報機関職員を国外追放する報復措置をとった。アメリカの情報機関はサイバー攻撃について、「ウラジーミル・プーチン大統領が指示し、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)等が関与した」とする報告書を公表。「その狙いは、民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官の大統領当選を阻む為だった」とする。それを踏まえればオバマ大統領の憤りは当然だが、「根深い対露不信は、同政権下で大きく冷え込んだ米露関係を改めて象徴した」とも言える。名指しで批判されたプーチン大統領の反応はどうか。昨年末の記者会見では、オバマ大統領の対応に不快感を表明。「負けた側は常に外部に犯人を求めるものだが、原因は自らの中に探すべきだ」と余裕の表情で語り、サイバー攻撃への関与も否定した。ロシア人職員の大量追放というアメリカ側の措置には「対抗策を打ち出す」とみられたが、プーチン氏が直後に発表した声明は、「我々はアメリカの外交官らに問題を起こすことはしない」。それどころか、ロシアに駐在するアメリカの外交官の全ての子供たちを、クレムリンで開く新年とクリスマスのイベントに「招待する」と約束したのだ。勿論、無条件で対抗手段を講じなかった訳ではない。声明は、相応の報復措置を行使する権利を留保しつつ、今月20日に発足するドナルド・トランプ次期政権が、米露関係改善にどこまで取り組むかを注視する姿勢を明示したのだ。そのトランプ氏は、サイバー攻撃へのロシアの関与を認めたものの、米露の“良好な関係”の構築には意欲的だ。トランプ氏の醜聞を握っているかどうかは兎も角、ロシアが同氏の当選を望んでいたのは疑いない。プーチン政権が今回、対米報復措置を控えたのも、次期政権への期待の表れと言えるだろう。

では、米露関係は本当に改善するのだろうか。ロシアの著名な国際政治学者であるフョードル・ルキヤノフ氏は、「クリントン、ブッシュ、オバマ氏も含めて、冷戦後のアメリカの全ての指導者はロシアの変革を求めてきた。それが関係を不安定にさせる主因だった。トランプ氏は、ロシアがどうなろうが関心が無い」と指摘。その意味で、「米露首脳は理解し合える仲にはなるだろうが、互いの関心事は大きく異なり、米露関係が質的に大きく改善するとは期待し難い」と予測する。一例として挙げるのが、中国への対応だ。「トランプ氏がプーチン氏に中国と緊密に協力しないよう求め、米露が協調して『中国を圧迫すべきだ』と主張するのは明らかだ」と語る。いくら米露関係を改善したくても、経済を中心に中国と緊密な関係にあるロシアにとっては無理難題となる。米露関係を専門とする『ロシア国際問題評議会』のアンドレイ・コルトゥノフ会長も、「トランプ政権の誕生は、米露関係にとってプラスとリスクの両面が併存する」とみる。プラス面は、トランプ氏の親露的な言動に加え、共和党政権のほうが伝統的に米露外交が進め易い点だ。また、トランプ氏はオバマ大統領やドイツのアンゲラ・メルケル首相のような原則論者ではないので、「プーチン氏とは具体的な案件を巡って気軽に話ができる」。半面、トランプ氏に外交経験が無く、周囲に経験豊富で有能な人材もいないのがリスク要因とする。更に、同会長が最大の懸念要因に挙げるのは、意外にも「アメリカが世界のリーダー(指導者)の役割から退場する」ことだ。プーチン政権は予て、アメリカ主導の国際秩序を批判し、多極化世界の構築を呼びかけてきた。ロシアは実際、シリア和平や原油減産の調整役を担う等、国際社会で存在感も誇示する。アメリカが世界の指導者役から退けば、何よりウクライナ危機を受けた対露圧力が緩和される可能性も芽生える。それなのに、大きな懸念要因となるのは何故か。例えば、アメリカ軍がアフガニスタンから撤退すれば、イスラム原理主義がロシアに波及するリスクは高まる。イランの核合意が反故にされれば、核拡散の懸念が強まる。世界の自由貿易が後退し、国際金融市場が混乱すれば、ロシア経済にも悪影響が及ぶ…。「ロシアは中国と同様、国際秩序の一翼は担えても、アメリカの代役は務まらない」(前出のルキヤノフ氏)。世界でのアメリカの指導力がある程度弱まるのは歓迎するが、完全な退場は決して望まない――。ロシアが抱えるジレンマである。 (論説副委員長 池田元博)


⦿日本経済新聞 2017年1月15日付掲載⦿
スポンサーサイト

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR