【Global Economy】(19) 保護主義、世界のリスク…トランポノミクス効果を探る

アメリカのドナルド・トランプ次期大統領は記者会見で、「アメリカに雇用を創出する」と強調 した。“トランポノミクス”は、アメリカ経済にどんな効果を及ぼすか。『日本総合研究所』の井上恵理菜研究員に、想定されるシナリオを分析してもらった。

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現在のアメリカ経済は自律的な回復局面にあり、新たな財政政策を行わなくても、2%程度の成長率は実現できる状況にある。トランプ氏は、法人税や所得税の減税やインフラ(社会資本)投資等、大規模な財政政策を掲げている。公約通りに実行されれば、アメリカ経済の成長ペースが加速する見込みだ。ただ、トランプ氏が主張する財政政策を全て実行すると、今後10年間に公的債務が7兆ドル(約800兆円)増え、アメリカの財政赤字が大幅に拡大してしまう。減税やインフラ投資の実現には、アメリカ議会での立法が必要だ。元々、財政規律を重視する議会共和党がどこまで認めるか、不透明な面もある。トランプ氏は11日(日本時間12日)の会見で、中国・日本・メキシコとの貿易赤字を問題視する姿勢を強調した。メキシコやカナダと結ぶ『北米自由貿易協定(NAFTA)』の再交渉等、保護主義的な政策は、国境を越えた分業体制を構築しているアメリカ企業には不利益になったり、アメリカ国内の物価が上昇したりする問題がある。トランプ氏が公約を実行する度合いに応じて、アメリカの景気の動向を試算した。最も実現可能性が高いと想定される“メインシナリオ”、景気拡大が加速する“上ぶれシナリオ”、景気が落ち込む“下ぶれシナリオ”の3つのケースだ。“メインシナリオ”では、財政政策は「公約の“10年間で7兆ドル”の内、3割程度が実施される」とする。通商政策は、「NAFTAの見直しや“国境税”導入について、可能性は示唆しつつも具体化はされず、相手国毎に2国間の通商協議が進む」とする。この場合、財政出動による景気押し上げ効果は一定程度に止まる。一方、保護主義政策によるデメリットは小さくなる。その結果、「今年後半の成長率は2%台後半になる」とみられる。『国際通貨基金(IMF)』によるアメリカの昨年の成長率見込みは1.6%なので、現状よりは景気は上向く。

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“上ぶれシナリオ”では、財政政策は「公約の7割程度が行われ、保護主義的な政策は実行されない」とする。このケースでは、「今年後半の成長率は3%台半ばになる」と想定される。非常に高い成長が実現する。“下ぶれシナリオ”では、財政政策は「公約の3割程度が行われる」とする。通商政策は、「保護主義の姿勢を強め、NAFTAの見直しに着手し、中国やメキシコに対して“国境税”を導入する」と想定した。このシナリオでは、「財政政策による一定の景気押し上げ効果はあるものの、保護貿易によるマイナス効果も出る為、今年後半は1%台の成長に止まる」と見込まれる。トランプ氏の主張には問題点も多い。保護主義の通商政策は、相手国が報復措置を取る可能性がある。アメリカにとっては、輸出が減少し、輸出企業の業績が悪化して、アメリカ国内の投資が落ち込む。輸入品の価格は上昇し、国内の物価が上がるリスクがある。また、アメリカの生産年齢人口は、移民が流入しなければ減少に向かう状況にある。トランプ氏が移民を排斥する動きを強めれば、働き手が減り、アメリカの成長率を下げる要因となる。仮に、トランプ氏が主張する財政政策を議会共和党が容認し、公約に近い形で具体化すれば、財政赤字は拡大するものの、3%を超える高い成長率が実現する可能性がある。だがその場合、アメリカの景気が過熱気味になり、『連邦準備制度理事会(FRB)』が利上げを年4回実施する可能性すら出てくる。アメリカの金利が上昇し、ドル高が進めば、アメリカからの輸出に一段とブレーキがかかる上、新興国からの資金流出が加速して新興国経済が悪化し、世界経済が混乱する恐れが高まる。アメリカ大統領選におけるトランプ氏勝利の背景には、アメリカ社会の二極化がある。二極化の主因は、アメリカの雇用の主体が製造業からサービス業へ移行したことだ。トランプ氏の政策では、「二極化は是正されない」とみられる。「富裕層が豊かになれば、その恩恵が低所得者にも及ぶ」とする“トリクルダウン”に頼り過ぎず、人々の賃金が増えるようにすることも必要だ。

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■アメリカの製造業、足腰に打撃
2008年のリーマンショック以降、先進国の経済は低成長が続く。各国の政府や企業には、経済の実力を高められるかどうかが問われている。人工知能の開発等、第4次産業革命に産業界が懸命に取り組むのもその為だ。だが、現在の“トランプ相場”は、“実力”とは直接関係がない。インフラ投資等の財政政策は、実力が高まるまでの“時間稼ぎ”の為に、国がお金を出して当面の仕事を作るものだ。それどころか、トランポノミクスはアメリカの製造業の足腰を弱めてしまう虞がある。各国の企業は、より低コストで価値の高い製品やサービスを生み出す“生産性”の向上に凌ぎを削っている。アメリカが海外からの輸入を制限する動きを強めれば、一時的にアメリカの雇用は増えるかもしれないが、企業のコストは上昇し、ものづくりの効率は悪くなる。前出の井上氏が指摘するように、新大統領がこのまま保護主義の姿勢を強めれば、トランプ相場は下落に転じる可能性がある。 (本紙編集委員 山崎貴史)


⦿読売新聞 2017年1月13日付掲載⦿

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