【2017・問う】(03) 今そこにある危機、日米と中国の緊張懸念――ジャック・アタリ氏(経済学者)

20170117 05
世界は重苦しい傾向にある。社会は分裂し、且つ閉鎖的になってきた。そのことは、イギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱を決めた国民投票を含む各国の投票結果として表れている。だから、私はアメリカ大統領選で「トランプ氏が勝つ」と予想した。この傾向は今後も続く。トランプ氏の勝利に失望する人々がいるが、同氏は民主的に選出された。アメリカの民主主義は機能している。しかし、“アメリカ第一”を強調する同氏は、開かれた社会や国際主義に対する脅威である。“ナショナリズムの台頭”という脅威だ。今日の世界は、1910年頃の世界と比較できる。当時も科学技術は進歩し、民主主義は機能し、グローバル化が進行していた。世界が民主的で満ち足りた発展を手にすることも可能だった筈だが、閉鎖的なナショナリズムの台頭が野蛮を産み落とした。2度の世界大戦だ。今日の世界も、自らを閉ざそうとしているように見える。私の考える2017年最大の脅威は、日米と中国の紛争だ。トランプ氏は、ロシアを“友”、中国を“敵”と見做している。南シナ海で人工島を建設する中国の動きや、核・ミサイル開発を強行し続ける北朝鮮の動き等を加算すると、アジアは爆発寸前の状況にある。東シナ海と南シナ海で起こり得る全てのことが心配だ。大きな危険がそこにある。若し将来、日米と中国が戦争に至る事態になれば、世界戦争に拡大するだろう。そうならないように、私たちは今、脅威の存在をしっかりと知っておく必要がある。軍事的な火種は、この他に5つ。ロシア対ウクライナ等の旧ソビエト連邦圏・インド対パキスタン・中東・アフリカ中央部、そしてイスラム過激派組織『IS(イスラミックステート)』。ISはイラクで支配地域を失うかもしれないが、リビア等、別の国で新たな支配地域を得るに違いない。そして、更なるテロが起きる。並外れた数の難民・移民が発生する。世界は緊張を孕み、不安定になる。だが、“世界の警察官”はいない。アメリカはバラク・オバマ政権時代、その役回りから降りている。『アラブの春』の後に軍事クーデターの起きたエジプトに介入せず、化学兵器を自国民に使用したシリアのバッシャール・アル=アサド政権を叩かなかった。アメリカは既に、世界から手を引きつつあるのだ。私は2006年、アメリカが撤退する世界に警鐘を鳴らしたが、現実のものになりつつある。

固体の積み荷を運ぶ船で、積み荷が液体に急変したら、運航は危うくなり、最初の横揺れにも耐えられまい。民主主義諸国で今、民意は瞬時に急変し得る。昨白選ばれた指導者が、今日は見捨てられる。ポーランド出身でイギリスに住む偉大な哲学者であるジグムント・バウマン氏の言葉を借りれば、現代世界は“液状社会”になっている。そこに、“ポピュリズム(大衆迎合主義)”の波動が生じる余地がある。アメリカが世界から撤退することで、世界は益々不安定になる。既に、世界中で暴力への回帰が起きている。だが、アメリカに取って代われる国は無い。中国は地域大国としての野心はあるが、世界の大国になる野心は無い。中国には、インド・アフリカ・ヨーロッパ・南米の紛争に際し、審判役を引き受ける意思は無い。ロシアには、その意欲はある。だが、真の目的はロシアを安定化することにある。「不凍港への到達手段を確保する」という思惑もあろう。「自らの責務は地球大に広がっている」と自覚する大国が無い。そのことが危険なのだ。脅威は多い。経済的には、世界的危機を招きかねない脅威は、2017年に6つある。先ず、中国のバブル崩壊。次に、国際貿易紛争。これは、アメリカとヨーロッパで保護主義が進行する場合に発生し得る。第三は、イタリアの銀行破綻に端を発するヨーロッパ危機。ユーロ圏は依然として不完全で、危うさを備えている。弱いユーロを望むフランスと、強いユーロを望むドイツの相違が目立ってきている。第四は、債務危機。日本も他人事ではない。続いて、アメリカ発の金融危機。最後に、原油価格を巡る危機だ。しかし、悲嘆に暮れるべきではない。物事の悪い面だけを見てはいけない。中国とインドで、今後も中間層が拡大する。アフリカの中間層も増える。その結果、大きな市場が誕生する。科学技術は更に進歩する。アメリカは今年、力強い成長を見せるだろう。アメリカはヨーロッパ・地中海・中東から撤退していくだろうが、それはヨーロッパにとって福音でもある。ヨーロッパにとって、自らの防衛は死活的に重要だ。防衛を成功させるには、ヨーロッパの団結が不可欠だ。アメリカがいなくなることになれば、ヨーロッパの国々は一緒になって行動を起こす。従来、滞ってきた統合が前に進み、ヨーロッパが再び国際政治に重みを持つことが可能になる。確かに、イギリスがEUを離脱すれば、EUは軍事大国を1つ失うことになる。ただ、離脱は2年先で、未だ時間がある。決まった訳ではない。ヨーロッパの市民も、防衛費の増額には賛成するだろう。頼みのアメリカがいなくなるのだから。市民は安心を求めるものだ。日本も防衛費を増やすことになるだろう。脅威のレベルを減じる為にも、ヨーロッパは敵を減らすべきだ。私は、「対露接近が必要だ」と思っている。 (聞き手/編集委員 鶴原徹也)

20170117 06
■災害・感染症への備えは十分か?
災害・感染症・テロ――。私たちの暮らしは、いつ襲ってくるかわからない“脅威”と背中合わせだ。今から100年近く前、史上最悪のインフルエンザ『スペインかぜ』の上陸地となり、今日、度重なるテロに震えるフランスを歩いて、脅威の実相を見つめた。ブルターニュ地方ブレスト。切り立った岩に囲まれた入り江は、天然の要塞だ。フランスの戦略ミサイル潜水艦の基地が置かれている。1917年に第1次世界大戦参戦を決めたアメリカ軍が、大西洋を渡ってヨーロッパに進軍する拠点になった。「アメリカ軍の船は、100万近い兵と一緒にスペインかぜも持ち込んだ」。湾を見下ろす海軍博物館で、責任者のジャンイブ・べセリエブル氏が説明した。スペインかぜはアメリカで発生した。アメリカ兵と共にブレスト等からヨーロッパに入った後、世界中に広がり、1918~1919年に5000万人の死者を出した。この名が付いたのは、各国が感染を軍事機密として隠す中、情報統制の無いスペインからニュースが発信された為だ。「スペインかぜを過去の出来事と片付けてはいけない。今日も、新型の感染症が現れれば、大きな被害に繋がる」。近代細菌学の開祖であるルイ・パスツールが19世紀末に創設したパリの『パスツール研究所』で、感染症対策の部門長であるジャンクロード・マヌゲラ博士が警告した。森林破壊でコウモリ等の野生動物が人里に近付き、動物のウイルスが人に飛び移る機会が増えているという。それが深刻な感染症を引き起こす可能性がある。

20世紀の医療を劇的に変えた抗生物質は、耐性菌の出現で今後、次々と効かなくなり、治療手段が無くなる恐れがある。抗生物質の新薬開発は進んでいない。未知の感染症の出現・拡大に拍車をかけるのが、蚊の生息域北上等を招いている地球温暖化だ。パリの市立美術館では、今月中旬まで『平和の芸術』展が開かれている。歴史上、幾多もの戦乱を経たフランスの和平の取り組みを、外交文書等で辿る趣向だ。フランス王とドイツ王が相互協力を誓った9世紀の『ストラスブールの誓約』原本で始まり、2015年の『国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)』閉幕式で、議長であるフランスのローラン・ファビウス外務大臣が打ち下ろした木槌で締め括られる。木槌は、“温暖化対策は安全保障そのもの”というフランス政府の考え方を象徴している。会議で纏められた『パリ協定』は、地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満、できれば1.5度に抑える目標を定めた。しかし、『世界気象機関(WMO)』によると、昨年の地球の平均気温は、産業革命前と比べ既に1.2度の上昇で、観測史上最高を更新する見通しだ。温暖化に伴う異常気象現象は、2016年も世界各地で頻発した。台風10号は8月、東北や北海道で大きな被害を齎した。大型ハリケーン『マシュー』は、10月にハイチを襲って、500人以上の死者を出した。そうした中、アメリカで温暖化対策に懐疑的な発言を繰り返してきたトランプ大統領が就任する。「石油・石炭企業は、温暖化を否定する宣伝を熱心に行ってきた」。『フランス気候環境科学研究所』の上級研究員であるバレリー・マソンデルモト博士は、エネルギー産業と親密なトランプ政権の下で、アメリカの温暖化対策が後退する懸念を口にする。アメリカが抜ければ、中国やインドもパリ協定に背を向けるのは避けられない。 (編集委員 石黒穣)

20170117 07
■イスラム過激主義は排除できるのか?
気候変動は、世界で地域情勢を不安定にしている。シリアを含む“肥沃な三日月地帯”は、2007年から数年間、観測史上最悪の干ばつに見舞われた。カリフォルニア大学の研究者らは、「干ばつがシリア内戦に繋がった」とする論文を発表している。「耕作地を捨てた農民の都市への大量流入による社会の緊張が、導火線になった」という。内戦による地域混乱は、ISの台頭を許した。その暴力を理由の1つに、大量の難民がヨーロッパを目指す。それが、ヨーロッパで移民排斥を唱えるポピュリズム勢力の拡張に繋がり、政治を不安定化させる。パリから列車で北西へ1時間半のサンテティエンデュルブレ。過疎の村の目抜き通りは、日中も人通りが少ない。それに沿って、石のカトリック教会がぽつんと立つ。昨年7月、アルジェリア系移民の流れを汲む地元の19歳の男が、仲間と2人でミサの最中に教会に押し入り、神父を殺害した。同国南部のニースで、大型トラックが花火見物客に突っ込んだテロから2週間足らずの事件だ。

男はISに参加しようと、シリア渡航を図って阻止され、警察の監視下に置かれていた。この凶行直後、ローマ法王が「これは戦争だ。1914年・1939~1945年に続く大戦だ」と発言し、「イスラム過激主義者のテロが第3次世界大戦に匹敵する」との強い危機感を表した。“テロリズム”という言葉は、1789年に始まる『フランス革命』で成立した革命政府の恐怖政治に由来する。そのフランスでイスラム過激主義者のテロが相次いでいるのは、歴史の巡り合わせだ。フランス国家警察の対テロ部隊副隊長を務めるジャンフランソワ・ゲイロー警視長は、「世俗主義・共和主義・自由主義と、イスラム過激主義者が忌み嫌う全てがフランスに凝集されている為だ」と分析する。無論、フランスだけではない。イスラム過激主義者が西洋的な価値全体を目の敵にする以上、日本も標的になり得る。イスラム過激主義者のテロは、いつまで続くのか。「イスラム過激主義は、聖典であるコーランが纏められた7世紀の社会への完全回帰を求める理念だ。イスラム社会の内側から、現代に即してコーランを読み直す取り組みが進まない限り、拭えない」。ゲイロー氏の見立てだ。「何世代もかかるだろう」という。「情報収集を充実させ、テロの芽を1つひとつ潰していくしかない」。長期に亘る備えを、改めて覚悟しなければならない。 (編集委員 石黒穣)

20170117 02
■サイバー攻撃、生活脅かす
サイバー攻撃の被害というと“情報漏洩”を思い浮かべがちだが、それだけではない。サイバー空間での攻撃が、我々の命や生活を危険に陥れることもある。電気・ガス・水道・交通等の重要インフラへの攻撃は増えている。ウクライナでは変電所が攻撃されて大規模停電が発生し、バングラデシュでは中央銀行が攻撃によって90億円を失った。フィンランドではマンションの管理システムが攻撃され、酷寒の中で暖房が止まる事態も起きている。様々なモノをネットワークに繋げるIoTの動きが進めば、脅威は更に高まる。海外に比べて比較的安全とされた日本のインフラ事業の現場でも、IoT機器の導入が進んでおり、従来型の対策を見直す必要が出ている。IoT機器は、攻撃者の“手先”にもなる。昨秋、『Amazon』や『ツイッター』のサービスを一時停止させる等、猛威を振るったウイルス『Mirai』は、ウェブカメラ等、世界に散らばる50万台以上のIoT家電を感染させて遠隔操作し、標的を一斉に襲わせた。IoTを悪用する攻撃はリオデジャネイロオリンピック中にも確認されており、東京オリンピックでは更に増えると見られている。IoT時代に必要なのは、“セキュリティーバイデザイン”の発想だ。製品が市場に出てからの対策は難しい為、設計段階からセキュリティーを重視する。その為には、開発する側と利用する側、双方のセキュリティー向上が求められる。 (編集委員 若江雅子)

■テロ標的、東京オリンピックも警戒
2020年の東京オリンピック開催を控え、国際的に“東京”の注目度が増す中、テロの標的となる脅威も高まっている。ヨーロッパで相次<テロは、その国で育った人物がイスラム過激派に感化される“ホームグロウン型”が目立つ。警察庁が警戒しているのが、ISのインターネットを駆使した広報戦略だ。警察幹部は、「日本でも、感化された人物が過激化する可能性は否定できない」と指摘する。同庁は昨年4月、インターネット上のテロ関連情報を自動収集する『オシントセンター』を設置。SNS等の書き込みを注視している。水際対策では、法務省が2015年10月に『出入国管理インテリジェンスセンター』を開設。昨年10月から、入国審査の際に撮影する顔写真と、テロリストらの顔画像との照合を始めた。政府はアメリカとの間で、テロリストら7500万人分の指紋が蓄積されたアメリカのデータベースに自動照会できる『重大犯罪防止対処協定』を締結。日米のシステム統合作業が進められている。繁華街等の“ソフトターゲット”への警戒も強化され、テロリスト制圧の専門部隊として、警視庁や大阪・愛知・福岡等の8都道府県警に『特殊急襲部隊(SAT)』を配置。東京都心では、テロリストを狙撃する訓練を受けた『緊急時対応部隊(ERT)』が24時間体制を取っている。北朝鮮は核・ミサイル開発を強行し、着々と性能を直上させている。制裁の国際包囲網に反発し、弾道ミサイル発射や6回目の核実験を強行する恐れもあり、迎撃ミサイル『SM3』を搭載したイージス艦や、地上配備型誘導弾『PAC3』で有事に備えている。 (社会部 吉田敏行)


⦿読売新聞 2017年1月5日付掲載⦿

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