宇宙ビジネス大競争時代、『テスラ』だけでない注目企業――拡大するビジネスの“場”、ドローンに不可欠な3D地図

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ロサンゼルス国際空港からハイウェーに乗り、車を走らせること約15分。ハイウェーを降りると直ぐに、3階建ての真っ白な巨大建築物が現れる。壁には“SPACE X”の文字。電気自動車(EV)メーカー『テスラモーターズ』の創業者でもあるイーロン・マスクCEOが2002年に設立したロケット開発会社『スペースX』の工場(右画像)だ。「死ぬなら火星がいい」。同社に勤める日本人技術者の桑田良昭氏は、マスクCEOが幾度となくこう発言するのを聞いた。同社が開発した商業用ロケット『ファルコン9』は、打ち上げコストを他社の半額に下げて、業界に価格破壊を齎した。これで同社は、新興企業ながら業界トップクラスに仲間入り。昨年9月の爆発事故により、打ち上げを一時中断したが、今月に再開した。価格破壊で重要な役割を果たしたのが、ロケットの再利用化だ。2015年12月、同社は世界で初めて、第1段ロケットの垂直着陸による回収に成功した。従来、ロケットは使い捨てだが、再利用が可能になればコストは下げられる。桑田氏は、この第1段ロケットの回収に不可欠な技術を開発した1人だ。技術者を鼓舞する為だろうか。マスクCEOは先の発言の後、決まってこう続けるという。「でも、死ぬのは寿命のせい。インパクト(ロケット事故)じゃない」。マスクCEOが、火星に人類を運ぶ『インタープラネタリートランスポートシステム(惑星間輸送システム)』の構築を宣言したのは、昨年9月のことだ。価格破壊で業界の常識を一変させた実績があるだけに、今回の新事業も実現する可能性はある。マスクCEOの本気は、火星輸送の事業計画からも推察できる。新事業の根幹にある戦略は、ファルコン9で採用したものと同じ。「輸送コストを一般の人たちが使えるレベルに落とし、利用を促進する」というものだ。

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その実現に向けて編み出した輸送方法がこうだ。この方法の大前提は、ロケットの機体全体が再利用可能であること。冒頭で触れたファルコン9での第1段ロケット回収は、全体ではなく一部分のみ。これを機体全体に広げる。火星まで到達するのに必要な燃料は、2回に分けて運ぶ。1回目では、人や物資を乗せた“宇宙船”をロケットの上部に載せて打ち上げる。そこで一先ず宇宙船だけを地球の軌道上に置いた後、ロケットだけを地球に帰還させ、燃料を積んだタンクを載せる。そしてまた打ち上げて、補給してきた燃料を宇宙船に追加する。燃料を2回に分けて運ぶのは、そのほうがロケットのサイズを小さくでき、使用エネルギーを削減できるからだ。その後、ロケットとタンクは再び地球に帰還させて、次の打ち上げの為に待機。宇宙船だけ火星へ向かう。この方法なら、「機体の初期投資費用を少なくでき、燃料費も大幅に削減できる」とマスクCEOは考えている。目指すのは、地球・火星間の輸送を航空機と同じビジネスに育てることだ。この発想は、至極単純な計算式に基づいている。航空機の本体価格は、『ボーイング737』で約9000万ドルで、1回に運べる人員は180人。仮に機体が使い捨てだとすると、1人を運ぶのに必要な費用は50万ドルに上る。だが実際は、ロサンゼルスからラスベガスまでの航空券は、格安のもので43ドル。機体を繰り返し使っているからだ。機体の初期投資の償却後、1人当たりの輸送コストは、ほぼ燃料代に等しい10ドルになる。チケットが43ドルでも、33ドルの利益を出せる訳だ。これと同じ収益モデルを火星への輸送で採用すれば、ビジネスになる。最初の輸送を実現する目標時期は22年だ。火星輸送が実現すれば、それに伴う関連ビジネスの領域は更に広がることになる。ビジネスの場が“地球周辺”から“別の惑星”に拡大するからだ。アメリカでは既に、それを見越したビジネスが生まれている。

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2009年設立の『プラネタリーリソーシズ』が狙うのは、宇宙で使える鉱物や水等の資源を小惑星から取り出す“資源発掘”だ。鉱物は月や火星で都市を建設する時の資材になるし、水は水素と酸素に分解すればロケットの燃料になるからだ。目指すは、未来の“資源メジャー”だ。同社は、この構想の第一歩として、小惑星が含む鉱物の内容や、水の含有率を遠隔から把握できる『リモートセンシング(遠隔観測)衛星』を開発した。将来は、採掘した資源を使って、月面等で機械やビルの建築資材を製造することも想定する。そこで使用するのが3Dプリンター。昨年1月、同社は隕石を材料に、3Dプリンターで構造物を出力することに成功した(右画像)。「宇宙資源開発は、SF小説の中だけの話ではない。直ぐそこまで来ている」(同社のクリス・ルイッキー社長)。俄かに信じ難い発言のようにも聞こえるが、そう考えているのはルイッキー社長だけではない。『Google』の共同創業者であるラリー・ペイジ氏に、同社の元CEOであるエリック・シュミット氏、映画監督のジェームズ・キャメロン氏に、実業家のロス・ペロー・ジュニア氏…。アメリカを代表する資産家たちがプラネタリーリソーシズに出資しているのは、「捨てるのを覚悟で、“夢”にカネを投じている訳ではなく、“確実なリターン”を期待している」(ルイッキー社長)からだ。昨年5月、機関投資家等から2110万ドルを調達。同年11月には、資源探査に力を入れるルクセンブルク政府から2500万ユーロを調達した。ただ、資源採掘や構造物の建築といったビジネスが軌道に乗るのは、かなり先になる。調達資金を生かしつつ、研究の成果を研究機関等に販売したり、打ち上げた衛星を地球の土壌観測等に役立てたりして日銭を稼いでいる。何故、米国でここまで宇宙ビジネスが盛り上がっているのか。その背景には、アメリカならではの事情がある。

アメリカは旧ソビエト連邦との冷戦時代、『航空宇宙局(NASA)』を中心に宇宙開発に躍起になっていた。ところが2000年代以降、経済の低迷から、開発の舞台が政府から民間に移った。一方で、1990年代以降、製造業に代わってIT産業が隆盛を誇った。その結果、宇宙開発に強い人材とITに強い人材の双方が、民間に揃うことになった。サンフランシスコに拠点を置く『プラネット』(旧社名は『プラネットラブズ』)は、そんなアメリカの地の利を上手く活用するベンチャー企業の1つだ。2010年、NASA出身のエンジニア3人が共同で設立。“DOVE(鳩)”と呼ぶ靴箱サイズの衛星を自社製造し、それで撮影した地上の画像を、独自ソフトウェアで高速処理する仕組みを構築した。シリコンバレーの近隣である為、ソフトに強い人材を獲得し易い。強みは、地球全体を写した画像データを更新する頻度の高さにある。現在、軌道上にあるプラネットの衛星は61基。それらは真珠のネックレスのように連なって、軌道を周回しており、継続的に地上の画像を撮影している。衛星は北極と南極の上空を通過するように回っているが、地球はそれに対して垂直の方向に自転している。その回転を利用して、林檎の皮を剥くように帯状に撮影するので、短期間で地球丸ごとの画像データが手に入る。現在、地球全体の画像の更新にかかる期間は2週間。今年上期には、新たに116基の衛星を打ち上げる為、その期間は「デイリー(毎日)に短縮できる」(同社で衛星の打ち上げ計画を担当するマイク・サフヤン氏)。因みに従来は、地球全体の画像データを更新するのには年単位の時間が必要だった。画像を購入する顧客は、防災や防衛に役立てたい政府機関や、Googleや『Apple』といった地図データを扱う企業等。ただ、更新頻度がデイリーになれば、データの使われ方が劇的に変わり、顧客の幅も広がる可能性が高い。例えば、森林火災や洪水といった災害に対応する場合。人気の少ない場所でも直ぐさま発生に気付け、対策を打てるようになる。「火災なら、どこが最も燃えているかもわかるので、消火活動に役立てられる」(同社シニアデータビジュアライゼーションエンジニアのロバート・シモン氏)。ここまで精度が上がれば、企業の危機管理にも使えそうだ。プラネットのネックは、更新頻度が高い代わりに解像度が低いこと。この解像度で世界トップの実績を持つのが、コロラド州デンバーに拠点を置く『デジタルグローブ』だ。1992年に設立した宇宙関連では老舗企業で、『国家地球空間情報局(NGA)』等の地図情報は同社の画像をベースにしている。プラネットの画像では、1ピクセルが3~5mであるのに対し、デジタルグローブの画像は最も画質の高いもので1ピクセル当たり30㎝。地上の車・人・人影まで見える。この画質の良さこそが武器。政府やGoogle等に加え、顧客には、高い精度が必要な自動運転向け地図を生成する『ヒア』等が名を連ねる。

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デジタルグローブの名が世界に知られるきっかけになった事件がある。2014年3月に突然、消息を断ったマレーシア航空370便。2015年8月に機体の一部が見つかり、墜落の可能性が高いことがわかった。これを受け同社は、一般ボランティアによる『海上に浮遊する機体の破片タグ付けプロジェクト』を始めた。同社が保有する高精細画像を無償で公開し、世界中の誰でも事故原因の調査に参加できるようにしたのだ。海上に浮遊する破片まで見える高画質を実現するのが、乗用バスほどのサイズの巨大な観測衛星だ。その大部分を、直径1.1mの望遠鏡が占める。衛星には高性能のメカ機構も搭載し、地上の特定の場所に向けて望遠鏡の角度を変えられる。製造は、同じコロラド州に本拠を構える『ロッキードマーティン』に委託。「ロッキードは、古くから政府の仕事を受注してきた為、高い技術力を持つ」(同社)。ここでも地の利が生きている。望遠鏡の角度を変えることで、特定の場所の3Dデータを取得することも可能だ。上空の2つの衛星から同じ地点を撮影し、地上の3D情報を算出する。これが今、新たな顧客を勝ち取ることに繋がっている。それが、『プレシジョンホーク』等のドローンの会社だ。ドローンを自動で飛行させる為には、地上の3D情報が不可欠になるからだ。前出のプラネットもデジタルグローブも、同じ地上の画像データを扱う会社だが、両社は補完関係にある。「更新頻度の高いプラネットの画像で、地上に何らかの異常を発見したら、デジタルグローブの衛星で異常の中身を具体的に炙り出すことができる」(デジタルグローブのシニアディレクターであるクマール・ナビューラー氏)。例えば、東シナ海の無人島の上に何らかの物体があるのをプラネットの画像で発見したとする。その地点にデジタルグローブの衛星を向ければ、それが建設機械なのか戦車なのか、何台でどんな作業をしているのかがわかる。

プラネットやデジタルグローブのような画像データ企業が登場したことで、新ビジネスを展開する企業が登場した。シリコンバレーに本社を置く『オービタルインサイト』だ。同社が開発したのは、画像ビッグデータから企業が必要な情報を自動で吸い上げるシステムだ。同社が解析したデータの使い方は幅広い。例えば、ある量販チェーンの店舗の駐車場に何台の車が止まっているかを継続的に自動で数え、データ化。これにより、「その量販チェーンの四半期毎の業績を発表前に予測することが可能だ」(同社のジェームズ・クロフォードCEO)という。顧客は、証券会社等の機関投資家だ。データから業績が向上しそうな兆候が見られれば、正式に数字が発表される前に株式を買い集めておき、発表後に売却すれば売却益が得られる。保険会社にも同様の情報ニーズがある。衛星画像から不動産がどこにあるかを把握したり、洪水が起きそうな地域を特定したりして、保険料率を調整する為に使う。因みに、同社を設立したクロフォードCEOは元NASAのエンジニアで、その後はGoogleに転職。書籍検索システム『Google Books』のチームを率いていた人物だ。オービタルインサイトのシステムには、Googleが公開している自動運転AI(人工知能)の技術が活用されているという。衛星画像は時折、地上からでは発見できない事実まで浮き彫りにする。最近の事例では、未だどこの調査機関も認識できていなかった中国の石油タンクを発見した。画像からタンク内の石油保有量もわかる為、この情報を石油会社に売れるようになった。石油会社が需給調整に使う為だ。同社に画像を提供しているデジタルグローブのナビューラー氏は、「オービタルインサイトのおかげで、当社の顧客の幅も広がった」と喜ぶ。業界内で助け合えるのも、アメリカの宇宙ビジネスの層が厚いからこそだ。宇宙ビジネスに参入するハードルが下がっているとはいえ、他の産業に比べればリスクが高いのも事実だ。昨年10月には、小型ロケット開発ベンチャーとして有力視されていた『ファイヤーフライスペースシステムズ』が、投資家が資金を引き揚げたことを理由に全従業員を解雇した。にも関わらず、アメリカでは宇宙ビジネスに莫大な資金が流れ込む。衛星通信関連企業の『カイメタ』に出資するマイクロソフトのビル・ゲイツ氏然り、プラネタリーリソーシズに出資するGoogleのラリー・ペイジ氏然り。リスクの高いビジネスに挑む起業家と、リスクを取る投資家が多いことが、アメリカを宇宙ビジネス先進国に押し上げている。2015年の航空宇宙産業貿易収支は、アメリカが約785億ドルで、2位のフランス(約242億ドル)に大きな差をつけた(調査会社『グローバルノート』調べ)。リスクを恐れず突き進むアメリカに後れを取った日本は今、何をすべきなのか。 (取材・文/本誌 池松由香・寺井伸太郎・飯山辰之介)


キャプチャ  2017年1月16日号掲載

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