【働く力再興】番外編(01) 働き方改革、世界も苦闘

働き方改革に動き出したのは日本だけではない。世界の主要国にとって、高齢化に伴う働き手の減少は喫緊の課題。不安定な労働市場は若年層の失業率を高め、社会不安を招きかねない。企業に成長分野への進出を促し、労働者の持てる能力をどう引き出すか。苦闘する世界の実像を追う。

20170118 04
■フランス…左派政権でも“企業重視”改革、競争力向上へ反発覚悟
労働者の権利を手厚く保護してきたフランスが先月9日、企業の解雇規制緩和と労働時間延長を柱とした改正労働法の公布に踏み切った。「10%超の高い失業率が改善されず、他のヨーロッパ諸国に比べて景気回復が遅れている」という危機感が背景だ。先進国の中で最も硬直的だとも言われたフランスの伝統的な労働市場は、大きな転機を迎えている。「経済の再生には、若者の雇用状況の改善が不可欠だ」――。フランソワ・オランド大統領(右画像)は、こう繰り返してきた。フランスの失業率の高さは、ヨーロッパの主要国の中でもとりわけ高い。『ヨーロッパ連合(EU)』28ヵ国平均の失業率は昨年で9.4%と、2年前から1.5ポイント改善した。半面、失業率は10.4%で、0.1ポイントの悪化。若者に限っては25%近い。労働組合に支持基盤を持つ左派・社会党のオランド政権は、本来ならば労働市場改革に消極的な筈。だがヨーロッパでは、大国であるドイツやイギリスの経済は比較的堅調で、フランスの弱さが際立つ。

経済の停滞感は深刻で、フランスの経済を再び成長軌道に乗せるには、労働市場の改革は避けて通れない状況だった。ただ、改革に対する反発は予想以上に大きかった。政権が法案の成立を急ぐと、反対する労組や若者が「法案の内容が経営者寄りだ」と街に繰り出し、警官隊と衝突。怪我人や逮捕者を出すほどのデモが頻発した。激しいデモが起こる中、政府は「企業が雇用し易くなる環境を整える改革が必要」(マニュエル・バルス首相)と押し切った。身内の社会党からも批判が噴出した為、憲法の特別な規定を活用。議会で採決を取らずに法案を通す強硬手段に打って出た。公布された改正労働法は、細則を定めた施行令等の整備と共に徐々に施行される。主要な改正点は、企業が業績が悪化した場合の解雇規制の緩和や、フランスが伝統としていた週35時間労働制を、労使合意で最大46時間まで延長できるようにしたことだ。従来、企業が経営不振に陥った場合の解雇の基準は明確でなかったが、今後は“大企業では4四半期連続で受注や売上高が減少した場合”と明示。グローバル企業が解雇するには世界での業績悪化が必要だったが、これもフランス国内の業績低迷で可能になる。フランス経済省幹部は、「外国企業が参入し易くなる」と期待する。改正労働法は、来年にフランス大統領選を控えたオランド政権の政治的な思惑の産物とも言われる。オランド氏は、失業率の改善を自らの出馬の条件と位置付けている為だ。それ故、直前になって内容がやや労組寄りに変更される等の曲折もあった。日本の経団連に当たる『フランス企業運動』のピエール・ガタズ会長は、「柔軟な雇用形態を認める等、前進したのは評価できるが、未だ改善点は多い」と訴えている。 (パリ支局 竹内康雄)

20170118 05
■韓国…“停滞の元凶”入らぬメス、“政権vs労組・野党”熱く
「フランスは、左派政権(のオランド大統領)ですら労働改革を進めた。それだけ切迫している課題なのだが…」。韓国の柳一鎬経済副首相兼企画財政担当大臣は7月末、経済団体主催の講演会の演説で溜め息交じりに話した。政府・与党が打ち出した労働改革が、野党や労働組合の反発で全く進まないからだ。今年まで2年連続で年率2%台の低成長に止まる見通しの韓国経済。朴槿恵大統領(左画像)が経済停滞の元凶の1つとみるのが、硬直化した労働市場だ。今年から順次、55歳が一般的だった企業の定年について、60歳以上への延長が義務付けられるが、一方で、労組の抵抗により、年功型の賃金体系の見直しは不十分。この為、企業は若年雇用に消極的になっている。『大韓商工会議所』が4月に従業員300人以上の企業に実施した調査によると、賃金ピーク制を導入していない企業は約6割。約4割は「新規採用の縮小が避けられない」と回答した。今年8月の若年(15~29歳)失業率は9%を超え、悪化傾向が続いている。

こうした状況に危機感を抱く政府・与党は昨年9月、労働関連5法の改正案を国会に提出。55歳以上や、金型・溶接等といった専門職の派遣を可能にしたり、35歳以上の期間制労働者の雇用期間を延長したりできる内容を盛り込んだ。だが、野党は「解雇の拡大や非正規雇用の定着に繋がる」として強く反発。「政府は、簡単に解雇できるようにする労働法の改正を今も推し進めようとしている。現実を知らないのではないか」。今月6日、国会の演説で、最大野党『共に民主党』の秋美愛代表は改めて、反対の姿勢を強調した。与党は、特に反発の強い期間制労働者の雇用延長に関わる法律を除く4法の成立を目指す方針を示しているが、今年4月の総選挙の敗北により、成立の見通しは立たない。韓国でも少子高齢化は深刻だ。生産年齢人口(15~64歳)は、今年をピークに減少に転じる見通し。高齢化に伴う雇用の硬直化や、定年延長による総賃金の上昇を抑えようと、政府は1月、職務能力を基準にした人事評価や一般解雇等の基準を示すと共に、「労組が合理的な賃金ピーク制の導入を拒否した場合、労組の同意無しで就業規則を変更できる」とした指針を発表した。『経済協力開発機構(OECD)』によると、2014年の韓国の労働生産性は34ヵ国中24位で、日本(21位)よりも低い。労働者1人当たりの年間平均労働時間は2124時間と長く、長時間労働が常態化。こうした前近代的な企業文化が、低い生産性に繋がっている――。そんな反省は企業にも広がっているが、抜本的な労働市場改革への道筋は見えていない。 (ソウル支局 加藤宏一)

20170118 06
■ドイツ…産学官で“第4次産業革命”、“未来の職場”を皆で議論
10年以上前の2000年代初頭、ドイツは他の先進国に先駆けて労働市場の改革を実現し、成果を上げた。そのドイツが次に目指すのは、デジタル技術と融和した誰でも働き易い職場作りだ。ドイツは、約8000万人の人口の内、子孫を含む移民系が1割を超える。女性の社会進出も進む。多様な労働力を受け入れながら、輸出産業を中心に国際競争力をどう維持・向上するかが、最も関心の高い政策課題だ。フランス国境に近い南西部のザールラント州。ドイツの製造業を代表する『ボッシュ』のホンブルク工場には、同社、延いてはドイツが描く近未来のものづくりの姿がある。約2000の部品から200種類の油圧機器を生産するラインに入る従業員は、煙草の箱のような機器を身に付ける。ここに個人の熟練度が入力されており、モニターでは作業員個々に適した作業の手順が示される。国籍も問わず、移民が母国語も選択できる。狙いは、熟練工による“暗黙知”に頼るのではなく、経験の浅い従業員でも作業ができるシステムの構築。

ドイツが産学官で推進し、第4次産業革命を意味する“インダストリー4.0”は、人間の働き方そのものを大きく変えようという壮大な構想でもある。南部のカイザースラウテルンにある『ドイツ人工知能(AI)研究センター』。デトレフ・ツュールケ教授は、4.0の基礎となるアイデアに10年以上携わってきた。「機械と協調して誰でも働ける職場が増え、更に単純作業は機械に置き換わる。ヒトは、より設計に重きを置くようになる」。ツュールケ氏は、そう考える。“ハルツ改革”――。2002年に『フォルクスワーゲン(VW)』の人事担当役員だったハルツ氏が率いる委員会が打ち出した労働市場改革だ。この改革で、それまで“ヨーロッパの病人”と呼ばれたドイツが一転、奇跡の復活を遂げる。原則は自助努力への転換。それまで、労働者には手厚い保護があったが、解雇規制の緩和や、失業手当の給付期間の短縮で大鉈を振るった一方、勤労意欲のある労働者が働き口を見つけ易いよう改革し、失業相談も充実させた。当初、労組は反発したものの、労組を支持母体とする社会民主党のゲアハルト・シュレーダー首相(当時)が主導し、改革が進んだ。「低所得者が固定されて、社会の格差が広がった」との批判もあるが、「女性も含む多様な人材が働き易い職場ができた」との評価だ。近年は、デジタル化の波が国境を越え、あらゆる産業に押し寄せる。労組側も、政策決定に最初から関与して、国を挙げて働き方を見直そうとしている。漸く解雇規制緩和に動き出した他の先進国よりも、ドイツは更に先を見据えている。 (フランクフルト支局 加藤貴行)

20170118 07
■日本…軋轢を突破する力を
国連の人口推計をみると、先進国では今後、人口が減る可能性が高い。問題なのは、15~64歳の生産年齢人口が減る点だ。働き手が減れば、企業の活力も高まらず、経済は縮小が避けられない。移民等で多くの人々を吸い寄せ、企業の自由度も高いアメリカは一定の生産性を保つとみられるが、今のままだと日本等他の主要国は苦境に陥りそうだ。何故、働き方改革が必要なのか。各国の事情は少しずつ異なるが、「少子高齢化や生産性低迷を打破しよう」という狙いはほぼ一致する。ただ、改革実現までの道は険しい。労働者の不安を丁寧に取り除き、理解を広げるリーダーの姿勢が問われる。日本でも、安倍晋三首相(左画像)がどう難局を切り開くのか、改革に突き進む強い姿勢が求められる。フランスも韓国も、政労使の間に軋轢が生じ、局面打開に苦慮している。一歩先を行くドイツも安泰ではない。非正規労働者の増加に対処し、今はもう一段、産業競争力を上げようと知恵を絞る。各国が取り組むのは、弱者への分配政策だけではない。中長期的に見て、労働者の意欲や能力を高めることだ。軋轢回避の軟着陸を探るなら、日本は世界に置いていかれる。 (経済部 小川和広)


⦿日本経済新聞 2016年9月20日付掲載⦿

スポンサーサイト

テーマ : 経済・社会
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR