【ヘンな食べ物】(21) イートインの肉屋

3000年近い歴史を誇る“アフリカの京都”ことエチオピア。他のアフリカ諸国には無い独特の伝統文化がある。地方都市在住の大学教授に取材した時のこと。教授の奥さんや友だちも交えて一緒に夕食に行ったのだが、教授はいきなり肉屋に立ち寄った。天井から釣り下げられた牛の部位を指差し、「こことここをくれ」みたいなことを言うと、そのまま皆でずんずん肉屋の奥に入っていく。慌ててついて行ったら、そこは食堂になっていた。イートインなのである。私たちが席に着くと、肉屋のおじさんがドンと牛肉の塊が乗った皿をテーブルの真ん中に置いた。続いて、私たち1人ずつにナイフが配られる。最後にマスタード風とケチャップ風の2種類のタレ。唖然とした私の前で、アフリカの京都人たちはナイフで生肉を適当な大きさに切り取り、生のままタレにつけてパクパク食べ始めた。この時は驚いた。何しろ、付け合わせの野菜も何も無い。肉屋だから肉しかないのだ。実際、食べてみると、確かに味はいい。エチオピアの地方都市は100年前の京都みたいだから、冷蔵庫など無く、家畜はその日に屠ったものしか食べない。つまり、鮮度が高いのだ。美味いけど、只管に生肉の塊だけを食い続ける奇妙さと言ったらない。更におかしいのは、教授が生肉を切っては奥さんの口に入れていること。まさに“あーん”の状態だが、着飾った40代の女性が、手は膝に置いたまま、淡々と口を開けている姿は異様の一言。訊けば、親しい相手に“あーん”してあげるのは、エチオピア人の中上流階級では極普通のマナーだという。素材を生かした料理と、女性に手を汚させない洗練されたマナー…なんだろうか? やっぱり、アフリカの京都人の行動様式は、私のような田舎者には計り知れないのだった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年1月19日号掲載
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