【「佳く生きる」為の処方箋】(35) 看板倒れの専門医たち

“名は体を表す”という言葉がありますが、一方で“看板倒れ”とか、“看板に偽りあり”といった言い方もあります。どちらに当て嵌まるかは、時と場合によるもの。では、医師の資格の1つである“専門医”という名称はどうでしょうか。私からしたら、これは“看板倒れ”の部類に入ります。心臓外科の領域では、『心臓血管外科専門医』という認定資格があります。『心臓血管外科專門疾認定機構』が認めるもので、修練期間・手術症例数・学術活動・筆記試験等が認定基準となっています。尚現在、この資格は学会主導で認定されていますが、2018年度からは一般社団法人『日本専門医機構』に一元化される予定で、今、その準備が進められているところです。抑々、専門医というのは、その領域に関する十分な専門的知識と技量を有すると認められた者。つまり、お墨付きを与えられた者のことです。“専門”という言葉には、その道のプロという響きもありますから、心臓血管外科専門医と聞いただけで「手術の腕も確かだ」と思うでしょう。しかし、プロ中のプロの私から見た現実は違います。専門医という資格は、車に譬えるなら運転免許証に相当します。車を運転している人は世の中に大勢いますが、全員が全員、運転が上手い訳ではありません。中には、免許を取ったばかりで、初心者マークを付けて運転している人もいます。実は、心臓血管外科専門医資格の取得というのは、この初心者マークを取ることと同じなのです。専門医の認定には、少なくとも50例以上の手術経験が必要ですが、これには指導する上位の医師の下での手術経験もカウントされます。まさに、自動車教習所での実技と同じ。

つまり、専門医でも最低限の修行を終えたばかりの新人ですから、抑々、腕云々というレベルではないのです。患者さんや一般の人たちに誤解を与えないよう、私は「専門医にも初心者マークが必要だ」と考えています。初めて専門医の資格を取った外科医のことは“初回専門医”とか“初期専門医”等と呼んで、専門医として駆け出しであることを明示するのです。当事者の医師にだけわかって、患者さんにはよくわからない。そんな資格では意味が無いからです。尚、専門医の上には“修練指導者”――所謂“指導医”という資格もあります。一定以上の経験を上積みして、心臓血管外科専門医の資格を1回以上更新した外科医に与えられるもので、文字通り、手術指導ができる医師のこと。路上での運転経験をかなり積んだ職業ドライバーの段階と言えます。但し、腕の良し悪しはピンキリです。指導医になるには、手術経験が5年間に100例以上とハードルが低いですから、最低ラインだと1年間に20例。1ヵ月に2例に満たない手術経験です。外科医の実力は症例数に比例しますから、これではお寒い限り。因みに、私の場合は少なくとも年間350例、平均すると約400例の手術を手掛けています。一口に“指導医”といっても、経験豊富な外科医もいれば、経験の乏しい外科医もいます。資格だけでは、そこまでの判断はつかないのです。因みに、手術の第一線から退いた心臓血管外科医には、“名誉専門医”という資格が与えられます。最近、高齢者の交通事故が相次ぎ、運転免許証の自主返納が取り沙汰されていますが、名誉専門医は謂わば、免許を返上した“一丁上がり”に相当します。現役の私から見ると、“生前戒名”のようなものでしょうか。専門医制度改革も、医師が自分たちの資格保持の為に行うのではなく、患者さん側が納得して選択できる中身にしないと意味が無いでしょう。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2017年1月19日号掲載
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