「2017年、アメリカが世界最大のリスクになる」――イアン・ブレマー氏(国際政治学者)インタビュー

国際秩序で主導的な国がいなくなる“Gゼロ”概念の提唱者として知られるイアン・ブレマー氏は、年初に公表している『今年の10大リスク』で、「アメリカが最大のリスクとなる」と指摘した。「Gゼロ時代の到来で、世界的な“政治不況”に陥る」と予測する気鋭の政治学者に迫った。 (聞き手/ニューヨーク支局長 吉池亮)

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――10大リスクのトップにアメリカを据えた。
「愈々、“パックスアメリカーナ(アメリカによる平和)”が終わるからだ。昨年の大統領選で民主党のヒラリー・クリントン氏が勝利していたとしても、アメリカの衰退傾向は変わらなかったが、共和党のドナルド・トランプ氏が次期大統領となり、その瞬間からGゼロは現実のものとなった」
「アメリカは最早、“世界の警察官”ではない。貿易の分野でも、アメリカの価値観を世界に広めることはない。第2次世界大戦後、世界は幾度か経済危機を経験してきたが、今度は世界的な政治的空白が生まれる“政治不況”と言える状況だ。極めて深刻で、世界が経験したことがない事態だ」

――米中関係も先行きが見通せなくなっている。
「トランプ大統領で生じるもう1つのリスクが、アメリカが武力衝突に巻き込まれる可能性だ。その相手は中国かもしれない。イランや北朝鮮かもしれない。兎に角、アメリカの存在が巨大なリスクとなってしまったことは間違いない。半年前に『アメリカが大きな紛争に巻き込まれる可能性はあるか?』と闇かれても、『そうは思わない』と答えていたが、今は違う。『経験不足のトランプ氏が、衝動的な反応を抑えることができない』という懸念があるからだ」

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――アメリカに代わって、中国の存在感が増すのだろうか?
「中国は明らかに好機と捉えているだろう。とりわけ、『世界経済に対する影響力の拡大と、アジアにおける戦略的地位を確立させる好機だ』と捉える筈だ。しかし、アメリカを上回る経済大国にはなっても、アメリカに取って代わるだけの能力は無い。基軸となる通貨も無く、国内では“法の支配”が確立していない。世界に展開するだけの軍事力も持ち合わせてはいないからだ」

――Gゼロ時代は、いつまで続くのか? 次はどのような状態になるのか?
「10年とは言わないが、5年前後は続くだろう。そして、事態打開が遅れれば遅れるほど、世界的に不安定な状態も解消されることはない。次に来るのはアメリカと中国との“G2”が有力だが、“リージョナリズム(地域主義)”かもしれないし、非政府団体や国家に準じる団体による“ハイブリッド(混合型)”かもしれない」

――国家の時代が終わる可能性もあるのか?
「例えば、気候変動対策ではそうした傾向がみられる。気候変動対策に懐疑的なトランプ政権に対して、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事は 『航空宇宙局(NASA)が人工衛星での気候変動の観測を止めるなら、州が独自に取り組む』と表明した。政府が何もしないなら、州・大都市・大企業が独自に対策に乗り出すようになる。こうした動きは更に加速する」

――テロや疫病等、他にも様々なリスクがある。
「イスラム過激派組織“IS(イスラミックステート)”等のテロ組織は弱体化しても、テロの温床となっている過激主義の脅威にしっかり対処しない限り、今後もテロの脅威は増すだろう。エボラ出血熱の流行は、アフリカ諸国を崩壊の危機に追い込んだが、次はどのような疫病が大流行するのか、それを予想することは困難だ」
「都市の機能を停止させるようなサイバー危機もある。巨大銀行が攻撃を受け、株式市場がメルトダウンを起こすような事態もあるかもしれない。アメリカ大統領選でロシアが様々なサイバー攻撃を行った疑いが浮上している。国家安全保障局(NSA)は『アメリカもロシアと同程度のサイバー攻撃能力はある』と反論するだろうが、核戦略と同列に語ることはできない。核とは異なり、抑止力という手立てが存在しないからだ」

――悲観的な見通しばかりが目立つが。
「私は、『未来は全て悲観的だ』と言っている訳ではない。インターネット技術・バイオ工学・ナノテクノロジー・エネルギー技術の革新等によって、世界は大きな恩恵を受けた。そして、この20年間で世界は10億人を貧困から救い出すことに成功した。人類がこの地球上に出現してから、あまり時間は経っていないが、これほどの短期間にここまで大きな功績を上げたことは素晴らしいことだ。だから、次の10年後の世界を想像してみればいい。『これまでの成果を更に上回っている』と確信を持って言える」

               ◇

■存在感薄れる一方
「目を閉じて聞いていたら、『アメリカの大統領が話をしている』と思っただろう。テーマが“グローバリゼーション”だったからだ」――。ブレマー氏は、昨年11月にペルーで開かれた『アジア太平洋経済協力会議(APEC)』で、中国の習近平国家主席の演説を聞いてそう感じたという。では、本物のアメリカ大統領は何を語ったのか。「ところが、オバマ氏は演説そのものをキャンセルしてしまったんだ」。国際政治の舞台で、アメリカの存在感は希薄になる一方だ。“アメリカ第一”を掲げるトランプ大統領の出現を、ブレマー氏はこう捉えているのだという。「世界の中で、アメリカの存在そのものが“政治的リスク”になってしまった」。アメリカの未来に対する強い危機感だと受け止めた。 (ニューヨーク支局長 吉池亮)


⦿読売新聞 2017年1月11日付掲載⦿

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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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