【仁義なきメディア戦争】(10) 読売・朝日に迫る“販売ハルマゲドン”

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その訂正記事は、メディア関係者であれば驚くほどの“完全否定”となっていた。月刊誌『FACTA』は9月号で、「前号の“読売が朝日に値上げを打診”の記事で、読売新聞が値上げを検討し、打診した事実はありませんでした」と訂正した。記事の概要は、「読売新聞社が購読料を月額200円引き上げ、値上げ分は系列販売店に還元。朝日新聞社にも同調を持ちかけたが断られた」というもの。実は、定価改定の噂は今春先から流れていた。金額も200~250円と具体的に取り沙汰されていた。マスコミ業界紙の一部にも、「読売は10月にも単独値上げか?」との観測を流したところがある。ただ、読売の反応は“激烈”だったようで、「通常の窓口である販売局を飛び越えた“高い”レベルから、厳重抗議と訂正の申し入れがあった」(業界紙記者)という。この業界紙も訂正記事掲載に追い込まれた。何故、値上げ観測がこれほどアンタッチャブルな話題なのか。それは今、新聞経営を根底で支える販売店が危機に瀕しているからだ。大手紙の有力販売店主ですら、「来年はどうなるかわからない」と告白せざるを得ない苦境だ。零細店が中心の販売網は、部数減・折り込み広告の収入減・配達員の不足・社会保険加入規制の強化…と4重苦に曝されている。2001年に2万1864店舗、従業員数46万4827人を数えたが、昨年には1万7145店舗、従業員数33万0994人まで縮小した。既に都市圏以外では、地方紙の販売網に配達の他、集金まで委託する動きが広がっている。

こんな時期に価格政策を下手にハンドリングしたら、業界全体に激震が走る。販売網の急激な再編・淘汰の引き金を引きかねない。況してや、新聞業界の纏め役である『日本新聞協会』会長を出す読売新聞が、「他紙販売網の壊滅を図ろうとしている」(前出の『FACTA』)等と書かれては迷惑千万、大きな波紋と反動を招くことは必至だった。全国に張り巡らされた新聞販売網は、業界が誇る戸別配達制度を支えている。店頭売りが主である欧米の新聞各紙が、デジタル化や読者の高齢化に抗えず、青息吐息なのに対して、国内の新聞各紙が発行部数を漸減させながら何とか持ち堪えているのも、戸別配達のおかげと言っても過言ではない。日本新聞協会に加盟する新聞社の総売上高で見ると(※第5回参照)、広告収入は2004年度の7550億円から、昨年度には3983億円とほぼ半減。だが、販売収入は同2割減で踏み止まっている。売上高に占める販売収入の比率は、同期間で52.8%から58.5%へ上昇し、新聞配達を委託している系列販売網への依存度が高まっている。販売店は、本社から仕入れた新聞を月額4037円(読売・朝日・毎日各紙の朝夕刊セット)で売り、その約6割を原価として本社に納金する。本社からは約1割の販売手数料に加え、地域や店の力で異なるが、1割前後の補助金・奨励金が支給される。つまり、1部当たりの折り込み広告収入が毎月2000円近くあれば、仮に仕入れた新聞が“売れなかった”としても大きな損はしない計算だ。余った“不用紙”は、専門業者が有料で回収してくれる。新聞社への注文部数を増やせば、補助金や奨励金の支給額は上がる。高度成長期ならウィンウィンの発行本社と販売店との関係だったが、今や根底から崩壊しつつある。この20年間、新聞は定価改定(値上げ)を行っていない(※消費増税分の転嫁を除く)。しかも、新聞販売店にとって第2の(首都圏等では最大の)収入源だった折り込み広告の売上高も激減。『電通』の調査では、昨年の折り込み広告費は4687億円。2007年の6549億円に比べて、3割近くも落ち込んでいる。業界通によると、「折り込み広告のピークは2006年。当時、首都圏平均で1部当たりの折り込み広告収入が毎月2000円近くあったが、今では1500円あるか無いかだ」という。発行部数減による媒体力の低下、スーパー等流通関係の出稿控え、判型の小型化…等が原因だ。しかし、販売現場の悪戦苦闘ぶりと発行本社の業績には温度差がある。売り上げがほぼ一貫して低下しているにも関わらず、昨年度は3社が増益を確保したからである(右上画像)。決算を分析してみると、『日本経済新聞』電子版の好調ぶりや、不動産事業の寄与(読売・朝日・毎日)といった個別要因はあるものの、共通するキーワードは“経費削減”だ。

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例えば、『朝日新聞社』の決算を見ると、単体の営業収入(売上高)は2748億円(前期比4.8%減)で、3期連続の減収。一方で、営業費用も6.3%減少した為、当期純利益は30億円(同369.3%増)と大幅に拡大した。「前年に全国のASA(系列販売綱)への特別強化策を実施した販売費が減になったこと、発行部数の減により新聞材料費が減になったこと、などで支出が減となった」(決算資料から)。従軍慰安婦の誤報問題等で大幅に部数が減ったが、同時に原料代・印刷費・流通コストも下がった。販売店強化費を削減する等、営業費用の圧縮で売り上げのマイナス分をカバーしたことになる。それまで、手厚い補助金・奨励金で専売網にカネやモノを流し、販売店は部数拡張で本社の期待に応えるというサイクルが、今は正反対に働いていることがわかる。商品が売れなくなって本社だけ儲かっても、先細りは明らかだ。崩壊の兆しを見せる専売網。どの社より危様感を募らせるのが、他でもない読売新聞だ。“販売の神様”こと故・務臺光雄会長が作り上げた強力な販売網に乗って、業界トップに躍り出た歴史があるからだ。読売新聞グループ本社の山口寿一社長は、7月8日の東京読売販売店会で、今年度から始めた“販売網基盤強化特別作戦”で、労務対策に全力を挙げる方針を熱く語った。販売店従業員の社会保険への加入促進や、週休2日以上の休みを取れる職場作りで、人材の確保に当たる。具体的には、「3月末の従業員数を基準に、12月までの増員1人当たり25万円×4ヵ月、募集経費も30万円までなら7割を補填。4週6休以上実施の店には月15万円をつける」と言われている。当然、特別作戦には数十億円の原資がかかる。それが、値上げの噂が消えない原因ともなっている。朝日新聞は、優良店が周辺の同系統・他紙系統を吸収する“大型店舗化”を推進している。一方で、「地方紙等の他系統に朝日を預けることもあり得べし」との姿勢を取る。異なる戦略の中で、“新聞販売ハルマゲドン(最終戦)”に生き残るのはどちらか――。数年以内の系列を超えた販売店同士の大幅な再編・淘汰は避けられないだろう。 (取材・文/フリージャーナリスト 河内孝)


キャプチャ  2016年11月19日号掲載

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