【科学捜査フロントライン】(08) 「科捜研は警察組織から独立せよ」――藤田義彦氏(徳島文理大学教授)インタビュー

元号が平成となってから、犯罪捜査で導入された『DNA型鑑定』。30年弱で劇的な進化を遂げ、様々な事件を解決してきた。だがその一方で、冤罪事件を引き起こしていることも事実である。嘗てとは比較にならないほどの個人識別精度を誇るDNA型鑑定の現状と課題点について、徳島文理大学の藤田義彦教授に訊いた。 (聞き手/フリーライター 青木康洋)

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――日本で最初にDNA型鑑定が犯罪捜査に導入されたのは、いつだったのでしょうか?
「DNA型鑑定が初めて犯罪捜査に導入されたのは、1989年です。その後、鑑定事件数は増加の一途を辿り、2008年には3万74件に達しています。特に、判定法が機械化された2003年以降は、全国的に急速に増えました。私が嘗て所属していた徳島県警本部の科学捜査研究所(以下“科捜研”)でも、1996年から本格的なDNA型鑑定を犯罪捜査に導入しています」

――DNA型鑑定が、これほど短期間に急速に普及した理由を教えて下さい。
「簡単に言えば、個人識別精度の高さに尽きます。嘗て、個人を識別する方法といえば指紋が最たるものでした。しかし、指紋は以前ほど現場に遺留されなくなってきています。それ以外にはABO式血液型も有効な方法ですが、個人識別度は10人に1人程度です」

――現在のDNA型鑑定は、どのくらいの精度に上がっているのでしょうか?
「2006年11月に、DNA型検査キットによる“フラグメントアナライザー”を用いた分析法が導入されましたが、これは日本人における出現頻度が最も高い型の組み合わせの場合、4兆7000億人に1人という精度を持っています。桁違いの精度の高さと言っていいでしょう。現在は警察庁が“DNA型記録検索システム”を運用していますが、このシステムによって被疑者が確認された事件数は、2011年で1万6456件にも上るのです。これは、従来の捜査方法における捜査員数万人のマンパワーに匹敵する威力です。犯罪捜査における経済効率という意味でも、DNA捜査は非常に有用な方法と言えます」

――犯罪が起きてからDNA型鑑定に至るまでの一連の流れを教えて下さい。
「犯罪が発生すると、直ちに所轄の警察署の鑑識係や、警視庁・道府県警察本部の機動鑑識隊によって、現場での鑑定試料採取が行われます」

――事件現場がブルーシートで覆われている映像をニュース番組でよく見ることがありますね。
「現場から、鑑識係員や機動鑑識隊員は、被害者・被疑者・関係者のものと思われる血液・唾液・口腔内細胞等を採取するのです。これが鑑定試料になります。鑑識係員は、それらの試料を警察署内で整理します」

――鑑定試料の整理は警察署内で行われるのですか?
「そうです。警察署内で整理された鑑定試料は、特使によって科捜研に搬送されます。通常、所轄の警察署長が科捜研の所長に鑑定を嘱託する形が採られます」

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――捜査機関が科捜研に鑑定を依頼しているということですね。
「はい。科捜研に運ばれた鑑定試料には先ず、幾つかの検査が行われます。鑑定試料にDNA型鑑定の対象物が付着していることが証明されなければならないからです。具体的には、血痕・体液等の予備検査や、精子・細胞・毛髪等の顕微鏡検査、ヒト由来であることを証明する為の抗血清、或いはDNAによる種属判別検査、ABO式等の血液検査を行います。原則として、『全ての検査でDNA型鑑定が可能である十分な検査結果が得られなければ、DNA型鑑定に移行することはない』とされています」

――科捜研では、どのような手順でDNA型鑑定を行っているのですか?
「先ずは、目視や顕微鏡による検査です。着衣等に血痕や体液が付着していれば、糸片やガーゼに転写します。付着物が極微量の場合は、直接切り出します。それらをマイクロチューブに入れて酵素処理を施し、DNA抽出装置にかけてDNAを抽出するのです。DNA型が判定されれば鑑定書を作成しますが、緊急を要する場合には、電話やファクシミリによって捜査側に報告することもあります。鑑定書を警察署に送り、鑑定が全て終了すると、鑑定試料は警察署に返還されるのです」

――DNA型鑑定は非常に厳重に管理されているのにも関わらず、免罪事件が後を絶たない印象があります。何故でしょうか?
「DNA型鑑定方法が、この28年で長足の進歩を遂げたのは事実です。しかし、技術の進歩に人間の進歩が追いついていないことが大きいと思います」

――その点を具体的にお話し頂けますでしょうか?
「これは実際にあった事件ですが、ある県警本部の科捜研鑑定員が、窃盗と道路交通法違反の各1名の容疑者のDNA型鑑定試料を同時に検査した為、鑑定結果を取り違えてしまいました。この時は、更に警察庁のDNA型データベースに誤ったDNA型を登録してしまい、それが別の窃盗事件のDNA型と同型だった為、関係のない道路交通法違反者の逮捕状が請求されてしまったのです」

――鑑定方法ではなく、運用面の問題があるということですか?
「その通りです。もう1つの原因は、警察組織の体質にあります。科捜研は、以前は警察組織の鑑識課に属していました。当時は“科学捜査研究室”と呼ばれていたのですが、人員・施設・体制等をあまり考慮されず、人海戦術でかなり過酷な労働を強いられていました」

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――ミスが許されない筈の科学捜査の現場が、何故そのような過酷な労働環境だったのでしょうか?
「警察組織そのものの体質にも原因があると思います。幹部警察官は数年で異動します。厳しい競争社会の住人である彼らは、短い在任期間の間に業績を上げたがるのです。だから、捜査員より極端に人員が少ない科捜研の研究員に、無理な検査を要求したと思います」

――科捜研と雖も、警察組織の一部であるということですね。
「現在の科捜研は、“科学捜査研究所”として鑑識課から独立しましたから、そういった階級社会の弊害は以前よりは改善されました。しかし、科捜研が警察組織の中にあることに変わりはありません。例えば、警察官が白衣を着用せずに検査室やDNA型鑑定用クリーンルームに入ってきて煙草を吸うようなことが、以前はありました。そういうあってはならないことに接しても、力関係によって科捜研側から意見具申をし難い雰囲気は残っていると思います」

――「警察の古い体質が冤罪を生む背景にある」と。
「科学捜査というのは、刑事捜査が法科学鑑定の結果を利用することです。それが時として冤罪を生んでいます。法科学鑑定は、真実を証明する為に用いられなければなりません。しかし、迅速な犯人逮捕を目指す捜査の第一線では、時として幹部警察官のシナリオ通りの鑑定が要求されることも無いとは言えないのです。過去には、容疑者のDNA型鑑定試料が違法に採取されたこともありました。科学捜査で誤判定が起きれば、社会的な信用を失いかねません。科捜研の研究員に対しては、『鑑定責任を取らせるだけではなく、鑑定業務全般の権限を持たせる必要がある』と思います」

――冤罪事件といえば、『足利事件』が記憶に新しいですね。
「足利事件では、最新のDNA型鑑定によって受刑者に無罪が言い渡されました。裁判長・栃木県警察本部長・宇都宮地方検察庁の検事正が被告人に謝罪をするという異例とも言える展開を見せました。DNA型鑑定が無罪・有罪の強力な裏付け証拠になる、まさしく諸刃の剣であることを世間に知らしめた事件と言えます」

――科捜研は、警察組織から完全に独立するべきなのでしょうか?
「できることなら、科捜研は独立行政法人として警察組織からも完全に独立した組織になることが、鑑定の公正性を保つ為にも望ましいと思います」

――冤罪事件の多くが、ヒューマンエラーによって引き起こされていることがよくわかりました。
「現在、『DNAの検査法はほぼ確立された』と言っていいでしょう。科捜研研究員の個々人も、『科学者として良心に従った鑑定を行っている』と信じたい。しかし、システムの問題で、時として『警察寄りの鑑定をしているのではないか?』と疑念を抱かれることがあります。大切なことは、そう思われないようなシステムを構築することと、研究員1人ひとりが正しい信念を持って発言できる体制作りにあると思います。科学捜査は、その時点での最高の技術を持って当たるべきですが、DNA型鑑定はその最たるものです。我々は、サイエンスに対してもっと真摯に向き合うべきだと思います」


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