【Global Economy】(20) グローバル化の功罪…警鐘届かず、ダボスの敗北

今年の『世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)』は、グローバル化の功罪が注目の議題になった。背景には、格差の拡大に伴う反グローバリズムの広がりや、ドナルド・トランプ次期大統領の保護主義的な姿勢への危機感がある。 (本紙企画委員 大塚隆一)

20170123 07
議論の口火を切ったのは、ダボスを初めて訪れた中国の習近平国家主席だ。会議が始まった今月17日の基調講演で、冒頭から自由主義経済の擁護論を展開した。「世界の問題の多くは、グローバル化が原因ではない」「グローバル化は、世界経済の成長に力を与えた」。更に、自由貿易の価値を説き、「保護主義は愚か」と断じた。中国共産党の指導者が、米欧のお株を奪った形だ。会場の反応は、驚きと戸惑いが入り交じっていた。アメリカの著名なコラムニストであるトーマス・フリードマン氏は、こう述べた。「講演のテキストだけ読んでいたら、『バラク・オバマ大統領が来ている』と思っただろう」。習氏の狙いは明らかだ。自国の輸出産業を守り、トランプ政権を牽制する。内向きになったアメリカから世界経済の旗手役を奪い、存在感を高める。日本の参加者は冷めていた。いくら立派なことを言っても、中国国内の市場は自慢できるほど自由でも公平でもない。そんな現実はわかっているからだ。ただ、見逃せないのは、ダボスの参加者たち――特にアメリカの企業経営者は、グローバル化の最大の受益者であり、旗振り役は誰であれ歓迎する点だ。中国は、アメリカの不在に上手くつけ込んだ。米中の立場は一段と捻れた。今後の攻防の行方は、益々読み難くなっている。グローバル化の功罪に関しては、様々な議論がある。だが、今回の会議では共通認識も広がってきた。先ず、格差や失業については、「技術革新の結果による部分が大きい」(スウェーデンのステファン・ロベーン首相)という見方が主流になってきた。「新しい技術についていける人・いけない人で差が生まれる」という訳だ。

一方、グローバル化自体にも負の側面がある。競争の激化で、勝者と敗者が生まれ易くなる。市場規模が巨大になる為、物事は良くも悪くも増幅されがちだ。例えば、勝ち組企業の経営者の報酬は、桁違いの額になる。それは結果として、格差を広げたり、人々に不公平感を抱かせたりする。世界経済フォーラムが特に恐れるのは、格差が齎す悪循環だ。先ず、格差の拡大で人々の不安や不満が募る。すると、ポピュリスト(大衆迎合主義者)の台頭やグローバル化への反発を生じる。その結果、保護主義が蔓延り、世界経済は低迷する。すると、格差は更に広がる…という負のサイクルだ。会議では、「悪循環を防ぐには、“力強い成長”と、“その恩恵を広く行き渡らせる仕組み”の両方が必要になる」という指摘が相次いだ。グローバル化の負の側面は、かなり前から指摘されてきた。何故、問題は改善されてこなかったのか。ダボス会議も、様々な議論・分析・予測を行ってきた。例えば、世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長は、こんな予測をしている。「経済のグローバル化の影響に対する反発の高まりは、特に先進諸国で経済の活動や社会の安定に破壊的な衝撃を与えかねない」「こうしたムードは、人々の無力感と不安の表れだ。それによって、新しいタイプのポピュリスト政治家の台頭も説明できる」。この警告は何年前のものと思われるだろうか。1年前か、それとも3年前か。正解は、今から21年前の1996年。反グローバル化の運動が最初の高まりを見せた頃である。ダボス会議は、格差について早くから深刻に捉えていた。毎年出している『グローバルリスク報告書』は、格差の問題に繰り返し言及してきた。2012・2013・2014年には、“起こり得るリスク”の1位に挙げた。今年の報告書では、“今後10年間の世界の動向を左右する要因”を掲載した。そのトップはやはり、“格差の拡大”。「今後も最大の波乱要因だ」という警告だ。だが、ダボス会議が警鐘を鳴らし続けても、恐れていた結果を回避することはできなかった。昨年のアメリカ大統領選や、イギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱が決まった国民投票は、その例だろう。2つの出来事は、“反エリート”の勝利という一面がある。経済・政治・学術のエリートが集まるダボス会議も、やはり負けたのだ。『経済同友会』の小林喜光代表幹事は、「ダボスには敗北感が漂っている」と話す。ここでの議論が、世界経済の最大の課題である格差拡大への処方箋を示せるか――。“トランプ時代”のダボス会議は、存在意義を問われている。

20170123 08
■第4次産業革命、リスク議論
ダボス会議では、開発が進む人工知能(AI)等の“第4次産業革命”について、負の側面に留意する必要性が大きく取り上げられた。第4次産業革命は、経済活動の効率を良くし、消費者の利便性を高める期待がある。「低成長が続く先進国経済を活性化する為の切り札だ」と考えられている。一方で、人々の職を奪う懸念もある。「我々は、技術開発によって“デジタル難民”を増やし得る段階にいる」。アメリカの情報サービス大手『セールスフォースドットコム』のマーク・ベニオフCEOは、今月17日の討論会で、「技術の進歩に置き去りにされる人を減らす為、適切な教育を行うべきだ」と訴えた。第4次産業革命について、世界経済フォーラムの報告書は、「人々の働き方・生き方を根本的に変える」とし、負の影響として雇用に焦点を当てた。先ず第一に、ロボット等が人の労働を奪うことを挙げた。「雇用の5割近くが自動化できる」との調査もあり、技術を持たない労働者ほど職を失う。また、「人々が仕事場から離れた場所で仕事ができるようになる反面、世界中の労働者との競争が生まれる」とも指摘した。自由な労働時間等、柔軟な働き方が可能になるが、雇用契約の質が変わって、雇用や収入が不安定になる懸念がある。翌18日の討論会で、オランダの電機大手『ロイヤルフィリップス』のフランス・ファンホーテンCEOは、「技術革新は、多くの人を貧困から救い、世界を豊かにした。だが、デジタル技術の進歩の速さに、失職への危惧も強まっている」と強調。『日立製作所』の中西宏明会長は、「技術革新は止められず、如何に有効利用するかが重要だ」と訴えた。不安定な雇用環境は、「グローバル化で安い労働力に仕事を奪われた」と批判するポピュリズムの台頭を欧米で招いている。報告書は、「技術進歩を管理することが、労働市場にとって重要な挑戦だ」として、官民一体となった対策を求めている。 (パリ支局 三好益史)


⦿読売新聞 2017年1月20日付掲載⦿

スポンサーサイト

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR