【動き出すトランプ主義】(上) “損得外交”、日本に危機感

現地時間20日にスタートしたトランプ新政権の外交・経済・内政の課題を検証する。

20170124 02
「古い同盟を強化し、新しい同盟も作る」――。ドナルド・トランプ大統領が同日の就任演説でさらりと述べた一文が、波紋を広げている。同盟とは通常、価値観を共有する国同士が、お互いの安全保障に関して関与していく約束を結ぶことだ。だがトランプ大統領は、イスラム過激派組織『IS(イスラミックステート)』壊滅へ向けて、新しい“同盟”を組む意向を示唆した。就任直後に発表した政権の基本政策でも、「旧敵が味方になることを常に歓迎する」との方針を明記した。新たな“同盟”として想定するのが、バラク・オバマ前政権の“敵”だったロシアであることを疑う人は少ない。「アメリカの外交はディールメーカー(交渉人)の手に委ねるべきだ」。トランプ大統領は、第3党である改革党からの出馬を模索した2000年大統領選で、「イデオロギーに関係なく国益を追求すべきだ」との考えを公約集に綴った。競争しながらも、利害が一致すれば、ライバル企業とも時には手を結んだ不動産業時代の経験がベースにあるとみられる。

対露関係では、「ロシアを後ろ盾にしているシリアのバッシャール・アル=アサド政権をIS掃討に活用する」という戦略だ。だが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と連携しても、人道問題が指摘されるアサド政権への協力で、アメリカの国際的信頼が失墜すれば、中東でのロシアの存在感を高めるだけで終わりかねない。トランプ大統領は今月、英紙等に「対露経済制裁は、核兵器削減で合意すれば解除も可能」との考えを示した。殆ど無関係の2つの物事を利害で結び付ける“取引”は、トランプ大統領に関してしばしば指摘される。そんな危うさに、日本は危機感を募らせる。先月下旬、国家安全保障局の谷内正太郎局長は、秘密裏にワシントンに降り立った。トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官への就任が決まったマイケル・フリン氏と会談する為だった。日本政府が急ぐトランプ政権幹部とのパイプ構築で、念頭にあるのは中国だ。トランプ政権は今、「不公平な貿易でアメリカの雇用を奪っている」と中国への圧力を強めている。それでも、日本政府は「中国といい条件で取引したいのが本音では?」との疑念が拭えない。政権では、“親中派”へンリー・キッシンジャー氏の側近であるキャスリーン・マクファーランド氏が、大統領副補佐官に就いた。トランプ大統領の“損得外交”で、取引に中国が応じ、“日本の頭越しに手を結ぶ可能性”が現実味を帯びるかもしれない。思い浮かぶのは、1971年の“ニクソンショック”だ。当時、リチャード・ニクソン大統領は、日本への事前説明無しに大統領補佐官のキッシンジャー氏を密使として派遣し、米中国交回復の道をつけた。台湾と国交を結んでいた日本は出し抜かれた。「日本にとって最悪のシナリオは“トランプショック”だ」。外務省幹部は、こう言って顔を曇らせた。 (アメリカ総局 黒見周平・政治部 橋本潤也)

■“トランプらしさ”全開  ショーン・ウィレンツ氏(プリンストン大学教授)
トランプ氏の就任演説は、雄弁さを意図したものではなく、“自分の言いたいことを言う”という内容だった。大統領選を通じて繰り返してきた主張で、端的に言えば“トランプらしさ”に満ち溢れており、「新政権が今後、どのような方向を目指すのか、これではっきりした」と言える。「アメリカは今、最悪の状況にある」と主張したのも、その後に続く明るい未来との対比を際立たせたいからだろう。こうした例は、歴代大統領の就任演説にもみられる。大恐慌の最中に就任したフランクリン・ルーズベルト大統領に、「政府の存在そのものが問題なのだ」と訴えたロナルド・レーガン大統領。トランプ氏は、こうした前例に倣ったのだろう。しかし、トランプ氏が演説の中で描いたアメリカ社会の現状は、あまりにも暗過ぎると思う。国内経済の状況等を見ても、アメリカの現状は、彼が主張するほど悪くはないからだ。外交については孤立主義を前面に押し出した内容で、「自由世界の盟主になる」と訴えたジョン・F・ケネディ大統領の演説とは正反対の内容だ。演説の中で“アメリカ第一”を繰り返したのも意図的で、諸外国は、この主張を額面通り受け取るべきだろう。 (聞き手/ニューヨーク支局長 吉池亮)

■日本の立場、説得が必要  久保文明氏(東京大学教授)
雇用や国境管理等、国内問題に集中した演説で、同盟国を安心させるメッセージは無かった。それどころか、自由主義諸国のリーダーとして犠牲や負担を背負いながらも、国際秩序を支えてきた戦後アメリカ外交からの離脱を明確に打ち出した。前代未聞で、異次元の不確実性を孕んだ状況だと言える。特に日本は、国内総生産(GDP)に占める防衛費の割合が比較的低く、『日米安全保障条約』ではアメリカのみに対日防衛義務が課される等、トランプ的発想(で批判)の標的になり易い。日本にとっては、国際的な脅威に曝される中、同盟国としてアメリカを信用できるかどうかが問われており、深刻に受け止めるべきだ。ただ、アメリカが中国に強硬姿勢を取るなら、日米同盟の重要性は増す筈で、トランプ氏の主張には「考えが整理されていない」と思わせる点も多い。また、国務長官候補のティラーソン氏は、従来の外交の基本路線を引き継ぐ考えを示している。今後、新政権が閣僚の合議制で動くのか、それとも大統領が全てを決めるのかを注視しながら、日本としてはあらゆる機会に自国の立場を説得していく必要があるだろう。 (聞き手/国際部 深沢亮爾)

■ヨーロッパの指導者、責任増す  ジーニャ・ウィケット氏(『イギリス王立国際問題研究所』アメリカ担当代表)
世界秩序は、重大な移行期に入った。米欧の指導的役割は後退し、その他の国の存在感が大きくなる。それはオバマ政権の時から静かに始まっていたが、トランプ氏ははっきりと「グローバルな責任を担うつもりはない」と表明している。アメリカだけで世界を支えられる時代ではなく、変革は必要だが、その道程は確実に苦痛を伴うものになるだろう。トランプ氏は、米欧が数十年間かけて築いてきた自由主義の世界秩序に敬意を払っていない。言葉だけでなく、実際にそのように行動する恐れがある。そうなると、ヨーロッパの未来は危うくなる。ヨーロッパの指導者は一歩踏み出し、指導的役割と責任を担うことが求められている。トランプ氏は『北大西洋条約機構(NATO)』の加盟国に、よりの重い責任を要求している。今後、アメリカの利害に直接絡む事態でなければ、アメリカの関与は小さくなり、他国により多くを任せようとするだろう。それは中東やアジアでも同じだ。問題は、短期的にアメリカの役割を肩代わりできる国が出てこないことだ。軍事面でアメリカの存在感が低下すれば、中国・ロシア・北朝鮮の自由な振る舞いを招く恐れがある。 (聞き手/欧州総局長 森太)


⦿読売新聞 2017年1月22日付掲載⦿

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