【トランプのアメリカ・身構える世界】(02) “法の番人”無き危うさ

20170125 02
「ビジネスのような損得勘定で外交を動かし、世界を混乱させかねない」――。ドナルド・トランプ大統領には、こんな不安がついて回る。だが、外交の取引を好んだ大統領は、これまでもいた。寧ろ最大の危険は、「世界の平和や自由を支えよう」という使命感が彼に無いことだ。当選直後、トランプ氏はバラク・オバマ大統領(当時)とホワイトハウスで会い、90分間、引き継ぎを受けた。内容を知るアメリカの外交専門家によると、オバマ氏が最も切迫した脅威に上げたのが北朝鮮だった。「北朝鮮の核やミサイル開発に直ぐに対処しないと、大変なことになる」。オバマ氏は自戒を込め、こう力説したという。ところがトランプ氏は、「北朝鮮問題は中国に解決させる」と丸投げの態度を変えていない。世界は戦後、アメリカが警察役を果たし、何とか安定を保ってきた。オバマ前大統領は「もう世界の警察はやらない」と公言しながらも、クリミアを併合したロシアや、北朝鮮への制裁を主導した。国際法に基づいて秩序を守らせる“法の番人”の役目は果たそうとしてきたのである。

トランプ大統領には、そんな意識すら無い。アメリカ軍増強は自国を安全にする為であり、世界の平和を守る為ではないだろう。とりわけ気がかりなのが、中国への対応だ。最近、トランプ政権の閣僚候補に会った国防総省ブレーンは、こう打ち明けられ、驚いたという。「通商や通貨問題で、中国を押しまくっていく。その際、(台湾や北朝鮮といった)安全保障問題を駆け引きに使うかどうか、政権チーム内で真剣な議論が続いている」。トランプ大統領は、台湾や南シナ海問題で、中国に極めて強硬な態度を取っている。だが、「通商・通貨問題で中国が言うことを聞くなら、安全保障問題では多少、譲ってもいい」という発想に陥らないか、心配だ。トランプ大統領は、ロシアにも秋波を送る。ヨーロッパからも、「自分たちの安全保障が置き去りにされる」(フランス政府関係者)といった声が聞かれる。では、アジアやヨーロッパはどうすればよいのか。先ず大切なのが、アメリカの閣僚らとの連携だ。候補には、世界情勢への造詣が深い人たちもいる。例えば、国防長官に選ばれた元中央軍司令官のジェームズ・マティス氏について、元同僚は「自分が知る中で一番知性的な戦略家」と語る。彼は議会公聴会で、同盟国と結束し、中露の強硬な行動に対抗する考えを強調した。とはいえ、大統領の権限は絶大だ。“アメリカ第一主義”に歯止めをかけるには、トランプ大統領とも関係を築かなければならない。2009年、日本では政権交代で生まれた鳩山内閣が、アメリカ軍基地問題等で迷走した。それでも、当時のオバマ政権は辛抱強く向き合い、同盟が壊れるのを防いだ。今、日本やヨーロッパに求められているのは、同じような行動だ。 (編集委員 秋田浩之)


⦿日本経済新聞 2017年1月22日付掲載⦿
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