【2017・問う】(04) 人工知能のあした、創造力までは代替できない――新井紀子氏(『国立情報学研究所』教授)

20170126 06
「人工知能(AI)が人間を凌駕することはあり得ない」と私は思っています。何れは人間の脳全体の計算パワーを上回るコンピューターが出来るとしても、やはり“何をするか”という枠組み(フレーム)を人間から与えられなければ何もできない。人間を超えられません。しかし、進歩するAIとその周辺技術が、これまで人間が行ってきたことの相当部分を肩代わりし、社会を大きく変えることも確実です。「ロボット(AI)は東京大学に入れるか?」という刺激的なテーマを掲げ、2011年から『東ロボ』プロジェクトに取り組んできました。約5年で、AIの東ロボくんは、名の知れた私立大学に受かるレべルまでになった。与えたフレームは、入試問題の正答をより多く見つけることです。ただ、真の目的は東大合格ではなく、「AIには何ができるか?」「どこまで任せられるのか?」を見極めることでした。それは、「人間は何をするべきか?」という深い問いとなって返ってくる。そして、AI技術の進歩で人間の未来がどうなるかを、社会問題として提起したかったのです。枠組みの中で情報を処理する能力は、既にAIが人間を上回っている。囲碁という枠組みで、AIがトップレベルのプロ棋士に勝ったことは象徴的な出来事でした。東ロボくんも例えば、ある記述の正誤を尋ねる問題で、事実か否かの判断が大きな要素ならば、膨大なデータを検索して、かなりの確度で正解できます。しかし、“価値観”のような要素が絡んでくると、答えに到達するのが一気に難しくなる。政治・経済の模試で、民主主義への理解度が試される問題に、東ロボくんは10問中1問しか正答できなかったことがありました。だから、人が何に価値を見い出すのかを考えなければならない仕事は、AIに代替させるにはハードルが極めて高い。介護や子育てに関することが一番難しいでしょう。

また、物事をAIにどこまで任せられるかを考える時、“責任”の問題が立ちはだかります。膨大な検査データと症例を参照して、可能性の高い病名を指摘する医療支援AIが登場しても、「手術するのがよいかどうか?」といった判断は人間の医師がするしかない。同様に、事故を起こせば命にも関わる自動車の運転も、AIに全面的に委ねることはできません。AIは、“責任”を負うことができないからです。AIを活用することで、便利になることは沢山あるでしょう。車の完全自動運転は無理でも、運転者をアシストして事故を防ぐ技術は、かなり実用化が進む。経験に頼る部分が多かった農業も、収穫状況と天候等の諸条件を関連点けるビッグデータから、AIがコントロールできるようになっていく。一方で、人間にとって、うかうかとはできない状況も齎します。AIのほうが人間より上手くできる作業は、当然、AIが行うようになる。例えば、会計監査や銀行の融資審査等はエリートの仕事というイメージが強いけれども、多くは枠組みの中でデータを分析する作業であり、AIが得意とするものです。製品のセールス業務等も、消費者の使用データから買い替え時期を割り出すAIが受け持っていく。そうすると、ホワイトカラーの人たちの半数くらいは、AIに“仕事を奪れる”。その時、人間が携わるのは、高い創造力や重い責任が求められる為にAIにはできない仕事と、AIより人間を使うほうが安いから人間にさせておく仕事に二極分化すると思います。日本の中でどれだけの人が、AIにはできない創造性ある仕事を生み出し、携わる能力を持っているでしょうか。次代を担う子供たちがAIを使う側になるか、使われるかは、教育にかかっています。AIは、暗記と手順通りの作業が最も得意です。だから、現在のような暗記力を重視する教育では、AIに敵わない子しか育ちません。大切なのは、物事の意味を理解し、思考し、表現できる力を養う教育です。AIが最も困難とするところだからです。しかし、現状を見ると、益々危惧を抱かざるを得ません。東ロボプロジェクトの過程で、AIは、ある程度の長さを持った文章を、文脈を理解して読み解くのが極めて苦手だということがわかりました。ところが同時に、その東ロボくんに読解力で劣る中高生が沢山いることも判明したのです。これは『ツイッター』等、極短い情報や思いつきをやり取りするSNSに、コミュニケーションや知識獲得の場が偏っている影響でしょう。家の中に新聞や本の無い家庭が増え、スマートフォンの画面を見るばかりで、論理的に構成された文章に殆ど接していない子供が多い。既に大人の世界も、論理的ではなく、断片的・感情的な情報で世論や政治が動き始めました。この風潮は今後、一層強まるかもしれません。AIを研究することによって、「人間は劣化していないか?」という皮肉な問いもまた、突き付けられているのです。 (聞き手/科学部 冬木晶)

20170126 01
■何故、トップ棋士に勝てるのか?
「強い。人間と打っているようだった」――。昨年11月、囲碁電王戦の3番勝負を2勝1敗と勝ち越した趙治勲名誉名人(60)は、対戦相手の棋力に舌を巻いた。相手とは、日本で開発中の囲碁AI『Deep Zen Go』だ。第一線で活躍中のプロ棋士から1勝をもぎ取ったのである。目を見張らされたのは、Deepの優れた序盤感覚だ。囲碁は一手一手の価値を評価するのが難しく、ソフトの進歩は遅れていた。部分的な好手が全局的な最善手とは限らない。ところがDeepは、布石の段階から全局を俯瞰してバランスよく打ち進めてきた。それは、“大局観”と呼ばれる人間ならではの能力…の筈だった。勿論、AIは大局観を自覚している訳ではない。局面の展開可能性を試行し、勝率の高い手を選ぶようプログラムされているだけだ。その精度が劇的に同上した為、まるで大局観を会得したかのように見えるのである。囲碁は、打てる手を全て考慮すると、検討すべき局面の数がチェスや将棋より遥かに大きい。コンピューターがトップ棋士を打ち負かすのは、未だ遠い先と見られてきた。

予想を覆したのが、『グーグルディープマインド』が開発した囲碁AI『アルファ碁』の登場だった。昨年3月、世界のトップ棋士と目される李世乭9段(33)を相手に4勝1敗と圧勝した。Deep Zen Goも、同じ開発手法を取り入れている。“ディープラーニング(深層学習)”と呼ばれるものだ。ディープラーニングは、先ずコンピューター上に人間の脳の神経回路を模して、電気回路で多数の層を作る。最初の層(入力層)と最後の層(出力層)の間に、数多くの中間層(隠れ層)を設定する。そして、例えば大量の猫の画像情報を入力層に与えると、色や形といった単純な要素の情報に分解されて中間層に伝わり、更に情報の抽出・分析が何段階も行われて、遂には“猫”というものの特徴をコンピューター自身が見い出す仕組みだ。囲碁AIも、打てる手を闇雲に全部検討するのではなく、膨大な量の優れた棋譜を深層学習する等して、“勝ち筋”を選ぶ確率を上げているらしい。アイデア自体は昔からあったが、2000年代後半にコンピューターの処理速度が飛躍的に向上し、“教材”となる大量のデータ(ビッグデータ)が使えるようになって実現した。深層学習では、データが多ければ多いほど、中間層を増やせば増やすほど、高度で抽象的な概念が理解できるようになる。 (文化部 川村律文・科学部 冬木晶)

20170126 02
■自動運転はどこまで進むのか?
愛知県や名古屋大学等が、完全自動運転の“無人タクシー”実現に向けた実験を行っている。公共交通機関が少なく、マイカーが欠かせない山間地域等の高齢者に、将来の移動手段として利用してもらうのが目的だ。先月、愛知県豊田市の山間部で行われた自動運転車の公道走行。緊急時に備えて、運転席にはドライバーも乗ってはいるが、アクセルもブレーキもハンドルも、操作の主体はAIだ。急勾配や見通しの悪いカーブを、スムーズに走り抜けた。“レベル3”の自動運転である。実験車両は、地形等3次元の地図情報を搭載した『トヨタ自動車』の『プリウス』。車両上部の“ライダー”と呼ばれる装置等、複数のセンサーを駆使して、道路や障害物の状況を検知している。3次元地図情報のデータは膨大な量になるが、地域を限定して運行するのならば十分対応でき、無人タクシーのような“レベル4”での実用化も、技術的には可能という。自動運転の技術は、ハンドル、アクセル、ブレーキという3種の操作に、人間、つまり運転手がどこまで関与するかで、4段階のレベルに分けられる。運転手無しで車を動かすレベル4や、運転手はいてもAIが操作主体となるレベル3は、“自動運転”の領域に入る。その手前のレベル2までは、“運転支援”と呼ぶべきだろう。AIが障害物を感知して自動部レーキをかけるシステムはレベル1に当たり、既に多くの車種に搭載済み。ブレーキとアクセルを自動操作して一定の車間距離を保つレベル2のシステムも、急速に普及しつつある。先ずは高齢者等、判断能力が衰えたドライバーの運転を支援し、事故を防ぐ技術として期待される。 (中部支社 仁木翔大)

20170126 03
■事故の責任、難しい判断
完全自動運転が技術的には実現しても、法律上の困難が残る。寧ろ、そのほうが難しいかもしれない。AIを搭載し、安全な筈の自動運転の車が死亡事故を起こした。“責任”は誰が取るのか――。『日本機械学会』は先月、こんな想定で模擬裁判を開いた。「完全自動運転のワゴン車が直進中、前方右から自動車が飛び出してきた。ワゴン車は急ブレーキをかけたが、ハンドルは切らずに自転車を撥ね、相手を死亡させた」。被害者側は「AIの欠陥だ」として、自動車メーカーを提訴。メーカー側は、「『ハンドルを切れば、隣の車線の後方から接近中のトラックと重大事故になる』と判断し、AIは急ブレーキのみを選択した。欠陥ではない」と反論した。裁判官役の弁護士は「欠陥か否かの判断は難しい」として、遺族側の訴えを棄却した。実際、メーカーはこのようなケースでAIがどちらを選択するようにプログラムするのか。そんなことが可能なのか――。完全自動運転車は2025年にも実現が見込まれているが、明治大学の中山幸二教授(民事訴訟法)は「AIの判断で生じた結果に対して、法整備が全く進んでいない」と警鐘を鳴らしている。

■癌患者の情報、10分で分析
AIは、医療分野での活用にも期待がかかる。膨大な診療記録等をビッグデータとして解析することで、患者毎に最適な医療が提供できるとみられている。『東京大学医科学研究所』は、『IBM』のAI『ワトソン』に膨大な医療論文を学習させて、患者の遺伝子情報から癌発症の原因を突き止め、治療法を探す研究を開始した。人間の専門医が2週間かかる分析にワトソンが要する時間は、僅か10分。着々と患者に役立つ成果も出ている。日常の診療にも導入されつつある。自治医科大学のAI『ホワイトジャック』だ。目指すは、手塚治虫が漫画で描いた天才医師のブラックジャック。患者の問診票や診察内容から、考えられる病名・必要な検査・薬の候補を医師に助言する。自治医大の卒業生は、他に医師のいない所で医療を担うことも多い。ホワイトジャックは、頼れる“同僚”になるかもしれない。 (医療部 山田聡)


⦿読売新聞 2017年1月6日付掲載⦿

スポンサーサイト

テーマ : 政治・経済・社会問題なんでも
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR