【トランプ氏の世界】(04) 対露制裁解除、慎重に――ロビン・ニブレット氏(『イギリス王立国際問題研究所』所長)

20170126 07
ヨーロッパが注視する対露関係について、ドナルド・トランプ次期大統領は慎重な対応をするのではないか。アメリカ議会は、経済制裁の解除を支持していない。制裁を解除しないよう、周囲から強く助言されるだろう。(関係改善に向けた)行動に直ぐに移さず、相手から譲歩を引き出せるか。知的に抑制して行動するかが注目される。大統領選を控えたフランス等のヨーロッパ内にも、対露制裁の解除を求める声はある。ただ、ウクライナ問題等を抱えるヨーロッパが制裁を解除することは難しい。アメリカを含む大きな合意が必要だ。トランプ政権の大きな懸念材料は、気候変動問題について、『パリ協定』で掲げた目標を見直すことだ。トランプ氏は、エネルギーの自立性確保を強く信じる人々を閣僚に選んだ。自身も、エネルギーの国内生産推進を重視している。イラン問題も懸念材料だ。飽く迄も予測だが、トランプ氏は核以外の分野でアメリカの独自制裁を強化する可能性がある。アメリカがイラン制裁を強化すれば、ヨーロッパ企業もイランと取引がし難くなり、核合意にも影響が出かねない。

トランプ氏は、『北大西洋条約機構(NATO)』のヨーロッパ加盟国に国防費増額を求めているが、ヨーロッパ側は丁度、増額を始めたところだ。弱体化の方向には向かわないだろう。ロシアとの間で高まる軍事的緊張を乗り越え、新たな関係を模索する手段として、NATOを活用する可能性もあるのではないか。欧米を中心とした西側諸国は、1945年以降、リベラルな国際秩序を信奉してきた。「開かれた市場・民主主義・個人の人権が、軈ては全世界に広がる」と確信していた。しかし、今はリベラルな国際秩序が欧米諸国でも国内の支持を失い、民主主義を世界に広める前に、国内問題に対処する必要が生じている。過去70年間、この国際秩序に安全の傘を提供してきたアメリカは、“アメリカ第一”を掲げるトランプ氏の下で第2次世界大戦以降、最も内向きになっている。貿易も、経済成長やリべラルな国際秩序の推進力ではなくなっている。世界的に豊かな国と貧しい国、技術的に進んだ国とそうでない国の差が縮まり、各地で国内生産を重視する傾向が現れている為だ。今後の世界には、異なる政治制度が共存する“リべラルな国際経済秩序”が生まれるのではないか。その推進力となるのは、貿易ではなく、社会基盤(インフラ)への投資だ。アメリカ、ヨーロッパ、中国も、インフラ重視の傾向がある。「情報・データ・投資・人の動き等、世界が重層的に繋がり、国際化が進んでいく」と考えられる。イギリスについて言えば、トランプ氏が過激な発言を実行に移さずに妥協するなら、英米の“特別な関係”を維持できる。若し極端な政策に走るなら、イギリスは米欧の間で選択を迫られる。国益優先なら、イギリスはヨーロッパを選ばざるを得ない。

20170126 04
■揺らぐパリ協定
トランプ次期政権で、アメリカの環境政策は大きく転換しそうだ。トランプ氏は大統領選で、「地球温暖化問題は中国のでっちあげ」と主張。要となるエネルギー省と環境保護局(EPA)の長官に、温暖化問題の懐疑論者を起用した為だ。ヨーロッパは、2020年以降の地球温暖化対策について定めた『パリ協定』に力を入れてきた。国際協調の象徴となる政策は、米中の主導で早期発効したが、その実効性は大きく揺らいでいる。

■中露との共通項  角谷志保美(本紙欧州総局)
ニブレット氏が新たな国際秩序と呼ぶ“リベラルな国際経済秩序”とは、政治と経済を両輪として発展してきた戦後の国際秩序から、民主主義の発展という政治的な側面を除いたものだ。冷戦が終わり、資本主義体制が勝利した際には、「民主主義が世界に拡大していく」という楽観論があった。今や、米欧等の民主的な国家は、強権的な政治体制の中国やロシア等との共存を探らざるを得ない。だが、どのような政治体制であっても、国民の不満を抑えるには、社会基盤(インフラ)を拡充し、格差を是正するような“リベラルな経済秩序”が必要になる。そこに共通項を見い出せる。ヨーロッパは今年、ドイツやフランス等で重要な選挙が続く。新秩序に繋がる政策で国民の支持を得られるかが焦点となる。


⦿読売新聞 2017年1月6日付掲載⦿

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テーマ : 国際政治
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