【トランプのアメリカ・身構える世界】(03) 過信の代償、計り知れず

20170126 09
“アメリカ第一”を絶対視するドナルド・トランプ大統領の就任と並行して、世界経済の秩序の揺らぎを示す場面が先週、相次いだ。「職・国境・富・夢を取り戻す」と今月20日の就任演説で約束したトランプ大統領。直前のヨーロッパメディアとの会見で、『ヨーロッパ連合(EU)』単一市場からの撤退に動いたイギリスのテリーザ・メイ首相を称賛した。米英共に、2国間の『自由貿易協定(FTA)』に意欲を示す。EU離脱に反対するバラク・オバマ前大統領は、イギリスに「(交渉は)列の最後になる」と警告したが、メイ首相は「トランプ氏は『前線にいる』と言っている」と言明した。同17日の『世界経済フォーラム(ダボス会議)』で自由貿易の大切さを得々と説いたのは、中国の習近平国家主席だ。民主主義と自由市場の先陣である米英が自国優先に舵を切り、非民主主義の中国がグローバル化の盟主を気取る――。倒錯した構図だ。

世界は、新大統領の3つの“不”に身構える。先ず、“不寛容”だ。貿易収支の赤字を容認せず、中国・メキシコ・日本を名指しで牽制したトランプ大統領。高率の関税や企業への脅迫で投資や雇用を向けさせ、アメリカ製品を買わせる姿勢を取る。保護主義の行使を辞さない大統領への懸念は、ヨーロッパにも広がる。「今後、多額の対米黒字を稼ぐドイツ経済が悪者にされるかもしれない」と、『Ifo経済研究所』のクレメンツ・フュスト所長は指摘する。第2は“不連続”だ。就任初日から『オバマケア(医療保険制度改革法)』と『環太平洋経済連携協定(TPP)』を排除したトランプ大統領は、既存政権の遺産を破壊することに寧ろ活路を求めている。一方的な関税引き上げや輸入制限は、『世界貿易機関(WTO)』のルールに抵触する。だが、「まさに多国間の枠組みがアメリカ国民の雇用や富を奪った」とみるトランプ氏は、アメリカが主体的に関わってきた既存のルールや機関の否定に走るかもしれない。結果として生じる第3の懸念は、“不透明感”。積極財政策等への期待でトランプ相場に酔った金融市場は、保護主義に伴う負の効果にも目配りが必要になった。コストや品質を最適にする原材料や部品の供給網が寸断される恐れがある以上、企業も投資戦略を立てられない。アメリカが輸入制限に動けば、相手国も報復に出るだろう。『経済協力開発機構(OECD)』の試算では、関税等貿易のコストが10%上がると、アメリカの輸出は15%近く減る。中国やヨーロッパより打撃は大きい。「保護主義の下でアメリカが繁栄を謳歌できる」という“過信”の上に成り立つトランプ流。内向きの政策が蔓延すれば、世界経済は縮小均衡に陥り、打撃は計り知れない。「日本には、トランプ大統領に対抗できる交渉カードが必須。それは総合的な国力・成長力だ」(元財務官の行天豊雄氏)。アメリカ発の迷走を止める責務は、日本にも重くのしかかる。 (編集委員 菅野幹雄)


⦿日本経済新聞 2017年1月23日付掲載⦿
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