【ヘンな食べ物】(22) 土フレンチ

“土”料理を出すというフランス料理店に行った。「えっ、土?」と思わず聞き返してしまうだろう。私もそうだった。世界の彼方此方を歩いてきたが、土を食べる民族など見たことも聞いたこともない。心身の病気だとか、飢えを凌ぐ為に土を口にしてしまうとか、或いは妊娠した女性が何故か土を食べてしまうという話はあるが(※日本も明治以前にはそういう例があったらしい)、食材として土を料理するなど前代未聞。首を傾げつつ、実際に五反田にある『ヌキテパ』に行ってみたのだ。シェフの田辺年男さんに土料理を始めたきっかけを訊くと、「『美味しい野菜はいい土からできるから、土も食べられるんじゃないか?』と思った」。長嶋茂雄元監督もびっくりの天才的閃きだ。どこの土も味や香りは大差ないので、現在は入手し易い鹿沼の黒土を使用しているという。そして、土のコースが始まった。アワビとイカの土タルタルソースがけ、椎茸とハマグリの土ソースがけ、トリュフとじゃがいもの土団子、イサキとハタの土のリゾット、土のソルベ…。料理が運ばれてきた時、何度か笑いがこみ上げてきた。子供の頃、ふざけて作った土料理みたいだからだ。しかし、食してみれば笑うどころではない。驚くほど美味しいのだ。「土は何度も裏漉ししてあるので、無味無臭だ」とシェフは言う。その通り、土の味は全くしない。ただ、仄かに土の香りがする。この仄かな香りを浮き上がらせる為に、料理は徹底して薄味。出汁も取っていないらしい。不要なものをどんどん削ぎ落としていったら、万物の原点である土に辿り着いてしまったかのようだ。食べ終わった後、何とも言えない不思議な懐かしさを覚えた。子供の時の記憶かもしれないし、これから還る場所へのデジャヴュなのかもしれない。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年1月26日号掲載
スポンサーサイト

テーマ : 海外旅行
ジャンル : 旅行

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR