【日本の政治・ここがフシギ】第1部(04) 不自由な選挙活動

20170127 03
「これでは、ルールを破らずに選挙運動をするほうが難しい」――。アイルランド国籍を持ち、アメリカで博士号を取った東京大学のマッケルウェイン・ケネス・盛准教授(憲法学)が、日本で強い違和感を覚えたのは選挙制度だ。「選挙期間とそれ以外の期間にできることをこんなに厳密に分けるのは、諸外国でも珍しい。規制緩和が必要だ」と訴える。日本の選挙のルールブックである公職選挙法は、全部で275条。公示日から、投票日の選挙運動や、日常の政治活動。一挙手一投足まで禁止事項が並ぶ。例えば、選挙区内の住宅を1軒1軒訪ねて投票を依頼する“戸別訪問”はダメだ。『国立国会図書館』の調査では、『主要7ヵ国(G7)』でこんな規制があるのは日本だけだ。アメリカでビジネス経験がある元参議院議員の松田公太氏。2010年の出馬時、選挙事務所にエスプレッソマシンを置いて訪れた人にコーヒーを振る舞おうとしたところ、秘書に止められた。

「公選法違反です。お茶はいいが、コーヒーはダメ」。公選法では、有権者に有価物を渡すことは厳禁だ。許されるのはお茶と茶菓子まで。お茶も、ペットボトル入りをそのまま渡せば有価物。キャップを外したり、コップに注いだりするのが常識だ。公示前に“事前運動”ができず、公示日から一斉に選挙運動をする日本のルールも珍しい。アメリカ人弁護士でタレントのケント・ギルバート氏は、「アメリカの大統領選は長過ぎるが、日本の選挙は短過ぎ。政策論争ではなく、人気投票になりがち」と話す。日本で男子普通選挙が実現した1925年。有権者の買収等、不正が横行し、政府は戸別訪問禁止等の厳しい規制を設けた。確かに、厳格な規則があれば選挙の公正性は確保される。しかし、元総務官僚で選挙部長を経験した早稲田大学の片木淳教授は、「戸別訪問禁止等は、国民の選挙への参加意識を低下させる」と説く。インターネットも同じだ。アメリカでは規制は無く、候補者と有権者がSNSで常に活動できる。日本もSNSで投票の呼びかけができるが、リアルな世界と同様、公示日から投票前日までだ。有権者はSNSで候補の応援ができるが、メールを使うと違法とわかり難い。横浜市立大学の和田淳一郎教授は、「インターネットでは、もっと自由にやればよい。メールの規制は緩和すべきだ」と話す。「選挙の期間や手法を限定すると現職が有利」。前出のマッケルウェイン氏は説く。常に選挙運動ができれば、新人・元職と現職の差は縮み、規制が緩めば国民の政治参加も増える。でも、ルールを定める国会は現職が占める。変化の兆候は見えない。

■選挙の自由度、アメリカと対照的  マッケルウェイン・ケネス・盛氏(東京大学准教授)
――日本と世界各国の選挙制度の比較分析を研究しているが、何故日本に関心を持ったのか?
「20年間暮らしたアメリカで体験した選挙運動の長さと自由度が、日本の選挙とあまりに対照的だった為だ。アメリカ大統領選は1年かけて行われ、何度も討論会が開かれ、メディアは候補者の言動や過去の実績を調べ尽くす。当初、有力視されていた候補者が、予備選挙であっさり負けることもある」
「それに比べ、日本の選挙運動は、衆院選だと12日間、参院選だと17日間に限られる。現行の公職選挙法が施行された1950年時は、衆院選で30日間の選挙運動を認めていたが、徐々に短くなった。規制を増やすことは、有権者が候補者の情報を得る機会を減らすことでもあり、民主主義の理念に反している」

――日本の選挙運動の規制は厳し過ぎるか?
「アメリカでよく見られる戸別訪問が無い。『候補者が有権者にお茶は出していいが、コーヒーはダメ』といった意味の無い規制も、ルールとしてよくない。メディアの情勢調査の公表方法も、各候補のパーセンテージを出さないのは不自然だ。供託金もべらぼうに高い。他国では、一定人数の有権者のサインを出馬の条件にする制度が一般的だ」

――日本の選挙制度が政治に与える弊害は?
「選挙期間や手法を限定すると、現職が有利になる。選挙で風が起き難くなり、野党には不利になる。新しい声が反映され難くなる。新人候補が政界に入ってくる為には、なるべくフリーな選挙システムが必要だ。女性議員を増やす為にも、選挙期間の延長や選挙運動の規制緩和が必要だ」

――日本の政治全体でおかしな点は?
「国会のヤジがわからない。“品が無い”としか思えない。衆議院解散が多いことも問題がある。国民の選挙疲れで、投票率が下がっている。選挙が多いと、政党は選挙の度に新しい約束をするので、バラマキ政策に走り易い。アメリカでは、『選挙が多い国は国債残高が多い』という研究もある」

               ◇

■2大政党で政策競争を  ケント・ギルバート氏(弁護士)
――アメリカと日本の選挙制度を比べて感じることは何か?
「アメリカ大統領選はちょっと長過ぎるが、日本は逆に短過ぎる。2週間程度の選挙運動では、政策論争が十分にできない。選挙事務所のスタッフに払う給料や有権者に出す飲み物にまで規制があるのも驚いた」
「アメリカでは、騒音で有権者の反感を買うので、選挙カーはあまり使わず、集会が中心だ。候補者によっては、コンサートで集客して演説をすることもある。テレビコマーシャルも活用する。その為、選挙に莫大なお金が動く。どちらがいい・悪いというのは言えないが、日本の選挙とは別物だ」
「日本では、候補者の政策を十分に聞いて投票できないので、“支持する政党に投票している”というのが実態ではないか。国会議員が個人の政策で当選した訳ではないので、国会で党議拘束がかかると、造反するのは中々難しい。アメリカでは“候補者個人に投票する”という意識が強いので、議員が政党の方針に反する行動を取ることもよくある」

――選挙制度が、日本の政治にどんな影響を与えているか?
「選挙戦が短く政策論争にならないから、有権者も与野党の政策がよくわからず、只の人気投票になっている。だから、野党は自らの政策より、“政府に何でも反対”になりがちだ。私は完全小選挙区制が最善と思っているが、日本は比例代表も採用しており、小さな野党が乱立している。影響力のある健全な野党があり、2大政党で競い合わないと政治は腐敗する」

――投票の方法も違いがあるか?
「違いはある。私が投票するユタ州では、不在者投票は郵便の他、ファックスやメールでも可能だ。市の選挙になると、最早オンライン投票のみだ。大統領選の投票用紙はA4で2枚もあり、知事選・郡議会選・州憲法改正等を一斉に投票した。日本では別々に選挙をやるので、“しょっちゅう選挙をやっている”という印象だ」

――国会審議で日米の違いを感じるか?
「アメリカの議会では、公聴会が頻繁に開かれている点が日本と違う。公聴会だけを映す専門チャンネルもあるくらい、有権者は公聴会での議論を重視している。ここで法案内容を詰めて議会に出す仕組みだ。実際、法案による影響を受ける人たちや、その分野の専門家の意見を取り入れることは重要だ」 (聞き手/甲原潤之介)


⦿日本経済新聞 2017年1月19日付掲載⦿

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