【「佳く生きる」為の処方箋】(36) AEDの大いなる誤解

心臓突然死を起こす人は、年間約7万人。日本のどこかで、毎日200人近い人が、心臓の急変により亡くなっています。この原因で一番多いのが、最も危険な不整脈と呼ばれる“心室細動”。心臓の中の心室という場所がブルブルと小刻みに震えて、正常な拍動ができなくなり、血液を全身に送り出せなくなります。急性心筋梗塞から心室細動へと至る例が多く見られます。心室細動が起こると、顔面蒼白になって瞳孔が開き、その場にばたんと倒れてしまいます。血流が途絶えて、脳の酸欠状態が4分も続くと、脳細胞が死滅し始め、脳は致命的なダメージを受けることに。救命率も、1分経つことに10%ずつ下がっていきます。そこで重要なのが、一刻も早い救命処置です。119番通報をしてから救急車が着くまでに全国平均で8.6分かかりますから、到着を待っていては救命率が大幅に低下します。先ずは、倒れた人の傍に居合わせた人が心肺蘇生を行う。それが命を救う大前提となるのです。その際、救命処置の切り札といえるのが『AED(自動体外式除細動器)』です。最近は駅・空港・学校等、人が大勢集まる場所に設置されていますから、目にした人も多いことでしょう。AEDは、心臓に電気ショックを与えて心室細動を止め、正常な心臓のリズムを取り戻す為の医療機器。2002年、高円宮憲仁親王がスカッシュをしている最中に心室細動を起こし、帰らぬ人となりましたが、これをきっかけにAED設置が急速に広がったという背景があります。

先日、読者の方からAEDに関するメールをもらいました。「AEDは止まった心臓を再び動かす為のものと思っていた」そうですが、「地元の消防署で心肺蘇生講習を受けたところ、それが誤りだったことに気付いた」というのです。確かに、テレビドラマ等では「心臓が止まって心電図がフラットになった患者に医師が電気ショックをかけたら生き返った」等というシーンが出てきたりしますから、一般の人が勘違いするのも無理はありません。しかし、これは全くの嘘で、心臓が完全に止まった人に電気ショックをかけることはありません。AEDの目的は、その名称が表す通り、心室に生じた細動を取り除くこと。心室細動に陥ると、心臓は拍動という本来の機能は失いますが、未だ細かくは動いているのです。突然、近くで誰かが倒れ、意識も呼吸も無い――。そんな状況に若し遭遇したら、やるべきことは3つです。第1は、救急車を呼ぶこと。第2は、何はともあれ心臓マッサージです。胸骨を強く、速く、絶え間なく圧迫することで、心臓の拍動機能を肩代わりし、脳や臓器への血流を再開させます。「胸骨が折れたら…」等と心配する人がいますが、折れても構いません。心臓を止まったままにすることのほうが遥かに重大なのです。そして第3は、AEDの使用です。近くに設置されていたら、躊躇せずに使って下さい。電源を入れると音声の指示が出ますから、それに従えば誰でも簡単に操作できるようになっています。倒れた原因が心室細動なのか、電気ショックが必要なのかどうかも、機器が判断してくれます。尚、電気ショックをかけた後も、心臓マッサージは救急隊が到着するまで続けます。救命処置を行うべきか判断に迷うこともあるでしょうが、“疑わしきは行う”が鉄則です。消防署等が心肺蘇生講習会を開いていますから、一度参加してみるといいでしょう。隣人を助ける術を習っておいて損はありません。裏返せば、貴方自身が隣人に助けられることもあり得るのです。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2017年1月26日号掲載
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