【Global Economy】(21) トランプ政権の通商政策…アメリカの保護主義、蘇る亡霊

アメリカのドナルド・トランプ大統領が、国内産業を過剰に守ろうとする保護主義の姿勢を強めている。アメリカの通商史を振り返ると、実は3度目の“いつか来た道”であることがわかる。 (本紙経済部デスク 小谷野太郎)

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「労働者が再び生活水準を維持し、慣れ親しんだ分野で安定した雇用に就けるようにする」――。これは、トランプ大統領の発言ではない。今から約90年前の1928年、アメリカのハーバート・フーヴァー商務長官が農民に呼び掛けた言葉だ。当時、世界的に農産物が供給過剰になり、アメリカでも穀物価格が急落。農家が次々と廃業した。翌1929年に起きたニューヨーク株式市場の株価大暴落をきっかけに世界恐慌に陥ると、アメリカ国民から不満が噴出した。「国内産業を輸入品から守る為、関税を引き上げるべきだ」。アメリカ議会のリード・スムート、ウィリス・ホーレー両議員は、輸入する農産品や工業品の関税を大幅に上げる『スムートホーレー関税法案』を起草した。アメリカの経済学者は、保護主義が齎す悪影響を懸念した。1028人もの学者が、法案否決を訴える嘆願書に署名した。それでも、国民の声に押された議会は、1930年に法案を可決。大統領に就任したフーヴァーも署名した。1933年には、アメリカ政府は原則としてアメリカ製品のみを買う『バイアメリ力ン法』も成立した。アメリカに輸出し難くなった諸外国では、報復措置が広がった。イギリスやカナダ等の英連邦は、域内の関税を下げる一方、城外からの輸入関税を高くする特恵関税制度を強化した。地域毎に排外的なグループを作る“ブロック化”が進み、世界の貿易量は数年で3分の1に激減した。新たな市場や資源を軍事力で奪おうとする動きが強まり、世界は第2次世界大戦へと向かっていった。この反省から、戦後の社会は自由貿易の推進に取り組んだ。1948年には、多国間で貿易の障壁を取り除く交渉をする『関税質易一般協定(GATT)』が発足した。だが、1970年代の石油危機で世界的に景気が落ち込むと、アメリカで保護主義が再び頭を擡げた。日本車を標的にした日米貿易摩擦だ。

当時、日本の自動車メーカーは石油危機に対応する為、低燃費の小型車を次々と開発。対米輸出を年率10~20%の高い伸びで急拡大させていた。対するアメリカ大手3社(ビッグスリー)の車は大型で、“ガスガズラー(ガソリンばかり大量に消費する車)”と呼ばれ、業績が悪化した。1980年には、3社のレイオフ(一時解雇)が計25万人にも及んだ。アメリカ政府は日本に対し、輸出の自主規制や、アメリカでの生産を求める政治的圧力を強めた。当時のマイケル・マンスフィールド駐日大使は、「爆弾の導火線に火が点いた」と日本を恫喝した。日本政府は1981年、自動車の対米輸出の自主規制に踏み切り、『ホンダ』や『日産自動車』等はアメリカでの現地生産を始めた。この“成功体験”をきっかけに、アメリカの対日要求はエスカレートし、その後は半導体や工作機械等でも輸出規制を求めた。しかし、アメリカ車の不振は、アメリカの消費者が小型車を求めた結果だ。企業努力の不足を棚に上げて政府に泣きつき、一時的に業績を回復したところで、長続きする筈もない。実際、今やアメリカの新車市場で、日本勢は4割近いシェア(占有率)を誇る。『ゼネラルモーターズ(GM)』は2009年に経営破綻し、『クライスラー』は『ライアット』との提携で生き延びる等、ビッグスリーは苦境が続いた。現在のアメリカは、1930年代・1980年代の亡霊が蘇ったかのようだ。トランプ大統領は「バイアメリカン」(アメリカ製品を買おう)と叫び、『環太平洋経済連携協定(TPP)』から離脱する大統領令に署名した。今後は2国間の協定交渉を進め、貿易相手国に“是正”を求める考えも示した。メキシコ国境沿いに壁も建設する。トランプ大統領が自動車産業を頻りに守ろうとする背後には、ビッグスリーの一角である『フォードモーター』の影もちらつく。1930年代の世界恐慌の研究で知られる経済学者のチャールズ・キンドルバーガーは、「各国が個別の国益の擁護に転じた時、世界全体の利益は失われた」と指摘した。慶應義塾大学の渡辺頼純教授は、「トランプ政権の姿勢は、1980年代への逆戻りだ。不必要な貿易摩擦に世界全体を引きずり込む恐れがある」と語る。昨年にかけてTPPの協議が進んだ際、日本国内では農産物の輸入増に対応できるよう、農業の競争力強化の検討が進んだ。貿易の自由化は、その国の得意な生産物の輸出が増えるメリットと同時に、競争力の弱い国内産業に努力を促す効果も齎す。国民の不満の矛先を海外に向ける手法は、国内で痛みを伴う改革を必要としない為、為政者が国民の支持を保つのに手っ取り早いやり方だ。しかし、保護主義の広がりは世界の経済を停滞させ、“いつか来た道”となる恐れがある。

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■アメリカ経済にも恩恵無し  中川淳司氏(東京大学教授)
トランプ政権の保護主義の政策で、世界の自由貿易推進の流れは止まるのか。通商政策に詳しい東京大学の中川淳司教授に見解を聞いた。

トランプ大統領はTPPからの離脱に加え、『北米自由貿易協定(NAFTA)』の見直しも表明した。だが、メキシコからの輸入品に関税をかければ、消費者の負担が増え、結局はアメリカの首を絞めるだけだ。トランプ大統領は、就任演説で「バイアメリカン」と唱え、保護主義の姿勢を鮮明にした。これでは世界の成長に背を向け、アメリカ経済に何ら恩恵を齎さない。『ヨーロッパ連合(EU)』からの離脱を決めたイギリスも今後、アメリカと個別に『自由貿易協定(FTA)』を結ぶ必要がある。今のEUのルールでは、イギリスは離脱後でないとアメリカとの交渉ができない。イギリスの離脱には、これから最低2年はかかり、その後に交渉を始めても、トランプ政権の1期目に決着しない可能性が高い。日本も、トランプ氏の発言に振り回されな いことが大事だ。TPPの狙いは、“21世紀型の新しい貿易・投資ルール”を定めることにある。トランプ政権の4年間には発効できなくても、合意した今の枠組みをそのまま残しておくのが正しい判断だ。アメリカにTPP離脱を撤回してもらうのが最善だからだ。TPPは、協定文が出来上がっている意味が大きい。日本が関連法を成立させたように、他の参加国にも国内手続きを進めてもらい、アメリカが戻ってくれば即座に発効できるよう準備しておくことが、最も大切だ。世界がメガFTAに向かう流れは変わらない。TPPの高度な合意内容は、将来の“世界標準”になる可能性がある。


⦿読売新聞 2017年1月27日付掲載⦿

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