信賞必罰・スッポン営業、『大和ハウス』売上3兆円の秘密――10年で売上高・利益とも約2倍、雰囲気は“軍隊”・“中小企業”

20170131 08
JRの最寄り駅から車で約10分。千葉県内の住宅街の一角に、“ダイワハウス”と書かれたシートで囲った建設現場があった。広さは約2300㎡。「ここは賃貸アパートが建つ予定。向こうにオフィスビルが見えるでしょ。あれも大和ハウスが建てた」。嘗て、地元で農業を営んでいた為、広大な土地を所有する須藤覚氏・作一氏親子(右画像)はそう語る。須藤親子と『大和ハウス』の付き合いは、約40年にも上る。1970年代後半。所有する別の土地をどう活用するかに悩んでいた覚氏の元を、「倉庫を作りませんか?」と大和ハウスの営業マンが訪ねてきた。「大通りに近く、倉庫にすれば『借りたい』という企業は多い筈。安定した賃料が入りますよ」。何度も足を運んでは熱心に説明する営業マンに心を動かされ、1982年に倉庫を建設したのが最初だ。この倉庫は今、店舗に姿を変え、ドラッグストアが営業している。県内にある別の土地は、先ず中華料理店の店舗にしたが、その後はオフィスビルに建て替えた。賃貸アパート経営には乗り気ではなかったが、「相続税対策に有効」という提案を受け入れ、今や保有物件数は建設中のものを含めて14棟にも上る。合計2万㎡はある土地の約7割で、大和ハウスが物件を建てた。大和ハウスの今年3月期の連結売上高は3兆4600億円、営業利益は2800億円の見通し。この6年間で売上高は9割増、営業利益は2.4倍に増える。売上高の伸び率は、1兆円を超える内需企業の中でトップ。外需企業と比べても、『富士重工業』・『村田製作所』に次ぐ大きさだ。人口減少等、国内住宅市場を取り巻く環境が厳しさを増す中でのこの成長は、異様と言ってもいいだろう。

20170131 09
住宅業界で比較すると、大和ハウスの飛躍ぶりはより鮮明だ。同じ6年間で、『積水ハウス』と『住友林業』の売上高は共に3割増に止まる。千葉の須藤親子に対するように、商業施設やオフィスビル等、住宅以外の用途を幅広く提案できるのが成長率の差となっている。「祖業の住宅以外の分野に注力し、今や同じ土俵で勝負していない」(大手住宅メーカー幹部)。不動産・住宅企業の多くは、物件を一度建てたら、顧客との付き合いはそれで終わりにしがち。しかし、大和ハウスはとことん付き合う。この深い付き合いを可能にしているのが、顧客の地主向けに定期的に開く“オーナー会”だ。今月17日。オーナー会の初詣イベントが東京都内で開かれた。集まった土地オーナーは、永田町の日枝神社にお参りし、近くのホテルで食事。その後、皇居東御苑を散策した。オーナー会は初詣以外にも、税理士や司法書士を呼んでの相続税対策セミナーや、食事・観劇等、様々な催しを開く。2015年には土地オーナーの夫人等、女性限定のハワイ旅行を企画。夫人らは、浴衣姿で街を練り歩いた。他の住宅メーカーにも土地オーナー向けの親睦会はあるが、大和ハウスの徹底ぶりは抜きん出ている。大和ハウスは、オーナーとの密な意見交換を通じて、保有・運営する物件の最近の悩みや、地域の経済情勢を把握できる。周辺の地主が持つ土地の活用の話も入り易い。こうして一度、物件を建てた土地でも、より有効な活用策が見つかれば別の物件への建て替えを勧める。顧客に対して広く、深く──。食いついたら離さない“スッポン営業”が、大和ハウスの急成長を支える。相手は土地オーナーばかりではない。保有する土地の有効活用に悩む企業にもあの手この手の提案をし、ビジネスに繋げている。神奈川県の工場跡地の活用に頭を悩ませていたメーカーに対しては、車を使ったアクセスの良さや、近くに競合する施設が少ないことを考えて、ショッピングセンターを提案し、開発。テナントのパチンコ店が抜けた後のビルの活用を考えていた大阪府の会社に対しては、ビルを増築。前面をガラス張りにして明るい雰囲気に変え、食品スーパーを新たなテナントとして誘致した。街の雰囲気や人の流れをも変えかねないような提案営業。何故、これほど猛烈な攻勢をかけるのか。JR大阪駅近くにある大阪本社15階の役員フロア。この一角に、喫煙スペースとして活用する会議室(通称“たばこ部屋”)がある。足を踏み入れると、そこには驚くべき光景が広がる。

20170131 10
壁一面に国内83支社・支店トップの顔写真と名前が入ったカード、そして拠点の今期まで3期分の業績が、上期と下期に分かれて書かれ、比較できるようになっていた。損益が赤字の場合は、数字が赤色でより目立つように書かれている。支社・支店だけでなく、買収したゼネコンの『フジタ』やデベロッパーの『コスモスイニシア』等、グループ企業の社長の顔写真と業績も張ってある(右画像)。たばこ部屋には、コーヒーの自動販売機も置かれている。樋口武男会長・大野直竹社長ら役員はここで一服し、壁に張られた営業成績を見ながら、今後の経営戦略を頻繁に話し合っている。「会社の仕事をする上で、人の能力の差はそんなに無い。一番大事な要素はやる気だ」(樋口会長)。社員を徹底して数字で評価し、成績を残した者には賞与等で報いる。その代わり、“赤字は罪悪”と見做し、赤字だった支店の支店長は賞与ゼロ。年間売上高200億円、利益20億円以上を稼いだ支店は“支社”に格上げする等、営業拠点の呼称で業績が一目瞭然にもなっている。この明確な“信賞必罰”の仕組みが社員のモチベーションを高め、強い営業力を生み出している。大和ハウスと取引があるゼネコンの幹部は、「経営陣の強烈なリーダーシップの下、社員1人ひとりが動く軍隊のような会社。規模が大きくなっても、中小企業のような雰囲気が色濃く残っている」と評する。大和ハウスが全国に展開する支社・支店に営業所や出張所を合わせると、47都道府県で約200拠点。同業は、46都道府県で積水ハウスが122拠点、住友林業は94拠点だ。他の住宅メーカーが進出していない沖縄県にも支店を置き、全国に張り付いた約5000人の営業スタッフが日々、凌ぎを削る。優秀な営業成績で社内でも表彰され、40代前半の若さで支社長に抜擢されたつくば支社(茨城県つくば市)の志保達郎氏は、「常に右肩上がりでないと認められない会社。正直、しんどいが、やり甲斐はある」と話す。嘗て経営不振に陥っていたフジタも、大和ハウス傘下に入ったのを機に、「『評価基準がわかり易い』と感じて、より成果を出そうとする社員が増えた」(奥村洋治社長)。大和ハウスの信賞必罰の仕組みは、厳しさと裏腹に、グループ企業に好影響も与えている。

20170131 11
そんな大和ハウスが会社を挙げて前のめりになっているのが物流施設だ。物流施設で構成される“事業施設”事業の今年3月期の売上高は8250億円、営業利益は750億円の見通し。10年前には、セグメント別の収益に載らないほど小さかった事業だ。『野村総合研究所』によると、“B to C(企業と消費者間)”のEC(電子商取引)市場は、2021年度に25兆6000億円と、今年度から7割増える見通し。2020年に開かれる東京オリンピック・パラリンピックまでは旺盛な建設需要が見込めるが、その後となると不透明。しかし、インターネット通販の需要は高まり続け、物流施設は中長期的にも市場拡大が見込める。そこで大和ハウスは、2016~2018年度にグループ全体の投資額の3分の1強、約3600億円を新たに国内物流施設に投じる。3年間の投資額としては過去最大だ。「物流へのニーズが更に高まる」とみて、投資のアクセルを踏む。その象徴が、有明の物件だ。昨年4月、有明で『ファーストリテイリング』のカジュアル衣料店『ユニクロ』の物流施設が稼働した。地上6階建て、総延べ床面積は約11万2400㎡で、企業が1社で使う施設としては国内最大級。インターネット通販で購入した商品を即日配送する為の施設だ。元々はオフィスやゴルフ練習場等があったこの土地を、大和ハウスが『UR(都市再生機構)』から取得したのは2013年。立地の性格から物流施設にするつもりだったが、「テナントにはファストリが合うと直感した」と大和ハウスの大野社長は言う。ファストリとの取引は、新規店舗の建設を大和ハウスが請け負うこと等、20年以上に及ぶ。しかし、ファストリの柳井正会長兼社長が大和ハウスの提案を受け入れたのは、この付き合いの長さ故ばかりではない。この施設は稼働後、ファストリの要望を受けて設計を変更。昨年末にかけて、最上階をオフィスに切り替える内装工事を進めた。大和ハウスの浦川竜哉常務執行役員は、「デザイン開発やマーケティング等、物流の現場に近いほうが仕事し易い社員も多いというニーズを踏まえて対応した」と説明する。

20170131 12
オフィス用品の通販を手掛ける『リコーロジスティクス』向けに、2014年に稼働した『物流センター城南島』(東京都大田区)では、物流施設としては珍しい免震構造を導入した。棚に積んだオフィス用品の荷崩れを防ぐ為だ。現在、多くの物流施設は耐震性能が高いが、大きな地震による荷崩れは防げない。崩れた荷物は施設のシャッターや間仕切り壁を壊し、出荷の妨げになる。2011年の東日本大震災の発生時、1ヵ月ほど商品を出荷できない施設が相次いだ。城南島の施設は、大地震が起きても、揺れが収まれば直ぐに商品を出荷できる体制が整っている。大和ハウスは、有明のファストリや城南島のリコーロジスティクスの施設のように、徹底したオーダーメードで特定の顧客を掴むタイプの施設に力を注ぐ。同社は、これを“BTS(Build to Suit)型”と呼ぶ。展開する物流施設の4分の3が、このBTS型だ。BTS型は、15年以上と比較的長い期間でテナントと契約を結び、貸し出す。様々なテナントを想定してスポットで貸す“マルチタイプ型”に比べると、大和ハウスの賃料収入は減るが、長い期間、安定した売り上げが見込める。テナント企業から建設中や完成後に設計変更等の要望があれば、工事代金を賃料に上乗せすることもできる。テナント企業にとっては、マルチタイプ型の施設を利用するよりも賃料を安く抑えられ、施設の用途に応じた最適なレイアウトや機能を随時、大和ハウスに求めることができる。ライバル企業がBTS型の物流施設を造ろうとしても、他の種類の物件の建設ノウハウが豊富に無ければ難しく、参入障壁は高い。「様々な種類の物件を提案できる大和ハウスだからこそできる物流施設だ」(大野社長)。1955年に創業し、旧国鉄等への倉庫の販売を手掛けた大和ハウスは、1960年代にプレハブ住宅の販売で急成長を遂げた。今、全国の土地所有者や法人に対して提案できる土地の有効活用策は、10種類超に上る。信賞必罰で鍛えられたスッポン営業マンが、顧客のどんなニーズにも素早く応える。気が付けば、売上高が3兆円を超えた秘密はそこにある。 (取材・文/本誌 武田健太郎・須永太一朗・主任編集委員 田村賢司)


キャプチャ  2017年1月30日号掲載

スポンサーサイト

テーマ : 経済・社会
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR