【トランプ氏の世界】(05) 『IS(イスラミックステート)』弱体化――ナビル・ファハミ氏(カイロアメリカン大学教授・前エジプト外務大臣)

20170202 03
アメリカの中東政策を占うには、ドナルド・トランプ次期大統領が、怒った市民に支持されて当選したことを念頭に置く必要がある。その怒りは課題が解決されず、「政府に見放された」と感じた為だった。トランプ氏は、迫り来る危機を乗り越え、怒りを抑えようとする。アメリカで治安上の課題はテロで、アメリカの国益を左右する。中東では、テロを生むイスラム過激派対策が最優先課題となる。アメリカは同盟国も含め、関係国に責任の共有を求める。早急な課題解決に向け、交渉は“取引の政治”の様相を帯びるだろう。外交や安全保障担当の閣僚や補佐官を見ても、理念に基づいた人選ではない。過激派への見方は明確で、その対策の為、“取引”を行う用意がある。シリア内戦では今、ロシアが支援するアサド政権が、イスラム過激派組織『IS(イスラミックステート)』の壊滅を視野に入れる。トランプ氏は、ロシアがISと戦う当事国である現実と向き合い、連携を強めるだろう。トランプ氏は、イスラム主義者であるトルコのエルドアン大統領と肌が合わない。

だが、トルコがシリアで続けるISへの軍事作戦を考えれば、2人は必ず話をすることになる。サウジアラビアにも“取引”を求める。国を守る代わりに、対テロ戦への派兵や戦費の負担増を求めるだろう。エジプトについても、人権侵害疑惑に触れない代わりに、過激派対策で貢献を求め、現実に2国間協力は進むだろう。結局、ISは今年、勢力を弱め、支配地を更に減らすだろう。しかし、組織を弱体化させても、過激思想が無くならなければテロリストは他の土地へ行き、テロは続く。トランプ氏の登場は、世界の政治がイテオロギー主義から現実主義に移行していることを示している。より良い世界よりも、安定した世界を目指す動きだ。背景にあるのがグローバル化だ。インターネット等の通信革命や頻繁な人・物の移動が、非国家の当事者の役割を強め、国家が課題に的確に対応できなくなった。中期的には、少数の国家だけで秩序を決められない“権力の分散化”が進み、理念やイデオロギーを語る余裕は無くなる。中東での“権力の分散化”は、アメリカの影響力が相対的に弱まって過激派が台頭し、混乱が続く事態を招く。トランプ氏はイスラエルとの同盟を強化し、イランへの制裁を強めるだろう。イスラエルのパレスチチ占領地への入植を容認するという“法の支配”から外れる状況を認めていけば、アラブの若者は平和に物事を解決する意思を失う。インターネットで過激思想に触れ、国境を超えた組織に参加し、テロと秩序の崩壊を招く事態となる。中東が今世紀後半を見据えた安定を実現するには、テロリストを生む貧富の格差への対応と共に、政治が良い統治や正義や透明性を示せるかが焦点となる。

20170202 01
■3つの方針、不変
トランプ氏が最近、中東情勢で批判した内容は3つある。イランの核合意・イスラエルの入植活動を非難した国連安全保障理事会の決議・イスタンブールで発生したテロだ。シリア内戦への対応等で先の読めないトランプ氏に、中東の識者はやきもきしている。だが、①イスラエルとの同盟強化②同国を認めないイランを敵視③テロ組織掃討――という方針だけは変わらないとの見方が広がっている。

■利害調整型政治へ  本間圭一(本紙カイロ支局長)
ファハミ氏はエジプト外相時代、それまでアメリカ一辺倒だった対外政策を改め、日中露印との関係を構築し、“新外交”を展開したことで知られる。そうした外交の多角化は、“権力の分散化”や、トランプ氏の登場で指摘されるようなアメリカの影響力低下という世界観に裏打ちされていたことが窺えた。中東は過去1世紀、欧米の思惑に翻弄されてきた。ファハミ氏の予測通りに、その重しが徐々に取れるとしても、手放しで喜べる状況ではない。イスラム過激派が活発化し、アラブ、トルコ、ペルシャの主要民族が覇権争いを続けた時代が再来するかもしれない。中東では異なる民族と宗派の利害を調整する政治が求められてきたが、その声は一層高まるに違いない。


⦿読売新聞 2017年1月9日付掲載⦿

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