化けの皮が剥がれた“孫氏の商法”――国内事業そっちのけでトランプに“お熱”、『ソフトバンク』の負債13兆円はいつ爆発するか?

稀代の“人たらし”は、こう言って近付いてくるという。「ナイス・トゥ・ミーチュー、コール・ミー・マサ(正義)」――。大統領選挙から1ヵ月足らずの時期に、ドナルド・トランプ氏との会談を実現させる発想と行動力は尋常ではない。この間に同じことができた日本人は安倍首相しかいないのだ。この男、一体何を目論んでいるのか。

20170202 07
「また孫さんの大風呂敷か…」。国内の通信業界からは怨嗟の声が渦巻く。先月6日(現地時間)、『ソフトバンクグループ』の孫正義社長が果たしたドナルド・トランプ次期大統領との電撃的な会談は、日米の政財界人を驚かせた。約45分の会談で、孫氏は「4年間に総額500億ドル(約5.7兆円)をアメリカの新興企業へ投資し、5万人の雇用を創出する」とブチ上げ、初対面の次期大統領をして「マサは偉大な男だ」と言わしめた。準備は周到だった。会談場所となったニューヨークの『トランプタワー』には、ソフトバンクが事前にリークした日本経済新聞やNHKを始め、日米の報道陣が殺到。笑顔の2人をツーショットに収めた。その画像はメディアとインターネットを通じて世界中に配信され、ソフトバンクの株価上昇は勿論、同社傘下の携帯電話事業者『スプリント』の当日の株価を、前日比最大7%も押し上げたのだ。孫氏に先立つ11月17日(同)、安倍首相とトランプ氏の会談を周旋したのは、日米の友好親善を担う非営利組織『ジャパンソサエティ』の村瀬悟理事だった。日系3世の弁護士である村瀬氏は、父の二郎氏がジミー・カーター大統領の通商顧問等を務め、『ソニー』創業者の盛田昭夫氏とも親しかった大物弁護士であり、本人も安倍首相の成蹊高校の1年後輩に当たる。この村瀬氏がトランプ一家に人脈があり、その縁で会談は実現した。それでも、首相官邸と外務省は、トランプ氏との接点探しに腐心していたという。況や、アメリカのエスタブリッシュメントに太い人脈が無い孫氏は、どうやってトランプ氏に接触したのか。実は、意外に近いところに接点はあった。ある事情通が打ち明ける。「孫さんの場合は“不動産屋繋がり”だよ」。孫氏が2012年に『福岡ソフトバンクホークス』の本拠地である『福岡ドーム』を買収した際、それに関わったアメリカの不動産ファンドのオーナーが“不動産王”トランプ氏を仲介したという。

この接触の仕方からもわかる通り、孫氏はアメリカの政治機構を飛び越え、同じ実業家であるトランプ氏の歓心を買うことで、雪辱を果たそうとしている。“雪辱”とは勿論、バラク・オバマ政権に足蹴にされたアメリカの携帯電話市場の再編だ。孫氏が2013年当時、携帯電話3位のスプリントを買収し、4位の『TモバイルUS』も傘下に収めて、首位の『ベライゾンワイヤレス』、2位の『AT&Tモビリティー』に伍す三つ巴の競合を仕掛けたのは周知の通り。しかし、アメリカの『連邦通信委員会(FCC)』は市場寡占を嫌って、“3位・4位連合”を認めず、孫氏は一敗地に塗れた。その後、スプリントは加入者が伸び悩み、今や4位に低迷している。しかし、FCCの民主党推薦3人・共和党推薦2人の委員5人は、政権交代に伴って政党枠が逆転するのだ。新たな委員長には様々な下馬評があるが、有力視されている1人は、トランプ氏の政権移行チームの通信政策担当を務めるジェフリー・アイゼナッハ氏。同氏は、アメリカの新保守主義の牙城である『アメリカンエンタープライズ公共政策研究所』の客員研究員の肩書が示す通り、過激な規制緩和論者だ。“FCC不要論”さえ唱えており、合併審査が骨抜きになれば、スプリントによるTモバイル買収の目も出てくる。それを狙い、孫氏は5.7兆円の投資を手土産に、トランプ氏に会った訳だ。しかし、国内の通信関係者は一様に首を傾げる。「5.7兆円は、どれほどアメリカの新興企業に向けられるのか。恐らく、半分はスプリントの設備投資に費やされるだろう」。スプリントの加入者数は約5000万件。ほぼ同規模の『KDDI』でさえ、年間5000億円を超える設備投資を行っている。況してや基地局網が老朽化し、繋がり難いスプリントの再生には7000億~8000億円の梃子入れが必要であり、それを4年続ければ5.7兆円の半分が消えてしまう。しかも、その資金の多くはソフトバンクが用意するものではないのだ。『ソフトバンクビジョンファンド』――。孫氏がサウジアラビア政府と提携し、「1000億ドル(約10兆円)規模の巨額投資ファンドを設立する」と発表したのは、アメリカ大統領選挙前の10月だった。原油価格の低迷による財政赤字に苦しみ、ベンチャー投資に意欲的なサウジに擦り寄った孫氏の嗅覚は鋭く、約4.7兆円の資金を引き出した。更に、世界の大手投資家にも出資を呼び掛けており、10兆円の内、ソフトバンクが負担するのは約2.6兆円に過ぎない。このファンド資金で、Tモバイル買収に向けたスプリントの梃子入れを図ろうというのだ。謂わば、“他人の褌で相撲を取る”に等しい。しかし、孫氏が目論むのは、アメリカの3大携帯電話事業者の一角を占めることなのだろうか。

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「今、社長の念頭の半分を占めているのはARM。国内の通信事業には殆ど興味が無い」。ソフトバンクグループからは、こんな声が聞こえてくる。孫氏が昨年7月、「たかが3.3兆円」と豪語して買収したイギリスの『ARMホールディングス』は、世界のスマートフォンの90%以上の中央演算処理装置(CPU)にその技術が使われている半導体設計会社だ。しかし買収当初、周囲は携帯電話事業との関連性がわからず、「孫さんは、嘗て携帯端末開発で親密だったシャープをARM技術で支援しつつ、資本参加する気では…」等と臆測されたが、無論、孫氏にそんな考えは無い。本人に言わせると、「僕には近い将来のシンギュラリティーに向けたビジョンが見えている」という。“シンギュラリティー”とは、人工知能(AI)が人間の能力を超える、謂わば“文明の臨界点”のこと。「スマホはおろか、家電・自動車・航空機等、あらゆる民生・産業機器がインターネットを通じてAIに制御される時代が到来し、その時、ARMの半導体設計技術が物を言う」と孫氏は喝破する。実際、ARMには、世界の半導体メーカーが求める技術情報が逐一入ってきている。その情報を基に、ベンチャーを含む有望なAI機器・サービス事業に逸早く投資するのが、孫氏の新ビジョンと言っていい。ならば、最早飽和状態の国内の携帯電話事業に興味が無いのは当然だろう。0円端末の廃止規制が響き、ソフトバンクの新規加入者は減少が続いている。格安スマホの『ワイモバイル』で補ってはいるものの、通信の1契約当たり月額収入は低下する一方。嘗て一世を風靡した“お父さん犬”のテレビCMも最近は精彩を欠き、KDDIの桃太郎・浦島太郎・金太郎の『三太郎シリーズ』に、2年連続で好感度CM首位の座を奪われた。

それでも孫氏は、通信料金の日銭が入ってくればいいのだ。そのキャッシュを元手に、世界の新興企業へ投資する。その意味では、スプリントによるTモバイル買収も、サウジアラビアから引き出した4.7兆円のファンド資金と同じく、投資事業の原資を稼ぐ集金システムをアメリカに作ろうとしているに過ぎない。ある通信関係者が言い放つ。「“業界の革命児”と畏れられた孫さんの本質は所詮、移り気な投資家。NTTとの対決にも飽きて、地金が出ただけのことだ」。民主党(現在の民進党)政権時代、自宅に招いた総務省の原口一博大臣に坂本龍馬の書を見せて取り入り、互いに“維新の志士”気取りでNTT分割の気炎を上げていた頃の孫氏には、未だ通信事業への執念があった。それから7年が経った現在、孫氏に改革者の面影は無い。それにしても、トランプ氏に約束した5.7兆円の投資は、孫氏が再挑戦するアメリカの携帯電話市場の再編に功を奏すだろうか。ソフトバンクの投資ファンドには、『Apple』が最大10億ドル(約1000億円)出資する方向だが、その一方でトランプ氏は、Appleや『Google』等の大手IT企業を毛嫌いしてきた。「アメリカの雇用に貢献せず、スマホ等を海外生産して巨額の利益を上げている」という批判だ。とりわけAppleは、『iPhone』の生産委託先である台湾の『鴻海科技集団(フォックスコン)』の中国工場が、「劣悪な労働条件で従業員を酷使している」として指弾されてきた。孫氏がファンド資金を使い、フォックスコンのアメリカ工場建設を狙っていることは、容易に想像できる。だが、アメリカの高い人件費ではペイする筈がなく、失敗すればトランプ氏の“マサへの友情”は忽ち萎むだろう。いや、友情のおかげで、孫氏はスプリントによるTモバイル買収を勝ち取ったとしても、規制緩和へ転じるFCCは、ベライゾンやAT&Tに対するドミナント(市場支配的事業者)規制を解除する見通し。待っているのは、上位2社との血みどろの加入者争奪戦であり、体力勝負ではスプリントに勝ち目はない。アメリカの集金システムが機能せず、国内の携帯電話事業も先細りとなれば、孫氏が夢みるシンギュラリティーへの投資は“画に描いた餅”に終わる。しかし先月16日、『日本経団連』主催の日露ビジネス対話の会場には、来日したロシアのウラジーミル・プーチン大統領に笑顔で寄り添う孫氏の姿があった。世界のVIPはどうも、この短躯禿頭の愛嬌のある日本人に気を許すらしい。孫氏の持論である自然エネルギーにAIを絡めた東アジア送電網構想の下地作りとみられるが、周囲からは冷笑が漏れた。「世界が孫さんの正体を“インターネットの衣を纏った相場師”と見破った時、ソフトバンクに残されるのは13兆円の有利子負債だ」――。孫氏のAI熱は、いつかソフトバンクを崩壊させるかもしれない。


キャプチャ  2017年1月号掲載

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