【中外時評】 AI時代の働き方改革――受難の“なんでもやる”正社員

政府の働き方改革の柱である『同一労働同一賃金』と残業規制の凡その着地点が見えてきた。非正規社員の待遇改善の為の“仕事が同じなら賃金も同じにする”という同一労働同一賃金は、職業経験や能力等に違いがあれば待遇に差をつけることも認める方向だ。昨年末に政府が示した指針案に明記された。現在、多くの日本企業は正社員について、勤続年数が長いほど「経験を積んで能力が高まった」と見做し、賃金を上げていく職能給制度を採る。指針案は事実上、一般に時給制の非正規社員と正社員を別扱いにすることを是認する形になった。残業規制は、時間外労働を青天井で延ばせる仕組みを見直し、上限を設けることが固まってきた。ただ、長時間労働の温床と言われる正社員の在り方にまで踏み込んだ議論は殆ど聞かれない。日本の正社員は、職務内容が曖昧な“何でもやる”労働力で、これが「長時間労働を招いている」と指摘される。問題の根にあるものをそのままにしての残業時間の上限設定は、サービス残業を助長する恐れを孕む。正社員の雇用を巡る制度や慣行を政府や経済界が残そうとするのは、踏み込んだ改革をした場合の影響の大きさを考えてだろう。が、利点も考えてに違いない。職能給の下では、社員を柔軟に配置転換できる。仕事の内容によって賃金を決める職務給と違い、“職務遂行能力”という抽象的な基準で賃金を決めるこの制度は、配転の度に賃金を変える必要がない。社員の持ち場を変更し易く、組織を組み替えるのが容易になる。日本企業がこれまでの経営環境の変化を乗り切る上では、「職能給が貢献した」という評価もある。自分の守備範囲かどうかはっきりしない仕事や急な残業も熟す“何でもやる正社員”は、組織の機動力を高めてきた慣行だ。こうした経営者にとって使い勝手の良い“正社員システム”を、企業は社員に長期の雇用保障をすることで維持してきた。

技術革新等、世の中の変化には、企業が時間と費用をかけ、社員に新しい技能を習得させて対応。企業が積極的に人材を育てることは、会社に対する社員の帰属意識を高める効果もあったろう。問題は、正社員システムを維持できる環境がこれからも続くかどうかだ。人工知能(AI)やロボット技術の進化等、『第4次産業革命』の波が到来した。新しい市場を創造する競争が世界規模で激しくなっている。技術革新のスピードは、嘗てなく速い。自前で技術や人材を育てることに拘っていれば後れを取る。他企業や大学等と連携し、外部の経営資源を活用して成果を生む“オープンイノベーション”が今や当たり前だ。企業が社内に抱える人材だけで変化に対応するのは、難しい時代になった。「企業が人材を長期的に雇用することが現実にはできなくなっている。そうなると、正社員は徐々に減少していくことになる」。労働法を専門とする神戸大学の大内伸哉教授は、近著『AI時代の働き方と法』(弘文堂)でそう展望する。正社員受難の時代が始まる訳だ。『野村総合研究所』は2015年12月、「10~20年後に日本の労働人口の49%が、AIやロボットに代替される可能性がある」との試算を発表した。AIの普及は、ホワイトカラーの雇用に大きな影響を及ぼす。「総合職のスリム化が始まる。本社機構を少数の優秀な人材で構成する動きも出てくる」と同社上級コンサルタントの上田恵陶奈氏はみる。進行中の社会の変化に手を打つ必要がある。人は、需要のある仕事に就く為の技能の習得が大事になる。教育訓練の充実と、伸びる分野に移っていき易い柔軟な労働市場の整備の2つが肝要だ。重要プロジェクト等に専門性を備えた社外の人材を活用する動きが進めば、企業が社員の育成に積極的でなくなることも考えられる。現に、企業の教育訓練投資は減少傾向にある。国や自治体による職業訓練の意義は増す。「職業訓練は、ニーズを考えずに設計されている。教育内容が次のステップである就職に繋がっていないのが問題」と東京大学の柳川範之教授は指摘する。改善が急務だ。労働市場の整備では、民間の人材サービスを使い易くする規制改革が求められる。安倍晋三首相は、働き方改革を“最大のチャレンジ”と位置付ける。AI時代を生き抜く為の雇用改革も、最大の挑戦と呼ぶに値する。 (論説副委員長 水野裕司)


⦿日本経済新聞 2017年2月5日付掲載⦿
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