【佐々木チワワの「歌舞伎町ぴえん日記」】(01) パパが連れ歩く女のレベルを気にするように、こちらだってパパのレベルには気を遣う

歌舞伎町でホストにお金を落とす女の子の仕事は様々だ。普通の女子大生から会社員、夫婦仲の悪い人妻から、漫画に出てくるようなお嬢様もいる。ホストに会って普通に話すのなら5万円程度で事足りるが、シャンパンにテキーラに…等とやっていたら会計は青天井である。最近でこそ原稿料で細々とホストクラブに通う私だが、ドーンと大金を稼いで潔く使うほうが、やっぱりホストクラブは楽しいと常々思っている。財布に8万円しかないのに30万円の支払いをし、借金の証明である“青伝票”を“運命の青い糸”だとか言って、誇らしげに財布に入れていた。そんな私以上に豪勢なお金の使い方をする歌舞伎町の“ホス狂”の女の子たちの大半は夜の仕事をしていて、何かしら消耗しながらお金を稼いでいる。その手段はキャバクラから風俗、愛人等が主だったが、ここ数年のトレンドは、やはりパパ活女子なのだろう。パパ活女子の稼ぎ方も様々で、アプリ等で出会い、お試しに1時間会う時の“顔合わせ”のお手当1時間1万円をひたすら回す“茶飯乞食”、最初から大人の関係で3万円前後で身体を売る“割り切りタイプ”、顔合わせから徐々に育てて会う度に数万円を貰う“都度パパ”を抱えるタイプから、先程の彼女のように毎月いくらかの金額設定をして、お互いに空いている日に月に何回か会う“月極パパ”を持つタイプまでいる。一番恐ろしいパパ活女子は“育成型パパ”である。ホストの色恋営業よろしく、パパを恋させて育てて、自分にお金を使うことが生き甲斐となるまで育て上げるのだ。そんな育成パパを育てまくり、半年以上1回も会わないで、『LINE』と電話だけで毎月100万円以上を振り込ませているパパ活女子まで存在する。
ホストにガチ恋しているパパ活女子には、同じくガチ恋パパがつきもののようだ。出会い系アプリで出会ったホストに入れ上げて、半年程で1000万円を使った女の子のパパは、彼女がホストと出会ったのと同じようにパパ活アプリで知り合った人で、忽ち彼女の虜となり、毎月50万円を使い続け、遂に彼女に婚約指輪を渡したらしい。周りの友人には「今度結婚する」と吹聴して回り、「友だちに紹介する日取りを決めよう」と連絡をしてくる。こうした距離感のバグっている話を聞くと、いくら資金があっても女にモテてこなかった背景をうっすらと窺うことができる。彼は彼女に今まで、借金の返済、奨学金、友だちの中絶費用の肩代わり等、様々な理由で定額の50万円だけではなく、都度高額を渡してきたらしい。ホス狂の彼女とパパの決定的な違いは、自分のことをカネだと自覚しているかどうかだ。私自身も、様々な自称パパと出会ってきたが、中には凄く良い人もいたし、滅茶苦茶こちらを見下してきて女をモノとして消費したいだけのおじさんもいた。生命保険を解約していきなり数十万を渡してきたパパは、結婚するまで女性と手を繋がないと決めていたプロ童貞だったし、初めて会った日に25万円をくれた学童の教師パパは、一緒に水族館に行ったら「引率以外で初めて水族館に来た」と嬉しそうだった。そういうパパたちと普通に話している分には問題ないけど、手を繋いだりすると年絡差を余計に感じた。去年の今頃は、コロナ禍で仕事が暇で時間を持て余したおじさんがパパ活アプリに溢れ返っていて、私が当時かなりお気に入りだったパパもそこで出会った。彼は70歳を越えているけれど、50代くらいに見える黒光りした若々しいお爺ちゃんで、毎回付け替えているスカーフがおしゃれだった。舞台のプロデューサーで、本当にコロナ禍に振り回されていて、上映中の舞台から公演予定の分まで、幾つもの舞台を中止していた。年齢が年齢で新型コロナウイルスに罹るリスクは重々承知している筈だし、実際、知り合いで亡くなったお年寄りもいる中、それでもパパ活アプリで若い女の子に会うのが不思議だった。私とは始めから割と会話が盛り上がって、いつも美味しいものを食べさせてくれて、一緒にお酒を嗜んで、あっさり解散した。「新学期が始まったばかりで授業の本が高い」と愚痴をこぼしたら、いつもよりかなり多めにお手当をくれたこともあった。お洋服も、「一緒にいる時はもっと可愛くしていたい」と言ったら、似合う可愛いピンクのワンピースをプレゼントしてくれたし、一人暮らしで憧れていたプロジェクター、壊れていた『surface』のキーボードも買ってくれた。お店に入る度に自前のアルコールスプレーで消毒はするけど、お酒をよく飲んで、よく笑うお爺ちゃんだった。何度も会って、色々買ってくれるうちに、「私は大人の関係を求められるのか?」と不安になっていた。只の1時間の食事代として1万円を貰うだけじゃない、それ以上のプレゼントを貰っていた。誰にでもお金をばらまいているのなら安心できるけど、彼は私に会ってからパパ活アプリを辞めていた。本来の正しいパパ活は、こういうのかもしれない。けれど、恋愛感情だとかわかり易い性欲みたいなものに値札を付けてくれたほうが、何を消費されているかはっきりしていて単純でいいのかな、とも少し思う。パパたちが一緒に連れ歩く女のレベルを気にするように、こちらだって連れ歩くパパのレベル、連れて行かれる食事には少し気を遣う。周りの視線が痛いからだ。身形を小綺麗にして、チェーン店じゃないお店に連れて行ってくれたほうが楽しく過ごせる。けれど、『サイゼリア』で1時間で3万円くれるパパと、『ジョエルロブション』のディナー2時間で1万円くれるパパだったら、ホス狂なら殆どの女子がサイゼリアパパを選ぶのであるが。
佐々木チワワ(ささき・ちわわ) フリーライター。2000年、東京都生まれ。高校1年生から執筆活動を始め、各種コラムや芸能人インタビュー等を担当。歌舞伎町で働く夜職の人々に惹かれ、自身も一通りの職種と幅広い夜遊びを経験。歌舞伎町で幅広い人脈を持ち、大学では繁華街の社会学を専攻している。

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