【ヘンな食べ物】(24) 泣きっ面にワサビ

嫌なヤツの世話になるほど不本意なことはない。今から十数年前、中国とミャンマー国境の町・瑞麗にいた時だった。ここから国境をこっそり越えて、ミャンマーの反政府ゲリラ支配区に入ろうとしていたのだが、この町で連絡を取ったゲリラの中堅幹部が何ともいけ好かない奴だった。高そうなゴールドの時計を嵌め、「この前、国境の貿易で10万元儲けた」とか「昨日は麻雀で6000元すっちまった」等と自慢する。当時の中国人は、平均の月収が1000元に満たなかったから驚く。どうやら中国とミャンマーの軍・警察と結託し、荒稼ぎしているらしい。私はさっさとゲリラ支配区に行き、この成金野郎におさらばするつもりだったが、その前にとんでもないことが起きた。宿の部屋で寝ている時に泥棒に入られ、有り金一切を盗まれてしまったのだ。仕方なく成金野郎に頭を下げて、当座の生活費を借りた。全く忸怩たる思いだが、私を配下に従えた彼はご機嫌。「まぁ、元気を出せ。美味いもん食わせてやるよ」と連れて行かれたのは、何とマグロの刺身を出す店。こんな田舎では相当の贅沢品だ。しかも、彼は店員に言って、日本製の醤油とチューブの練りワサビを持って来させた。「これが美味いんだよな」と言いつつ、醤油を小鉢に注ぐと、チューブをぎゅうっと一気に絞り上げた。唖然。成金野郎は、「それが贅沢だ」と思い込んでいるのだ。そして、大量のワサビと醤油を箸でぐちゃぐちゃにかき混ぜて言った。「さぁ、遠慮なく食え」。仕方ないから箸をつけたが、マグロは未だ半分凍っている上、ワサビが強烈なこと。そりゃそうだ。チューブ1本入れているんだから。泣きっ面にワサビ。私は悔しくて辛くて、涙を流しながら冷凍マグロを食べていたのだった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年2月9日号掲載
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