【東京情報】 食事は政治

【東京発】昨年末に“ヌーハラ(ヌードルハラスメント)論争”なるものがあった。「日本人が麺を啜る音が西欧人には苦痛だ」という話が拡がり、食事マナーについての“議論”が行われたという。フランス人記者が鼻を鳴らす。「バカバカしい。こんなことで騒ぐ西欧人は俺の周りにはいないぞ。俺は蕎麦が好きだけど、音を立てないと食った気がしないね。別に『スパゲッティーを音を立てて食え』と言っている訳ではない。“其々の国の文化に合わせたマナーがある”ということだ」。日本人が麺を啜るのは、汁と一緒に空気を口に入れることで、風味を楽しむ為だ。日本酒も啜ると、ふくよかな香りが立つ。音を立てて抹茶を啜るのは正式なマナーだ。食事のマナーは、食材や調理法とも関係している。全ての国に当て嵌まるマナーなど存在しない。落語では、登場人物が蕎麦を食べるシーンがよく出てくるが、噺家は動きよりも音で説得力を出す。古今亭志ん生の蕎麦を食う音は芸術的だった。ラーメンや蕎麦が西欧でもっと普及すれば、西欧人も啜って食べるようになるかもしれない。イギリス人記者が銀縁の分厚い眼鏡を外す。「抑々、ラーメンや蕎麦は庶民の食事だろう。マナーがどうこう言っても仕方がない。一方、日本料理は芸術であり、マナーは厳格だ。日本には茶道もある。世界各地に茶の文化はあるが、芸能の極みにまで達した国は他に無いと思う。我々イギリス人も茶に拘るが、日本に軍配が上がるのではないか」。

私はドイツで仕事をしていたが、テーブルマナーは日本より厳しかった。西欧は階層社会である。官僚や公務員は地位が高く、次に民間のサラリーマン、その下にブルーカラーが続く。上流階級は、マナーを守らないと下の層に見られてしまう。一方、ブルーカラーにはマナーは求められない。日本の場合は身分制度が完全に崩壊しているので、金持ちも貧乏人もマナーに大きな違いは無いのだ。フランス人記者が頷く。「テーブルマナーの起源は、16~17世紀のイギリスという説がある。当時、イギリスは世界各国に進出していた。当然、支配下の国々の要人と酒宴を設ける機会も増えた。そこで、異なる食文化を持つ人同士でも、同じ席で食事ができるように生み出されたのがテーブルマナーだった。今も昔も、食事は外交上重要だから、余計な摩擦が起きないようにした訳だな」。この点、日本の総理大臣は問題があるのではないか。安倍晋三はきちんと箸を持つことができないし、食事のマナーは出鱈目だ。室町時代に織田家が足利家と関係を作る際、宴会に豊臣秀吉が招待された。足利家は「農民の出の秀吉がきちんと食事ができる訳がない。笑いものにしよう」と膳を出したが、秀吉は見事に札に適った食べ方をしてみせた。箸使いが歴史を変えた可能性がある。項羽は、「劉邦を酒宴に招き、殺害しよう」と考えた。劉邦は農民の出なので、「無礼な振る舞いをした」と口実を付けて斬りかかろうとしたのだ。それを察した劉邦の家臣は、剣と盾を持って酒宴に現れた。勿論、ルール違反だが、項羽は「何と勇ましい」と言って酒を与えた。すると、家臣は立ったまま酒を飲み干し、肉を剣で刺して食べた。項羽はそれを面白がり、劉邦を殺さなかった。こちらは秀吉とは逆のパターンだが、食事は政治なのだ。イギリス人記者がパイプを銜えた。「政治家は食事の席で命を落とすこともあった。西欧で銀のスプーンやフォークが使われるようになったのは、毒を盛られた場合、化学反応を示すからだ。逆に言えば、同じ席で食事をするのは“敵ではない”と示すことになる。波乱の時代にこそ、食事のマナーは重要になるんだ」。

以前、長野県に木曽馬という馬の取材に行った時、取材先で緑茶と野沢菜の漬物を出された。私はお茶請けに漬物を食べたことが無かったので驚いたが、非常に美味しかった。都会の日本人はそんなことはしないが、「長野ではこうして客人をもてなすのがマナーなのかもしれない」と感じたものだ。一見、変に見える食文化でも、試してみないと良さはわからない。私もラーメンは啜って食べる。落語に『本膳』という話がある。ある時、村の庄屋の娘が結婚することになり、村人たちも宴席に招待された。彼らは礼式がわからないので、手習いの師匠に同行してもらうことになった。師匠は「わしの真似をしろ」と言う。最初は上手くいっていたが、里芋の煮っ転がしが出てきた時、師匠は里芋を床に落としてしまう。すると、村人たちも同じように里芋を落とした。イギリス人記者が笑う。「庶民が食事のマナーで戸惑う話はよくあるな。西欧では19世紀に成金のブルジョア階級が台頭した。彼らは貴族たちと同等に見られたいので、必死になって貴族のマナーの真似をした。身分社会の解体により、マナーを覚える層も拡がった訳だ」。日本においても、室町時代には“下剋上”という言葉が生まれ、身の入れ替わりが激しくなった。下の層にいる人間も、上の層に行く為にマナーを学んだ。教えたのは、中間の身分である僧侶だ。こうして、日本料理は当時の禅宗の影響を受けることになる。テーブルマナーについての有名な話がある。昔、ヴィクトリア女王がペルシャの王様を晩餐に招いた際、王様はフィンガーボウルの水を飲み干してしまった。それを見た女王は、同じように飲み干した。「客に恥をかかせないことが大切だ」というエピソードだが、これは却って失礼ではないか。ペルシャの王様は後で気付いたかもしれない。若し本当に気を使うのなら、「私たちの国では、食卓の上で指を洗う習慣があるんです。奇妙に思われるかもしれませんが、やってみませんか?」くらい言えばいいのだ。フランス人記者が唸る。「そうだな。俺も食事のマナー違反をやっていたら、きちんと指摘してほしいものだ」。この後、私がフランス人記者の箸の持ち方の間違いを指摘したのだが、案の定、口論になった。やはり、ヴィクトリア女王は正しかったのである。 (『S・P・I』特派員 ヤン・デンマン)


キャプチャ  2017年2月9日号掲載
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