「“考えられないこと”に備えよ」…ドイツで出始めた独自“核武装論”、トランプ政権誕生で目覚める“平和ボケ国家”

ドイツで独自“核武装論”が突如、沸き起こった。今回の主役は、ドイツの高級紙『フランクフルターアルゲマイネツァイトゥング(FAZ)』や、アンゲラ・メルケル首相率いる与党『ドイツキリスト教民主同盟(CDU)』の有力な防衛族議員だ。何が起こっているのか?

20170210 01
最初に爆弾を落としたのは、左派系の高級週刊誌『デアシュピーゲル』である。同誌でコラムニストを務めているドルトムント工科大学のヘンリク・ミュラー教授は、専門の経済学の視点から、「ドナルド・トランプ当選後は、アメリカ軍はヨーロッパから撤収する。そうなると、ドイツの防衛費は(今の2倍以上の)800億ユーロが必要になる」とした上で、「ドイツの独自核兵器が可能か否か、議論があって然るべきだ」と指摘した。教授のコラム掲載は、アメリカ大統領選数日前のこと。ドイツ国内のインターネット上には、「何をバカな」「シュピーゲルたるものが何を言うのか」等、批判の合唱が起きた。だが、実際にトランプ当選の衝撃波が起こると、コラムは新たな読者を得て、見直された。同教授は、「たとえヒラリー・クリントン政権の場合でも、独自核論議は必要」と書いていた。ドイツ人にとって最悪のシナリオになったことで、国防力の見直しは喫緊の課題となった。アメリカ大統領選前の国際世論調査では、ドイツは韓国と並んで、殊の外“トランプ嫌い”の国で、トランプ支持率は両国で5%未満だった。アメリカ軍の“核の傘”の恩恵を最も受ける両国が、本能的に“トランプ政権”に恐怖心を抱いているのは偶然ではない。衝撃の最中、CDUのロデリック・キーゼヴェッター議員(下院)が、「アメリカの核の傘に頼らない、ヨーロッパの核抑止力が必要だ」と『ロイター通信』とのインタビューで語った。

同議員は、国防軍大学(※日本の防衛大学校に相当)を卒業して、軍参謀本部に勤務した後、政治家に転じた。引き締まった長身と鋭い眼光がトレードマークの、ドイツ政界きっての安保専門家である。同議員の発言も批判を浴び、「ドイツ独自の核を意味した訳ではない」と修正したが、「(現核保有国である)フランスやイギリスは、ヨーロッパへの脅威に対して弱過ぎる」ことを強調している以上、議員が言いたいことは明白である。この直後、保守系高級紙のFAZが、発行人の1人であるベルトルト・コーラー氏の『ドイツ人よ、“考えられないこと”に備えよ』とする論説を掲載した。コーラー氏は、「クレムリンと上手く渡り合うには、“ドイツが周辺国を守り切れる”という確実な信頼が絶対に必要だ」として、平和ボケからの抜本的転換を求めた。「長年、ドイツが国是にしてきた“武力無しの平和”は最早無意味であり、防衛費増額・徴兵制度の改革・独自の核抑止力等、従来は考えられなかったことをやっていく必要がある」というのだ。これらの“核武装論”は表面的には少数派で、FAZやシュピーゲルには「絶対反対」の投稿が殺到したという。一般のドイツ人は、兵器であれ発電所であれ、“核”全般が嫌いで、放射能アレルギーは日本のそれを遥かに凌ぐ。だが、ドイツを含め、ヨーロッパの戦略研究者の間では、“一撃必殺の抑止力”の必要性が求められていたのも事実。2つの世界大戦が示したように、ロシアとドイツの間には平地が続き、大規模な軍隊が容易に、且つ高速で移動できる。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が武力行使を全く躊躇わないこと、ロシア軍が犠牲の大きい市街戦を得意とすることも、ヨーロッパの軍事関係者の悲観論を強めていた。アメリカ軍はこれまで、『北大西洋条約機構(NATO)』加盟のドイツ、オランダ、ベルギー、イタリア、トルコの5ヵ国に、自軍の核兵器を配備してきた。核不拡散体制の枠内では、ドイツ等の5ヵ国は“自国領内に核兵器がある非核保有国”とされた。ドイツでは、フランスとの国境に近い『ビューヘル空軍基地』に、厳重管理の下でアメリカ軍の核兵器(※推計では弾頭数約200)が配備されている。勿論、ドイツ人は、たとえ軍高官であっても、核兵器にアクセスできない。

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あるアメリカの軍事専門家は、「トランプ次期大統領が選挙戦で“在外アメリカ軍撤退”を公約したのは、無知の所産であり、現実味は乏しい。ただ、軍事的には『駐在していても役に立たない』と敵方に知られたら、無力同然になる。ドイツの政治家たちは、アメリカ軍の本気度を疑っている筈だ」と言う。この為、バラク・オバマ政権下では、在ドイツの核戦力は“核兵器近代化”政策の重点対象になった。本誌昨年6月号で紹介した“小型で使い易い”新しい核兵器が、ビューヘル基地に配備されることになっている。アメリカ軍の評価では、ドイツは日本と並んで“核兵器開発に最も近い国”とされている。両国は独自に世界屈指の民生用技術を持ち、原爆製造に必要な使用済み核燃料も、「1万発の核弾頭を作れるくらい持っている」(前出の軍事専門家)。サダム・フセイン時代のイラクや現在のイランは、ドイツ企業から核開発に必要な部品・機械を購入してきた。「日独は、望めば数ヵ月で核兵器製造可能」という評価は、長年定着している。人材も豊富で、ナチス時代には限定的な核開発が行われた。第2次世界大戦後、米ソ両国は研究者を漁りまくり、ヴェルナー・ハイゼンベルク博士らは米英に、グスタフ・ヘルツ博士らはソビエト連邦に拘束された。ソ連抑留組は後に、スターリン賞やレーニン賞を受賞するほど、ソ連の核開発に貢献した。米ソは“日独の核武装”を最も恐れ、核拡散防止条約等現行の核不拡散体制は、何よりも“日独阻止”の目的で構築された。ドイツの場合は更に、国際法で幾重にも縛りをかけている。ドイツ再統合の際の『2プラス4条約』には、“核武装禁止”条項が含まれている。国内では、連立与党の一角を占める『ドイツ社会民主党(SPD)』、環境政党の『同盟90/緑の党』、野党の『左派党』が、強力な“平和主義ブロック”を構成する。内政・国際法上は確かに、ドイツ独自の核開発は“考えられないこと”である。だが、従来は殆ど無かった“ドイツ核武装論”が、主流のメディア・政治家から出ていることの含意は大きい。アメリカのシンクタンク『アメリカンエンタープライズインスティテュート』のトーマス・ドネリー研究員は、「ドイツが一撃必殺の攻撃力を持つことは、戦略上も現実政治の観点からも理に適っている」とした上で、「世界が急速に動いている中、“ヨーロッパの態度が変わらない”と決めてかかるのは愚かなことだ」と言う。メルケル政権は、来年度の国防予算を一気に7%増額する。“トランプショック”が、平和ボケのドイツ人政治家の目を覚まさせたことだけは間違いない。


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