【Global Economy】(23) 移民規制、自滅への道…政治・経済に翻弄されるアメリカの労働力

国家は、移民にどう対応すればよいのか。アメリカのドナルド・トランプ大統領がイスラム圏7ヵ国からの入国を制限する指示を出し、アメリカは混乱している。『SMBC日興証券』の宮前耕也氏に、政治や経済情勢に翻弄されてきた移民の歴史を解説してもらった。

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移民の増加は、その国の豊かさの象徴と言える。第2次世界大戦後、途上国の人々は、働く場や高い賃金を求めて、経済成長が続く先進国に移り住んだ。特に移民が急増したのが1980年代後半だ。『世界銀行』の統計によると、世界の移民は1985年時点の1億400万人から、1990年には1億5200万人へと、僅か5年で4割強も増えた。1989年のベルリンの壁崩壊で、東欧の人々が経済力のある西欧に向かったことが大きい。2000年代半ば以降に原油価格が高騰すると、経済が急速に発展した中東の産油国で、移民労働に対する需要が高まった。インドやフィリピン等の人々が高賃金を求めて中東に渡り、建設や家事労働等に従事した。彼らから家族への送金は、母国の貴重な収入源でもある。今では、国の人口に対する移民の比率(2015年)は、アラブ首長国連邦が88%、カタールが75%、クウェートが74%にも上る。昨年、イギリスの国民投票で『ヨーロッパ連合(EU)』からの離脱が決まったのは、増加する移民に対する反発も要因になった。背景には、ヒト・モノ・カネの自由な行き来を認めるEUの構造がある。EUは拡大を繰り返し、旧東欧諸国等が順次加わってきた。EU域外からの移民の流入は、各国が規制する。国境制限が比較的緩い国から一旦、EU域内に入ってしまえば、EU諸国を自由に移動できる。こうして、経済力の強いイギリスやドイツに移民が集まり、同時に社会不安も齎した。

1776年の建国以来、一貫して“移民大国”となってきたのがアメリカだ。19世紀から20世紀初頭には、ヨーロッパから多くの人々が移り住み、アメリカ合衆国を形成した。2015年時点の国別の移民数をみても、1位のアメリカが4662万人で突出し、2位のドイツは1200万人となっている。同年の世界全体の移民約2億4300万人の内、アメリカは19%を占める。アメリカの全人口の中の移民の割合は14%に上る。アメリカの移民は、嘗てはヨーロッパやアフリカの出身者が殆どだったが、現在はメキシコ等の中南来と、中国やインド等のアジアが大半を占める。国の経済を成長させるには、人口は重要な要素だ。長期の経済成長率は、①どれだけの人がどれくらい働くかを示す“労働投入量”②工場や機械の量を表す“資本投入量”③生産活動の効率を示す“生産性”――の3つの要因で決まるとされる。この内、労働投入量を増やすには人口増が必要だ。特に、若年層が多く、高齢層が少ないほど、働き手となる生産年齢人口の割言が高くなり、成長率も上昇し易い。先進国の多くでは高齢化が進みつつあり、日本やドイツは生産年齢人口が減少に転じている。一方、アメリカは大量の移民の流入が続いている為、今後も生産年齢人口は増える見通しだ。国連の人口推計によると、働き盛りの30歳代の人口が、日本等は今後減っていくのに対し、アメリカは2040年代になっても現在の水準(4000万人超)を維持するとみられている。また、アメリカのシリコンバレーでは、高度な数学に強いインド人の技術者が大勢活躍している。世界経済をリードするアメリカのIT産業は、移民のインド人の貢献が大きい。それだけに、トランプ大統領が移民らの入国制限を打ち出した際、『Google』は「アメリカに優れた才能が集まるのを妨げる恐れがある」と訴えた。トランプ政権が移民の流入を厳しく規制すれば、優秀な技術者を含む労働者が減り、アメリカ経済が停滞に向かう可能性もある。世界経済全体で見れば、ヒト・モノ・カネはなるべく自由に国境を越えて移動できるようにしたほうが、メリットは大きい。しかし、個々の国では、移民が入ると自国民の職が奪われる等、弊害も生じる。「国民の税金で賄われる社会福祉に“ただ乗り”される」として、不満も出易い。国境を守る権利は国家の主権だ。各国の政治家は有権者の意向を踏まえて判断するので、移民の入国は制限され易い。トランプ政権は大統領選での公約通り、テロ対策等を理由に、外国人の入国をある程度規制しようとするだろう。だが、経済成長の維持を考えると、大幅な制限はできないのではないか。

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■グローバル化、避けられぬ共生
「不安が広がる時代には、違って見えるコミュニティーが都合のよい不満の捌け口になる」――。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は先月、イスラム教徒に対する差別への対応を協議したイベントで、こう語った。トランプ大統領を支持する白人労働者層は、生産設備の自動化や工場の新興国への移転で職を奪われた。経済的な要因で生じた不満の矛先が“移民”に向いているようにも見える。宮前氏が指摘するように、アメリカは世界随一の“移民大国”だ。移民とアメリカ国民の間で摩擦が生じる土壌は古くからあり、トランプ大統領は巧みにそこにつけ込んだ。だが、グローバル化は進んでいる。他国出身の人と共生していくことは、どこの国民にとっても避けられない現実だ。アメリカへの入国制限を巡る混乱は、世界の人々に重い課題を投げかけている。 (編集委員 山崎貴史)


⦿読売新聞 2017年2月10日付掲載⦿
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