【オトナの形を語ろう】(12) “孤”にならざるを得なかった無頼たちの来し方

“無頼”は読んで字の如く、“頼るもの無し”。つまり、生きていく上で何者にも何物にも頼らないということである。人がこの世に生を受けて、何者・何物にも頼らず生きるということは不可能である。それ故に、ここで言う“無頼”とは、1人で歩けるようになってからのことだ。ガキの、洟っ垂れ小僧であった時代のどの辺りから“孤”で生き始めたかは千差万別であろうが、若い時代に“孤”を知った者は、のんべんだらりと生きた者とは明確に違いが出る。恐怖に対する考え等がそのいい例で、“恐怖を克服する”というのは、人間がなす行為の中で相当に難しいものだ。恐怖は、どんな環境で生まれ育った者であれ、生きていく上で必ず憑りついているものだ。恐らく、本能に近いものだろう。何かを恐れ、怖がることは、人間の必須条件である。逆に言えば、“恐れ怖がる”本能があったから、人間は地球上でここまで生きてこられたと言えよう。“臭いものに蓋をする”という言葉をそのまま“怖いものに蓋を”したいのが人間の本性である。“嫌なものに目を瞑る”という言葉を“怖いものに目を瞑りたい”のが人間の本性である。“無頼”の輩は、その怖いものから目を逸らさないのである。「怖くないのですか?」。そりゃ、怖いだろう。ガキの時代なら尚更である。

ところが、ガキの時代から彼らは恐怖と正対したのだろう。何故、ガキのような青二才が、如何なる恐怖も正対したのか? それは、“正対せざるを得なかった”からである。この“せざるを得なかった”というのが、今回の話の肝心だ。連載の第8・9回で、私は社会の競走をマラソンランナーに例えて話した時、「人間は“苦”と“楽”があれば断然、“楽”を選ぶ生き物だ」と言った。どこに好き好んで“苦”を選ぶバカがいるか。人間は“楽”をしたい生き物なのである。楽して生きるには、誰か、何かによるべきものを持つことだ。「どちらかを選べ」と言われたら、どちらが良いかを答えてくれる人を側に置いて(寄り添ってでもいいが)おけば済む。腹が空いたら、飯を作れる人がいればいいのである。欲しいものがあれば、買ってくれる人である。“無頼”の輩は、ガキの時代にそういう人・物が全く無かったケースが殆どである。“孤”とは、そういう状況なのである。“孤にならざるを得なかった”のである。そのガキが敢えて、その状況を選んだのではない。自分1人で直ぐさま選択・判断し、歩き出さねば、そこでくたばるしかなかったのだ。くたばれば人でなくなるし、死も当然、そこにある。“生”を拒絶すれば“死”しか残らない。「何とか生き残らねば」という執念だけがあったのだろう。

恐怖に話を戻すと、当然、“死”も恐怖の最たるものである。“死”と正対したのである。“蓋をしない”・“目を瞑らない”。それは、実践し続ければ、恐怖の正体が何であるか、朧に見えてくる。恐怖の正体は様々だが、恐怖の大半は己の中から湧き出てくるものだ。恐怖を克服するには、己の中にある恐怖心をよく見据えれば、何かに怯えて生きることはない。“無頼”とは、そういうことをどこかで身に付けた輩である。扨て前回、A先生に紹介されて麻雀を打った1人の男の話である。「伊集院君、少し麻雀につき合ってくれませんか?」「わかりました。で、お相手は?」「服役を終えて、明日出てくる人でね。麻雀をしたいそうだ」「…」。私は黙って頷き、翌日、A先生と神楽坂の雀荘へ向かった。「いい人なんだ。人を殺めてしまってね」「そうですか…」「相手は、その人の弟さんなんだ」「…」。初見、「この人がそんなことを…」と思えるほど穏やかな人だった。半日打って、夜、一緒に飲んだ。「先生、今朝、弟の墓参に行きました」「そりゃ、いいことをしたね」「墓の前で言いました。『済まないことをしたが、私は間違っていなかった』とね」。A先生は暫く沈黙した後、「そう信じているなら、私はそれでいいと思うよ」。私は男の指先を見ていた。男は先生を正視して、目を逸らさなかった。頑なな所作が、私は少し異様に思えた。続きは次回で…。 【続く】


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。


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