【霞が関2017冬】(08) 高校無償化に潜む財政の死角、小池氏が口火

「教育機会の格差はあってはならない」――。先月25日、東京都の小池百合子知事は、来年度予算案に盛り込んだ私立高校の授業料無償化に胸を張った。“都民ファースト”の掛け声通り、東京都民に恩恵を届けた形だが、そこには財政膨張の死角が潜む。小池氏が打ち出した支援策が口火となり、自治体間で早くもサービス合戦が始まっている。東京都が4月にも導入する給付金制度は、私立高校に通学する際に、都から受けることができる生徒の世帯年収の上限を“760万円未満”と、全国で最も高い水準にしたことが最大の特徴だ。都に申請すれば、都内の私立高校の平均授業料に当たる44万2000円まで給付金を貰えるようになる。対象は、都の高校生の約3割にあたる5万1000人。都は、従来から取り組んできた私立高校向けの予算138億円に加え、今回の追加措置に必要な80億円を合わせた218億円を、都の独自加算として来年度予算案に計上した。「意欲的な取り組みだ」。文部科学省の松野博一大臣は手放しで持ち上げた。教育分野の予算拡充は文部科学省の宿願。自治体の予算を活用した取り組みなら、文科省の財布も傷まない。しかし、財務省の幹部は懸念を示す。「これでは歳出の膨張が止まらなくなる」。何故か。都が打ち出した給付金制度の要件は、高校生が“都民”であることだ。都在住の高校生の世帯であれば、都内だけでなく、他の道府県の高校に通っても給付金を受け取れる。一方、埼玉県や千葉県等、隣県に住む生徒が都内の高校に通った場合は、都の補助は受け取ることはできない。埼玉500万円・千葉350万円・神奈川250万円…。隣県の授業料が無償化となる年収水準は、都よりも大幅に低い。都の制度拡充は、住んでいる自治体によって新たな“教育格差”を生んでしまうことに繋がる。財務省幹部の懸念は的中した。今月上旬、埼玉県が“全国でトップレベルの手厚さ”として、都の私立支援策を追いかけた為だ。支援対象を新たに約4500人増やして1万7000人規模に広げ、埼玉県の高校生の3人に1人をカバー。都の“約3割”を上回るという。年収制限も500万円未満から609万円未満に引き上げる。教育環境は社会保障と並んで、引っ越し先の判断に繋がる重要な項目。都との“教育格差”の穴を埋めようとする埼玉県の行動は、自治体としてある意味当然とも言える。

年間3000億円の歳出増――。これは、私立高校の授業料の無償化が全国で取り入れられたケースとして、政府が弾いた歳出規模だ。安倍政権が来年度に創出する大学生向けの給付型奨学金(200億円)の約15倍に相当する。政府はこれまで、教育の充実策を“財源確保と一体”として、財政面で箍を嵌めてきた。社会保障費の急激な膨張が続く中、少子化傾向が続く教育分野に回す予算は、寧ろ減少傾向してきたのが実態。「文教関連費としてはかなりのインパクトだ」(与党の文教関係議員)という。だが、高校授業料の無償化が全国的に広がる可能性は、かなり高まっていると言っても過言ではない。先例がある。子供が病院に通った時に、窓口での負担額が軽減される“子供医療費制度”だ。同制度は、2000年代に東京23区で無料化の対象を引き上げる動きが起きたことを発端に、全国に広がった。現在では、全国全ての自治体が何らかの上乗せ措置を講じている。厚生労働省の推計では、高校卒業までの医療費無料化にかかる費用は8400億円。自治体の独自加算は4000億円程度に達している可能性がある。政府も、当初は財政面での負担拡大を懸念し、取り組みを抑制してきたが、再来年度からは現状を追認して支援する方向に舵を切る。高校授業料の無償化も、子供医療費のように、自治体間の競争を国が抑えるのは難しいテーマと言える。小池知事が拡充に踏み切った背景には、連携する都議会公明党の強い主張があり、選挙を抱える他の地域でも同様の構図が生まれてもおかしくない。更に深刻なのは、東京都のような裕福な自治体では、財政負担は大きな問題にならないが、税収が乏しい地方の自治体にとっては、複雑な問題を抱えるという点だ。子供医療費の独自加算を巡っては、小規模自治体から「財政力のある自治体に人口が一極集中してしまう」との不満も漏れた。国にとっても、全国に拡大すれば、国と地方の基礎的財政収支を2020年度に黒字化する政府目標が、更に遠退くことに繋がる。安倍政権は積極的な財政政策を取りつつも、一定程度の歯止をかけている。これに対し、自治体では首長の人気取りの思惑も絡み、自治体が競う形で財政拡張が雪崩を打つリスクを孕む。高校無償化を突破口に、幼稚園や大学と無償化の範囲が教育全般に広がれば、必要額は6兆円に跳ね上がる可能性がある。『BNPパリバ証券』チーフエコノミストの河野龍太郎氏は、「高齢者向けの社会保障の充実がある程度進んだ今、政治が現役世帯向けの施策として教育にフォーカスする傾向が強まっている。反対し難いテーマではあるが、限られた予算制約の中で、必要性を吟味する作業を欠かしてはいけない」と指摘する。 (重田俊介)


⦿日本経済新聞電子版 2017年2月14日付掲載⦿
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