今期は“落とす”アニメが続出! 崩壊するアニメ業界の制作現場がやっぱり劣悪

映画『君の名は。』(東宝)の大ヒットで、日本のアニメ界が盛り上がっているように感じられるが、内情はそうではない。アニメ制作の現場は、少ない制作費や無理なスケジュールにも過剰労働で耐えてきたが、遂に限界を超えてしまったようだ。崩壊するアニメ業界の今を徹底取材した。 (取材・文/本誌編集部)

20170215 08
アニメ業界が活気付いている。新海誠監督の劇場用アニメ『君の名は。』の興行収入が200億円を突破し、邦画では『千と千尋の神隠し』(興行収入304億円・東宝)に次ぐ歴代2位を記録。他にも、2016年は『聲の形』(松竹)や『この世界の片隅に』(東京テアトル)等、アニメ映画のヒット作が続いており、テレビアニメでも次々と話題作が生まれている。アニメはヒットすると、関連の出版物やグッズ収入等の経済波及効果が高く、近年ではアニメの舞台となったロケ地を巡る“聖地巡礼”等も一般的になり、観光資源としても注目を集めている。その経済効果は1兆5000億円ほどと言われており、まさに“産業”と言っていいほどの市場規模を誇る。しかし、アニメ制作会社等業界全体の売上は2000億円ほど。制作の“現場”で回っているカネは、市場規模の10分の1ほどしかない。どんなにヒット作が生まれても制作元の儲けが少ないので、慢性的な人材不足の上に過剰労働が常態化し、更に低賃金…という“ブラック産業”と化しているのである。その歪みは既に現れており、アニメ制作会社の倒産が相次いでいる。『サムライチャンプルー』等のヒット作を生み出した中堅の制作会社『マングローブ』は、2015年10月に3億5000万円の負債を抱えて自己破産を申請。2016年11月にも、アダルトアニメとして一世を風靡した『くりいむレモン』シリーズや、セクシーアクションアニメ『AIKa』シリーズ等を手がけた老舗プロダクション『スタジオファンタジア』が破産している。最近でも、『新世紀エヴァンゲリオン』等の大ヒット作を手掛け、業界内では伝説的なスタジオである『ガイナックス』も、同社に嘗て所属していた庵野秀明が経営するアニメ制作会社『カラー』から借入金1億円の返済を求めて提訴されている。大ヒットした作品があっても、それが続かないと忽ち資金繰りが悪くなり、苦しい経営を強いられるのがアニメ制作会社の現状のようだ。

制作の下請けに徹しているようなプロダクションは、もっとキツい。仕事はいくらでもあるが、単価が安い為、よりブラックな労働形態にならざるを得ないのだ。以前から「その歪みは限界に達している」と指摘されていたが、今年に入って遂に“放送延期”という事故が多発している。10月8日からテレビ放送を開始していた『ろんぐらいだぁす!』というアニメ番組は、第3話と第5話が制作スケジュールの遅れ等を理由に延期。また、『第502統合戦闘航空団ブレイブウィッチーズ』も、相次いで放送延期が発表された。「『テレビアニメの制作現場はキツい、破綻している』と言われ続けてきましたが、放送に間に合わないという事故は殆ど無かった。それが立て続けに起きているということは、まさにアニメ業界の崩壊が始まったと言えます」(アニメ業界関係者)。近年はアニメ番組の制作本数が飛躍的に増加しており、制作に従事するアニメーターの絶対数が足りず、スケジュールに無理が生じているという。「アニメの製作というと、声優や監督ばかりが注目されますが、実際に“動く絵”を作っているのは、原画や動画を作っているアニメーターたち。ここの人材が育たず、新人ばかりになってしまうと、結局、作画監督から修正が何度も入ることとなり、制作進行も遅れ、どの部門も無理に無理を重ねていくことになってしまうんです」(同)。アニメ制作は労働集約的な産業であり、人手が必要である。しかし、肝心の現場にカネが回らないので、労働条件は加速度的に劣悪になっていく。「最近の深夜アニメの製作費は、1話30分で1000万円ほどと言われています。この予算の中で実際に動画制作に回ってくるのは、半分ほどではないでしょうか」(アニメ制作プロダクション社員)。30分のアニメに必要な動画枚数は5000枚ほど。様々なデータから計算すると、アニメーターへの報酬は1枚当たり200円ほどとなる。ある調査によると、アニメーターの平均的な労働時間は1日11時間で、平均年収は110万円と言われている。描いても描いても全く儲からない、典型的なブラック産業なのである。流石に月収10万円以下となると労働基準法に違反していると思われるが、こうしたアニメーターの多くは会社に雇用された社員ではない。新人でもベテランでも、ページ1枚単位で仕事を受けるフリーの“個人事業主”なので、労働法が適用されず、残業代も出なければ休日も保証されない。「実際には毎日、スタジオに出社しなくちゃいけないし、ノルマを達成しないと罰則もある。会社員と同じように管理されながら、只管に低賃金で働かされているのが現状です」(同)。一部の業界関係者は労働待遇の改善を訴えているが、現状では一向に変わる気配がない。

20170215 09
ベテランのアニメーター・Aさんは、溜め息混じりに語る。「最近はウチらの業界がブラックって言われているけど、そんなこと言い出したら50年前から真っ黒だから」。日本で初めてのテレビアニメ作品は、1963年に放送開始された『鉄腕アトム』。この作品は、原作者である手塚治虫が自らのプロダクションで制作してテレビ局に売り込んだと言われており、当初から少ない予算と劣悪な労働環境で制作されていたという。日本のアニメ産業は、誕生した時からブラックだったのだ。「それでも、1970年代~1980年代ぐらいまでは子供が多かったから、テレビアニメにちゃんとスポンサーが付いていたし、それなりの予算と人材を使って、志のある作品を作ることができたんだよね。業界人も意識が高くて、『労働組合を作って環境を改善しよう』という動きもあった。宮崎駿さんも、先頭に立って頑張っていたって話は聞いたことがある」(同)。この頃のテレビアニメは、テレビ局自体が制作費を出したり、スポンサーによる広告収入というモデルで成り立っていた。しかし、平成に入るとアニメのファン層が拡がり、テレビでも20代以上を対象とした作品が多くなってくる。こうした“大きなお友だち”向けのアニメは、一般企業のスポンサーが集まり難いので、“製作委員会方式”で製作されることが増える。「製作委員会方式とは、広告代理店・原作の権利を持つ出版社・DVDメーカー、更には声優のプロダクションや制作会社が其々出資して、利益とリスクを分散させる方法です。昨今の邦画は、ほぼこのスタイルで製作されることが多いですね」(前出のアニメ業界関係者)。

この方式だと、視聴率が稼げないようなマニアックなアニメでも製作することが可能となる。「製作委員会方式のアニメは、雑誌やグッズ等の関連商品や、作品を収めたDVDやブルーレイを売るのが目的なんです。テレビ放送は、作品を認知してもらう為の“CM”みたいなものなので、テレビ局にカネを払って放送枠ごと買ってしまうことも多いです」(同)。現在のテレビアニメが深夜帯だったり、ローカルなUHF局で放送されることが多いのは、そういった時間は“枠”が安いからに他ならない。しかし、こうした中でもファンが付き、ヒット作が生まれれば、十分に資金を回収することができるのだ。しかし、多くのアニメ制作会社は、作品を制作し終えたらビジネスは終了。製作委員会に入っていない為、著作権を持たず、作品がいくらヒットしても、その利益が分配されることは殆ど無い。それなのに、作品の密度はどんどん高くなり、求められるクオリティーは高くなっていく。「テレビが大画面化してデジタル化したことで、作画や動画の質がより問われるようになりました。更に、マニアは細かいキャラクターの仕様に煩い。一瞬しか映らないようなシーンでも、パソコンで画を拡大して見れてしまうので、瞳の輝き方とか服の皺の1本1本まで、普通にテレビで観ていたら気付かないような部分までチェックされてしまう。制作側も、そういった要求に応えるようにキャラクターの管理を厳密にする傾向があるので、動きや表情1つでもレギュレーション内に収まっていないと修正が来る。予算と時間がある劇場用のアニメならまだしも、『深夜放送のテレビアニメでここまでする必要があるのか?』って思います」(現役アニメーター)。一度でも高いクオリティーを出したら、もう下げられない。職人技による驚くべき仕事ぶりが日本アニメの特色だが、それが“ジャパニメーション”として世界的な評価を得れば得るほど、結果的に自分たちの首を絞めていることになる。現場は「ある程度の妥協と融通を利かせてもらいたい」と願っているが、プロダクションはどこまでいっても下請けの為、カネを出している側の無理難題を受けなくてはならない。その為には、前時代的なシステムが功を奏すこともあるという。「経済産業省がアニメを“クールジャパン”とか言って推奨し始めたくらいに、『(この業界が)あまりに旧態依然としている』ってことで、『ちゃんと契約書を交わすように』っていう要請が入ったんだよ。でも、うちらは契約とか守秘義務とかいっても、間に合いそうになかったら、こっちの判断で知り合いのスタジオに仕事を回して、皆でバーッと仕上げちゃう。契約的にはグレーだけど、そうでもしないと完成しないというのが本音だよ」(前出のベテランアニメーター・Aさん)。

20170215 10
まるで高度経済成長期における町工場のような連携業だが、このような有機的なバランスが取れていたからこそ、事故も無く放送できていたのだろう。トップだけがコンプライアンスを重視して、その皺寄せが現場に押し寄せているというのは、他の産業とも同じ構図。但し、アニメ業界が特殊なのは、これだけブラックな内実が知れ渡っていても、「アニメに関連する仕事をしたい」という志望者が後を絶たないことだ。“誰がいつ辞めても代わりがいる”という構造が、人材の使い捨てに繋がり、現場を更にブラックにしていく。「専門学校を出てウチに入ってきても、仕事は一から覚えていかなきゃいけない世界ですから。兎に角、数を描かないと絶対に上達しない。センスも大事だけど、朝から晩まで只管に線を引くような根性と体力が大事なんで、ダメなヤツは直ぐに辞めていきますね」(同)。低賃金で只管働いても、作画監督や演出等の上級職へ進めるのはほんの一握り。それでも下請けである以上、稼ぐことは難しいし、脚光を浴びることも少ない。しかも、最近はアニメに限らず、DVDの売上げ自体が鈍っており、“メディア収入で経費を回収する”ということが難しくなってきている。インターネットやデジタル配信へシフトするスタジオも出てきているが、資金の回収という意味ではまだまだ未知数。業界全体はシュリンクしてきているのに、『君の名は。』のような鮮烈なヒット作が生まれることで、アニメ業界志望者は後を絶たない。制作会社の経営に黄信号が灯り始めているアニメ業界。契約はグレー、そして現場はブラック――。上から下までカラフルな色使いを披露しながら、この業界は沈んでいこうとしている。


キャプチャ  2017年2月号掲載




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