【中外時評】 トランプ流、情報術の行方――攻防過熱、舞台裏に気抜くな

ドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領に就任して1ヵ月。この間、太平洋を隔てた日本にあっても、トランプ政権に関するニュースに触れない日は無かった。最強の軍事力と最大の経済力を持つ国で新しい政権が生まれたのだから、海の外からも注目が集まるのは当たり前ではある。それしても、これほど話題になった新政権は嘗て無かったのではないか。このこと自体、興味深い、検証に値する現象だろう。尤もらしい理由は幾つも挙げられる。大統領選で物議を醸す政策を掲げていたので、実際に政権の座に就いて何をするかは大きな関心事となってきた。就任後は期待に違わず、矢継ぎ早に政策を実行に移してきた。一方で、就任前の過激な言動をあっさり軌道修正することも珍しくない。具体例を挙げれば、“1つの中国”政策を巡る変転だ。また、大胆な政策は強烈な反作用を引き起こしてもいる。中東7ヵ国からの入国禁止措置は“違憲”だとして提訴され、足元では効力を停止されている。要するに、トランプ氏の言動は、どこまで本気で受け止めるべきか、よくわからない。たとえ実際に政策が打ち出されても、実行できるとは限らない――。この1ヵ月を総括すれば、こう結論したくなる。とはいえ、そんな一挙手一投足が耳目を集めてきた。政治の世界では得てして、存在感を発揮し続けること自体に意味がある。この点、トランプ氏は手の込んだ情報操作をしているようにもみえる。改めて思い出すのは、2014年から2015年にかけての大統領選だ。当初、トランプ氏は泡沫候補扱いだったが、物議を醸す過激な言動を繰り返し、既存メディアの大半を敵に回すことで、却って多くの有権者の心を掴んだ。政治に情報操作はつきものとはいえ、あの選挙戦で駆使した逆張りとも言える手法は斬新で、実際にも見事なまでの成功を収めたと言える。情報操作に乗せられたアメリカの既存メディアこそ、最大の敗者だったのではないか。

とりわけ気になるのは、自分に都合の悪い情報をトランプ大統領が「ガセだ」と公言して憚らず、それが支持を得てきたことだ。背景には、アメリカ国民のメディア不信の広がりと、国民の間の分断の深まりが窺え、トランプ大統領はそこを突いている印象だ。尤も、そんな逆張り的な情報術がどこまで、いつまで通用するか、疑問はつきない。外交・安全保障を担当する大統領補佐官に就いたマイケル・フリン氏が、在任僅か3週間で辞任に追い込まれた発端は、ロシアの駐米大使との電話会談に関するメディアの報道だった。トランプ大統領が「買収されるか廃刊になるかすればいい」と罵倒した『ニューヨークタイムズ』はこのところ、電子版の部数を大幅に伸ばしている。大統領選では敗れたかにみえるアメリカのメディアだが、実はトランプ大統領とウィンウィンの関係を築きつつあると捉えることもできる。トランプ政権とメディアの攻防は、更に熱を帯びていくのだろう。言論の自由がある民主主義の国として、そうした熱気は好ましいことだ。ただ、結果として「アメリカ国内の亀裂を一段と深めるのでは?」との心配も浮かぶ。もう1つ、気がかりな問題がある。目まぐるしい“トランプ劇場”に目を奪われ、舞台の裏や脇で進んでいることへの注意力が下がることだ。トランプ大統領が納税申告書の開示をしていないことや、娘婿を大統領上級顧問に任命したことは、政治倫理の面でタブーを犯した印象さえある深刻な出来事だ。ただ、足元では別の政治倫理の問題がメディアを賑わしている。例えば、大統領顧問のケリーアン・コンウェー氏がテレビに出演した際、大統領の長女であるイヴァンカさんのブランド品を宣伝したことだ。こうした話題が目晦ましになれば、トランプ氏の思う壷かもしれない。そして、アメリカの外である。「ロシアがアメリカとの条約に違反して、開発したばかりの巡航ミサイルを実戦配備した」との疑い。中国の富豪が香港で中国の当局者に拘束された疑惑…。気になるニュースは少なくないのだが、世の関心は決して高くない。ロシアや中国の政府が国内のメディアを統制し、露骨に情報を操作していることは言うまでもない。そうした国々の“不都合な真実”を暴く上で、アメリカのメディアは大きな力を発揮してきた。それが内向きになるなら、世界にとって不幸と言うしかない。 (論説副委員長 飯野克彦)


⦿日本経済新聞 2017年2月19日付掲載⦿
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テーマ : 国際政治
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