【Global Economy】(24) 人民元、止まらぬ国外流出…外貨準備減、中国の火種

中国の通貨・人民元の国外への流出が止まらない。景気の先行きが思わしくない為だ。人民元の動向は、アメリカのドナルド・トランプ政権の経済運営にも影響を及ぼす可能性がある。 (本紙広州支局長 幸内康)

20170220 08
香港中心部にある保険会社。最近、客の9割は中国本土から訪れる。彼らは手持ちの人民元をドルに両替し、ドル建ての保険商品を購入していく。店員の李雪蓮さん(27)が、「人民元の下落を心配する中国人客が、財産の価値を守る為に買っている」と実態を説明してくれた。人民元は2015年8月から下落傾向が続いている。中国経済の減速懸念が要因だ。その頃から、中国人の間で香港の保険が人気になった。中国人客の新規の保険料支払額は、昨年1~9月で既に一昨年全体を上回った。保険は一例に過ぎない。日来欧の不動産や美術品、或いは超高級ワイン等、中国人は人民元をモノに換えて持っておこうと躍起になっている。中国政府は人民元の流出を抑える為、1人が1年に両替できる金額を5万ドル(約570万円)までに制限している。だが中国人たちは、この規制を掻い潜る。親族や友人の両替枠を借りるケースも少なくない。中国の裏通り等には、違法な“地下銀行”業者が立っている。彼らとこっそりお金をやり取りする人もいる。香港に近い広東省深圳市当局が昨年摘発した64件の地下銀行事件では、違法な換金額は2000億元(約3兆3000億円)超に上った。この結果、中国の昨年の金融収支は4903億ドルの赤字で、お金の“流出”が“流入”を大きく上回った。

資金の流出先がわからない“誤差脱漏”も1633億ドルに上った。人民元の対ドル相場は、2016年の1年間で6.6%も下がり、下落率は1994年以来、22年ぶりの大きさとなった。人民元の過度な下落は、中国景気の悪化に繋がる。中国からの輸出には有利になり易いものの、中国企業等の外貨建ての借金は人民元換算で膨らむ。輸入品は値上がりして、国内の物価は上昇する。インフレを抑える為、『中国人民銀行』(中央銀行)が金利を上げれば、企業や個人は借り入れをし難くなる。中国当局は、急激な人民元の下落を食い止める為、“ドル売り・元買い”の市場介入を繰り返している。外貨準備で保有するドル建てのアメリカ国債を売り、人民元を買うので、外貨準備は減っていく。中国の先月末の外資準備の残高は2兆9982億ドル(約340兆円)と、3兆ドルを割り込んだ。ピークの3兆9932億ドル(2014年6月末)から、2年半余りで約1兆ドルも急減した。今後もドル売り・元買い介入を続けるには、売却するドルを貯めておく一定の外貨準備が必要だ。中国の外貨準備の適正な水準は2兆ドル前後との見方が多い。中国当局は今月7日、先月末の外貨準備の発表に際し、「外貨準備高が経済状況で上下するのは常で、(3兆ドルを)“大台”として重く見る必要はない」と特別のコメントを付けた。市場の不安を消し去ろうと必死なのだ。通貨当局は昨秋以降、海外への直接投資や外貨の両替に対するチェックを厳格にし、資金流出を抑えようと懸命だ。1997年のアジア通貨危機の際、タイや韓国で通貨が売り浴びせられたのに対し、政府は自国通貨買いの介入が続かず、経済が崩壊した。曁南大学国際金融商務研究所の孫華妤所長は、「中国はアジア危機の経験から、『自らの力による安定が必要だ』との教訓を得た」とみる。常に十分な外貨準備を維持する必要があるという訳だ。習近平政権にとって、外貨準備は国際的な政治力を発揮する為の財源でもある。途上国のインフラ(社会資本)整備を行う『シルクロード基金』や『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』に外貨準備の資金を振り向け、“大国路線”を推進している。人民元の流出と、それに伴う外貨準備の減少は、中国経済の新たな火種になりつつある。

20170220 09
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、「中国がアメリカに安い製品を大量に輸出していることが、アメリカの雇用を奪っている」として強く批判している。だが、アメリカは中国に“弱み”を握られている。中国から巨額のお金を借りているのだ。中国が保有するアメリカ国債(昨年12月時点)は1兆584億ドル(約120兆円)に上る。ドル売り介入で減りつつあるとはいえ、日本(1兆908ドル)に次いで多い。トランプ大統領は選挙中、「中国は人民元を安く誘導している」として、「“為替操作国”に認定する」と主張した。今月10日の日米首脳会談後の記者会見でも、中国について「(自国通貨を意図的に安くする)通貨切り下げに、私はずっと不満を述べてきた」と強調した。トランプ政権が新設した国家通商会議のトップを務める経済学者のピーター・ナバロ氏は、著書『米中もし戦わば』(文藝春秋)で、アメリカ国民が大量の中国製品を買っていることで、「中国が軍事力を増強するための経済的エンジンを提供してしまっている」と指摘した。では、アメリカの主張に従い、仮に中国が“為替操作”と言える市場介入を止めたらどうなるか。現在の中国の介入は“ドル売り・元買い”だ。介入を止めれば、更に人民元安が進み、当面は中国の輸出にプラスになる。ナバロ氏の論に従えば、アメリカは中国の軍事力増強に更に手を貸してしまう。トランプ大統領は、経済活性化に向けて大規模なインフラ(社会資本)投資や減税も掲げる。その財源としてアメリカ政府は、アメリカ国債を発行して借金をする必要がある。アメリカ政府がアメリカ国債を更に発行する一方、中国は引き続き介入でアメリカ国債を売ると、市場にアメリカ国債が溢れる。需要に比べて供給が増える為、アメリカ国債の価格は下がり、アメリカの金利は上昇する。金利が上がると、アメリカに資金が集まってドル高・他国通貨安が進む。益々アメリカの輸出は不利になる一方、アメリカの輸入が増え易くなり、アメリカの貿易赤字が拡大してしまう。トランプ政権は、今後も中国にアメリカ国債を買い続けてもらわないと困るのだ。リーマンショック後の2009年、バラク・オバマ政権は大規模な景気対策で財政支出を拡大し、借金をする為に国債を増発した。北京を訪れたティモシー・フランツ・ガイトナー財務長官は、中国の胡錦濤国家主席に対し、アメリカ国債の購入継続を要請した。その際、アメリカが問題視していた人民元相場については、厳しい要求を避けた。今後、トランプ政権が中国に一段と強硬姿勢を示せば、中国側はお金の“貸し手”の強い立場を、陰に陽に利用してくるかもしれない。


⦿読売新聞 2017年2月17日付掲載⦿




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