【読解力が危ない】(06) 新たな指導法、世界が模索

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フィンランドの首都・へルシンキの北約12㎞にあるバンター市の小中一貫校『カルタノンコスキ学校』で先月30日、文学の歴史を学ぶ授業が行われた。日本の中学3年生に当たる9年生約40人は、3~5人のグループに分かれ、校内9ヵ所に貼られた紙を探す。紙には詩の解釈等の質問が書かれており、生徒はスマートフォンで関連情報を検索し、話し合いながら解答を考えた。アリサ・イソコスキ教論(31)は、「情報の見極め方や多面的な物の見方を身に付けさせたい」と語る。フィンランドは昨年8月、日本の学習指導要領に当たる『コアカリキュラム』を刷新し、子供たちに身に付けさせる7つの能力を掲げた。その1つが“マルチリテラシー(多元的読解力)”だ。本・新聞・映像・音声等の幅広い情報を理解し、論理的に説明したり、批判的に捉えたりする能力で、授業はこの向上を目指して行われた。フィンランドは、2000年の国際学力調査で“読解力”が1位になり、各国から視察が相次いだ。

だが、順位は徐々に下がり、2012年調査では6位に。教育文化省のアニタ・レヒコイネン事務次官(57)は、「当時はとても心配した。若者がSNSやゲームに夢中になり、長文に触れる機会が減った。学校も読書に重点を置かなくなっていた」と振り返る。そこで、2012年からコアカリキュラムの改定に向け、読解力を向上させる指導法の開発に着手。学校と公立図書館の連携を強める読書活動も推進した。公立図書館は充実しており、へルシンキに隣接するエスポー市のエントレッセ図書館は、年間予算の半分以上を児童図書の購入に充てる。本の朗読イベント等は年間700回も開かれている。昨年末に公表された2015年調査の結果で、同国の読解力は4位まで回復した。コアカリキュラムの改定で、更なる向上を目指す。一方、2015年調査で“読解力”を含む3分野全てが1位だったシンガポールは、共通語の英語を幼稚園から学び、小学校で論理的思考や読み書きを訓練する。小中高校の卒業時に論述試験があり、論理的な文章を書くことを求められる。教員は全員、毎年100時間の研修を受け、教師力を磨く。同国の教育省に勤務経験がある昭和女子大学のシム・チュン・キャット准教授(49)は、「小中高校とも成績が悪いと進学に影響するので、必死に読解力を身に付ける。子供が学ばさるを得ないシステムを国が作り上げている」と説明する。読解力低下を受け、日本は向上策を模索中だ。子供たちの現状をしっかり把握し、効果的な対策を打ち出す必要がある。

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■“楽しい”読書体験から  角田光代氏(作家)
教科書を読んで気に入った作品があると、その作家の本を読み漁った。親密だった友人が薦めてくれた本も、必ず読んでいた記憶がある。自分にとって本は、ページを開いて、その世界に入り込み、出てくると日が暮れているような“異世界”に行ける存在。面白いという以上に、無いと困るものだった。今の子供たちも、沢山本を読んでほしい。子供が本を求めた時、手に入る環境があること。購入してくれる大人、図書館のような無尽蔵に本が読める場所を教えてくれる大人がいるといないとでは、随分違うと思う。小学生の時に「小説家になる」と決心し、国語以外はあまり勉強してこなかった。少なくとも、「本を読み、国語をきちんとやっていれば、人は取り敢えず生活できる」という側面はある。小説家になることができたのも、そのおかげだと思う。でも、「他の教科も勉強しておけばよかった」と未だに後悔している。読解力低下の一因に、「本離れがあるのではないか」と言われる。『中高生のための新潮文庫ワタシの一行大賞』を始め、3つの読書感想文コンクールで選考側にいる立場からすると、本を読む人は昔より沢山読んでいるし、読まない人は全く読まない。二極化が進んでいる印象がある。だからといって、運動が得意でなかった子供時代の私が、「ドッジボールをやれ」と言われるのが辛かったように、色々な人がいるのだから、本を読むことが強制されてはいけないだろう。それなら、読書の楽しさを強調するのが良いと思う。高校生の『ビブリオバトル』にゲストで呼ばれたことがある。私は話すのが苦手なので、あのような場で好きな本をアピールすることはできそうもないが、参加している皆さんは楽しそうだった。あのようなイベントも、本を読むきっかけになるだろう。ただ、“共感できる”・“感情移入できる”ということだけが感動ではないだろう。今は理解できないような難解な作品にも挑戦すべきで、読む本の数だけでなく、読書体験の“質”も意識してほしい。 (聞き手/文化部 十時武士)

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■向上の担い手は学校  無藤隆氏(白梅学園大学教授)
読解力がある子と無い子の差が広がっているように感じる。世の中は読み易い文章ばかりではない。役所の手続きの文章やマニュアルも読めないと、社会生活に困る。向上には、語彙力と文章の構造を理解しながら読む力が必要だ。登場人物の心情を考えさせる国語の授業がある。これは、文章に書かれていないことも含め、想像を豊かにして読む方法で、説明文を読み取る手法とは異なる。説明文は、単語・文節・段落の関係性を図に描けるよう、丁寧に読まないといけない。学校現場でそうした指導が十分に行われているのか、疑問が残る。物語を楽しむ読書は否定しないが、学校では先ず、実用的な国語力を育成することが必要だろう。書く指導も重要だ。読書感想文は、ただ「書け」と言われても書けるものではない。本の内容を要約し、自分の考えを論理的に伝える技術を教えるべきだ。論理的に書くことで、論理的な読み方ができるようになる。大学生のリポートを見ると、SNSで書くように、ただ思いついた事柄を話し言葉で並べたものもある。SNSは、急速に若い世代に浸透している。論理的な文章を書く習慣は、SNSの影響を受ける中学生段暗までにつけるべきだ。400字や1000字の長い文章を、一貫した論旨で書けるようにしたい。語彙力は、幼少期からの家庭環境が大きい。保育所の保育士に聞くと、最近は2行以上の文があるお便りを読んでくれない保護者が一定数いるという。電車に乗っている親子を見ても、「あれは何?」と問いかける子供に対し、丁寧に答える親と、スマホを弄りながら適当に応える親がいる。こうした積み重ねが、子供の語彙量に影響する。語彙力が読解力を支え、読解力が学力に繋がる。その為、小学校に入る時点で一定の学力差がついてしまう。これを家庭だけで補うのは困難だ。読解力を育てる活動は、学校こそが担うべきだ。それを意識した授業が必要で、教員の指導力が問われている。 (聞き手/教育部 山田睦子)

■新聞の見出しに挑戦…東京都内の小学校
東京都墨田区の区立小梅小学校で先月31日、新聞を使った授業が行われた。5年1組の児童20人は、見出しが空欄になった記事のコピーを手に、見出しを考えた。担任の掘口友紀主幹教論(43)は、13年前から『NIE(Newspaper In Education=新聞活用学習)』に取り組む。記事から大切な言葉を10語書き出し、更に3つに絞って見出しを付ける。長文に臆する子がいなくなり、「文章を要約する力も付いた」と語る。この日取り上げたのは、自分の髪の毛を癌患者等に寄付する“へアドネーション”の記事。昨年10月、この活動を知り、髮を35㎝切って寄付した宮沢絢音さん(11)は、「同じ5年生で寄付をした子のことが書かれていて、嬉しくなった。見出しを考える授業は面白い」と笑顔を見せた。『日本新聞協会』が決定した今年度のNIE実践指定校は542校。同小も2012年度~2014年度に指定を受けた。同協会でNIEコーディネーターを務める関口修司氏は、「これまでの国語指導は、文学的な文章を読み込むことが中心だったが、今、求められている読解力は、新聞記事等の説明的な文章を読んで理解できる力だ」と話している。

■指導要領“喫緊の課題”
文部科学省の中央教育審議会は昨年12月、小中高校の次期学習指導要領の答申を纏め、読解力向上を“喫緊の課題”と位置付けた。国際学力調査で、日本の“読解力”の順位が低下したことを受けた措置だ。答申では、国語を中心に語彙を増やし、子供たちに文章の構造や内容もきちんと理解させる指導を求めた。読書活動について、「『受け身の読書体験になっており、情報を読み解きながら自分の考えを形成できていない』との指摘もある」と言及。文章を的確に理解し、自分の考えの形成に生かす力の育成を強く訴えた。また、討論や発表を重視した“アクティブラーニング”の授業では、「新聞や統計資料等を教材として一層活用するべきだ」とした。次期学習指導要領は2020年度以降、小中高校で順次実施される。

■学校図書館、蔵書目標遠く
学校の図書館は、児童生徒に読書の機会を提供する場として、積極的な活用が期待されている。文部科学省の調査によると、昨年度の公立校1校当たりの平均蔵書数は、小学校8920冊、中学校1万784冊、高校2万3794冊。年々増加傾向にあるが、同省の通知で定める蔵書数の目標を達成しているのは、小学校66.4%、中学校55.3%に留まっている。一方、学校図書館に新聞を置いている公立校は、小学校が41.1%、中学校が37.7%、高校が91.0%となっている。政府は、学校図書館の機能強化に向け、1993年度から財政措置を行っているが、使途を特定しない“地方交付税交付金”の為、本や新聞の購入とは別の用途に使われるケースもあり、自治体によって図書館の整備状況に差がある。来年度から5年間、新聞購読用の交付金を年30億円に倍増し、小学校1紙、中学校2紙、高校4紙を確保できるよう、各自治体に促す。

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■新聞読むほど好成績
『経済協力開発機構(OECD)』が2009年、各国の15歳を対象に行った国際学力調査では、新聞を読む生徒ほど、“読解力”の成績が良い傾向が見られた。平均得点が520点だった日本は、新聞を読む生徒が531点で、読まない生徒との間に25点の差があった。平均得点が556点でトップだった上海も、新聞を読む生徒は566点で、読まない生徒より35点高かった。

■高校生のSNS利用82.9%
『国立青少年教育振興機構』(東京都渋谷区)が2014年度、日米中韓4ヵ国の高校生を対象に実施した調査では、SNSを利用する高校生の割合は、日本が82.9%で最も高かった。調査ではインターネットの使用目的を尋ねており、日本は「音楽を聴く」(55.8%)や「動画を見る」(50.5%)も高かった。「ニュースを見る」は14.9%で、アメリカの6.8%に次いで低かった。 =おわり


⦿読売新聞 2017年2月4日付掲載⦿

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