【新聞ビジネス大崩壊】(07) 日本の新聞は日経の“一人勝ち”となるか?

業界内で「景気が良い」と言われる唯一の新聞が日経だ。『フィナンシャルタイムズ』買収以降、国内で記者の囲い込みを進めている。その戦略の先にあるものは、新聞の未来の姿なのか――。 (取材・文/フリージャーナリスト・元新聞記者 安藤海南男)

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苦境に立たされる新聞業界の中で、『日本経済新聞』の存在感が際立っている。2015年7月には、イギリスの有力経済紙『フィナンシャルタイムズ(FT)』を買収。約1600億円に上る巨額の買収劇は、国内外に大きな衝撃を与えた。他社に先駆けて仕掛けた課金制サイトも軌道に乗せて、“ポスト紙”の時代への準備も抜かりがない。一方で、刻々と迫るメディア再編の荒波を乗り切る為に、“人材の囲い込み”も進める。世界を見据えた日経の戦略は、“一強他弱”時代の幕開けを告げるものとなるのか。「また日経か!」。2016年2月某日、全国紙の一角を占める某紙の編集局に、こんな悲鳴が響いた。数日前、編集幹部に退職願を出していた同僚が話題の中心だった。声が上がったのは、その進路が明らかになった時のことだった。「記者の転職先は日経でした。2015年から続いて2人目です。しかも、共に警視庁担当も務めるなど、若手の中でも将来のエース候補として期待されていた。それだけに、幹部のショックも大きかったようです」(同社関係者)。冒頭の“また日経”という言葉は、手塩にかけて育てた記者を相次いで引き抜かれたことから発せられた呻吟だったという訳だ。しかし、日経への人材流出を許しているのは、この新聞社に限らない。「実は、日経は2014年頃から記者経験者の獲得に力を入れ始めている。これまで、春と秋に行われていた定期採用とは別に、1年間いつでも応募できる通年採用を実施するようになったんです。全国紙や地方紙の記者が次々と日経に流れています」(業界関係者)。こうした日経の積極姿勢は、業界内でも話題を呼んでいた。「週刊誌業界では、週刊文春が他社の優秀な人材を軒並み引き抜いて、スクープを連発する現在の快進撃に繋げた。そんな例もあるだけに、我々同業者は『日経が本格的に人材の囲い込みに走り始めた』と噂し合っている」(全国紙社会部配者)。今年、創刊140周年の節目を迎え、日経は勝負に出たということなのだろう。

その視線の先にあるのは、世界のメディア市場だ。戦略の一端が垣間見えたのが、2015年7月に発表したFT買収だった。「FTを発行するフィナンシャルタイムズグループを、同社の親会社であるピアソンから日本円にして約1600億円で買収したのです」(経済誌記者)。国内メディアとしては異例の海外メディア買収で、前例の無い戦略も然ることながら、電光石火の買収劇にも注目が集まった。「FTグループを巡る争奪戦において、日経は最後の数分間で、8億4400万ポンドの取引で勝利した」。2015年7月24日付のFTは、自社の買収劇を巡る攻防をこう伝えた。記事によれば、日経が名乗りを上げたのは、買収先が決まる僅か5週間前だったという。FTの親会社『ピアソン』は、2014年からドイツのメディア大手『アクセルシュプリンガー』とFTへの出資交渉を進めており、発表直前の23日深夜には、FTが「アクセル社が有利」と速報を打っていた。“伏兵”だった日経が逆転勝利を収めた秘策にも、業界関係者から驚きの声が上がった。「買収の決め手となったのは、日経が『買収資金を全て現金で支払う』という条件を提示したことでした」(前出の業界関係者)。FTの2014年の売上高は約641億円だった点から、一部で「買収額が高過ぎる」との声も上がったが、一連の買収劇で“NIKKEI”の名前が世界のメディア業界に轟いたことは間違いない。「更に言えば、資金的に少々無理をしてでもFT買収に踏み切ったのは、日経が本格的にグローバル化へと舵を切った証左でしょう」(同)。FT買収をきっかけに世界に打って出ようとする日経の意気込みは、同社のホームページからも読み取れる。採用案内の欄の“挑戦の歴史”と題されたページには、FT買収のトピックを誇らしげに紹介。同じく、“グローバル戦略”でもこの買収劇の成果を強調し、「“アジアで最強”から“世界で最強”へ」とぶち上げている。「日経は2013年秋から、アジア市場を睨んで英字紙“Nikkei Asian Review”を創刊。同誌でASEAN諸国・中国・インド等、11ヵ国・地域の300社超の企業情報を伝える“Asia300”をスタートさせるなど、独自のグローバル戦略を展開していた。FTのブランド力を加えたことで、ウォールストリートジャーナルやトムソンロイターに並ぶ世界の大手経済メディアの一角に躍り出ようとしている」(同)。グローバル化と並び、日経の戦略のもう1つの柱が“デジタル化”である。その中核を担うのが、2010年にスタートさせた日経電子版(月額4200円)だ。当時、他社の新聞系サイトに先駆けて課金制を導入したことで、大きな話題を呼んだ。「新聞各社に共通する課題は、紙からデジタルへのシフト。その為には、月額3000~4000円程度の定期講読料に代わる収益源の確保が不可欠です。しかし、従来のようにデジタル記事を見放題にして広告料だけで賄うようなビジネスモデルでは、膨大な人件費や取材費を維持するのは難しい。『いつかは課金制にシフトしなければいけない』と指摘され続けてきた。各社がそのタイミングを計りかねていた中で、逸早く日経がその決断を下した訳です。当然、その成否には注目が集まりました」(同)。

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当初こそ登録会員数が伸び悩んでいた日経電子版だったが、徐々にその存在が浸透していく。2012年7月から2016年1月にかけての3年半で、朝刊部数は約24万部(約8%)のマイナスだったが、電子版の会員数は約22万人から45万人へと2倍以上の伸びをみせているという。グローバル化とデジタル化を推し進めることで、世界のメディア戦争に打って出ようという訳だ。取材現場に投入する兵隊の確保に躍起になっているのは、その布石にも映る。「求める人材は経済畑の記者に限りません。各社の政治部・社会部からも、どんどん人をかき集めている印象です。30代で900万円程度を保証するという待遇面からも、『優秀な人材を何としても確保しよう』という姿勢が垣間見える。同業他社が軒並み給与水準を引き下げる中で、その本気度を強く印象付けています」(前出の経済誌記者)。一方、日経以外の全国紙に目を向ければ、その前途が明るいとは言い難い。新聞・雑誌の業界団体『日本ABC協会』の調査からも、その衰退ぶりは顕著である。数年前まで“販売部数1000万部”をセールスポイントとし、それを死守することを至上命題としてきた『読売新聞』は、2011年前半期でその大台を割り込んで以降、部数を減らし続けている。2015年後半期(7~12月)の発行部数は約913万部に留まり、業界1位の座は死守したものの、退潮傾向は隠しようがない。『朝日新聞』は、2014年9月、『東京電力』福島第1原発事故の所謂“吉田調書”と慰安婦報道における“吉田証言”で謝罪・訂正に追い込まれたダメージから未だに回復できず、同時期の発行部数671万部は2015年前期(1月~6月)から1.29%のマイナスだ。『毎日新聞』もマイナス1.54%の約322万部、『産経新聞』もマイナス0.93%の約159万部で苦境は変わっていない。「日経も部数を減らしていることは間違いない。ただ、日経電子版という新たな収益源を確保するなど、未来への展望がある点が他とは決定的に違う。それに、広告収入の減少も他社に比べて緩やかだ。FTの買収でブランド力を高めたことも明るい材料になる。このまま業界全体の地盤沈下が進んでいけば、“一強他弱”という構図になる可能性さえある」(前出の業界関係者)。“世界のNIKKEI”が、日本のメディア再編をリードしていくことになるのか――。


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