【オトナの形を語ろう】(14) 人間は誰しも、どこか狂ったものを持ち合わせている

今週は引き続き“無頼”の話をする前に、若い頃、私が教えられ、教わった話をしておこう。それは、人間の“狂気”の話である。狂人・狂奔・狂乱…と書くと、それがどこか普通の人と違う風に取られがちだが、読者もご存知だと思うが、人間(人間以外の生物全てが)は誰しも、どこか狂ったものを持ち合わせて、この世に誕生している。それとは別に、病いとしての血脈や、突発的な事故や、出来事に遭遇したことによって起こる“狂気”もあるが、ここではそれは外して語りたい。人間は、この世に誕生した直後から、ある種の保護、それに伴っての教育を受けなくては、正常に成長をできるものではない。それが人間という生きものなのである。食事を与えられ、昼間はうろつき、眠たくなれば眠るだけの繰り返しなら、いくら若くて体力があっても、何れは破綻する。善悪の問題だけではなく、“何故生きねばならないか”という根本の命題にぶち当たれば、いとも簡単に他人を殺めるか、自分を殺める。――全ての人間は、必ずどこか狂っているものを持っている。要は、その程度、深さの差異があるだけで、正常に近いように思われる・映る者を、人は正常と見做しているだけなのだ。

私はこれまで、何人かの、他人から見ると正常には見えない人たちと接してきた。その人たちは、私にとって大切な友人もいれば、憎むべき相手もいた。それでも圧倒的に、共に過ごしていて、安堵を与えてくれる者のほうが多かった。「“無頼”は、ある意味、彼らと似ている点が多いのではないか」と思う。彼らの共通点は幾つかあって、1つは“計算ずくで生きていない”という点である。私は人相学をする人間ではないが、「計算ずくで、若しくは拙い計算でそれまで生きて来た者は、その顔の相に出る」と思っている。その人が世間でどれだけ評価をされようが、例えばくだらないことだが、たかだかオリンピックの金メダリストであっても、「コイツは屁だ!」と私は思ってしまう。先ず、オリンピックの金メダリスト等というものは、その競技がただ優れていただけで、況してや、その種目に才能があれば同じく(運もあろうが)なれるものだ――。私はそう考えている。それは、別のノーベル賞を取ったのか、貰ったのかはわからぬが、学者面した連中も同じである。読者にわかって欲しいのは、世間で「偉い」「素晴らしい」「天才だ」と言われている輩が、如何に贋者かということなのである。話が逸れたので、“狂気”の友の話に戻そう。確かに、彼らが違う次元に入り込んでしまった時は、余程注意をして接しないと、彼らは自死に近い行動に平然と向かうことがしばしばあった。しかし、ある歳月、共に過ごしていると、彼らが(実は私も含めて)生きたい、生きることに希望を持っていることが、彼らを通してよくわかり、それを身を以て教えてくれたことに今も感謝している。

“無頼”は狂気を含んでいる、逆に言えば、“狂気を含んでいなければ無頼に非ず”となる。こう書くと、「“無頼”はやはりおかしい」ということになる。でも、私はそうは思わない。正常と思っている人のほうが、寧ろ怪しいのである。私は別に、“無頼”という輩を勿体ぶっているのではない。ただ、「“無頼”がなすこと、“無頼”が身体の内に持っていることが、極普通の人が本来持ち合わせないと思っているものと何ら変わりがなく、そのことをどこかで忘れたり、忘れていずとも目を瞑って生きているだけではないか」ということを言いたいだけなんだ。では、“無頼”を語ることで、わかり易い話をしよう。それは友情の話である。私がこれから話をする友情とは、昔、武者小路実篤とか、白樺派・ロマン派の文学者が語った美しい友情とはまるで違うものである。寧ろ、友との約束と違うということで脱藩してしまった吉田松陰の一見、バカに見える友との契りのような話である。友情の意義はわからぬが、友情とは読者が考えているものと、私が考えているものは、些か違うかもしれない。それは、「同年齢で交わしたり、生まれたりするものだけが友情ではない」ということだ。80歳と15歳の男が交わしたものの中にでも友情は成立する。寧ろそのほうが、友情の本質を知る為にはいいのかもしれない。ある時、80歳の男が謂れ無きことで殺められた。15歳の友は、その相手を殺めるべく、それからの生涯を捧げた。その話は来週!


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。


キャプチャ  2017年3月6日号掲載
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

【バーゲン本】大人のおひとり分。 [ 岩崎 啓子 ]
価格:648円(税込、送料無料) (2017/2/26時点)



[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ぶらり一人飲み 安旨はしご酒
価格:1080円(税込、送料無料) (2017/2/26時点)


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

幸せなひとりぼっち [ フレドリック・バックマン ]
価格:1080円(税込、送料無料) (2017/2/26時点)


スポンサーサイト

テーマ : 生き方
ジャンル : ライフ

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR