【Global Economy】(261) 中国、迫る人口減社会…一人っ子政策廃止でも少子化
中国の少子化に歯止めがかからない。一人っ子政策を廃止し、出産奨励に転じたものの、既に若者が減っており、子育て費用の高騰は出産意欲を低下させている。中国は間もなく人口減社会に突入するとみられ、経済・社会への影響が懸念される。 (中国総局 小川直樹)


国家統計局が今月17日に発表した人口統計によると、昨年の出生数は1062万人となった。前年より140万人、5年前と比べると4割(※約720万人)少ない(※①)。出生数の古いデータはないが、人口と出生率から算出すると、1949年の建国以来最少となる。1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率も、大きく下がったとみられる。人口学者によると1.1~1.2になると試算されており、日本(※1.34、2020年)を大きく下回る。『世界銀行』によると、1.2を下回る国は世界でも韓国やシンガポール等数えるほどしかない。出生数が大きく減った結果、昨年末の中国の人口は前年と比べて48万人の増加にとどまり、14億1260万人だったという。国連の最新の人口推計(※中位推計)は、中国の人口のピークを2031年としており、中国の人口減少は暫く先という印象を与えてきた。だが、この推計は合計特殊出生率が1.7台で推移するという、現実とかけ離れた前提で試算している。こうした過度に楽観的な予測には、懐疑的な見方が多い。中国の著名エコノミストや人口学者らで作る『育媧人口研究シンクタンク』は昨年12月、合計特殊出生率が1.2で推移する中位推計でも、2022年以降に人口が減少に転じ、2100年には6億8450万人と、人口が半減するとのリポートを発表した(※②)。推計によって振れ幅が大きいとはいえ、近年の出生数の急減を見る限り、中国の人口が減少に転じる時期が近付いていることは間違いない。国家統計局の寧吉喆局長は今月17日、「中国の人口はいつマイナスになるのか?」との質問には直接答えなかったが、「今後一定期間、14億人以上を維持する」と述べ、人口減の可能性を否定しなかった。


中国の少子化が止まらないのは何故か。中国政府の国家衛生健康委員会は今月20日の記者会見で、①20~34歳の女性の減少②晩婚化が進んで出産意欲も低下③出産・子育て・教育コストの高止まり――の3点を理由に挙げた。人口構造の問題から若者の結婚観・家族観の変化、経済的な負担まで要因は複合的だとの説明だ。実際、20~34歳の女性は2016~2020年の5年間、年平均で340万人減少し、2021年は前年に比べて473万人も少なかった。2020年の婚姻数は814万組にとどまり、2013年から7年で4割(※約530万組)減った(※③)。中国の女性が一生の間に産みたいと考える子供の数は、2017年時点の平均1.76人から2021年は1.64人に減った。住宅ローンや教育費等家計の負担が増す中、経済的な理由で出産に二の足を踏むケースが増えており、中国人民大学人口発展研究センターの宋健副主任は「出産をサポートする政策を整え、人々が直面する圧力を和らげる必要がある」と指摘する。より致命的だったのは、政策転換の遅れだろう。中国は2000年時点で高齢化率が7%となり、国際基準の“高齢化社会”に入った。一人っ子政策の弊害は明らかだったが、2015年末に廃止した後も、2016年から全ての夫婦に第二子を認め、2021年から第三子を容認と、段階的に制限を緩和したに過ぎない(※④)。中国共産党は昨年5月の政治局会議で、「青年の結婚観、恋愛観、家族観に対する教育・指導を強める」との方針を打ち出した。教育費の負担を減らす為、7月には学習塾を非営利組織化し、株式上場による資金調達も認めない通知を唐突に発表し、学習塾業界は壊滅的な状況に陥った。


婚姻件数を増やそうと、民政省は結婚時の経済的負担を軽くする“地味婚”を推進する実験区を設け、党中央宣伝部傘下のウェブメディア『中国報道網』は昨年12月、“三人っ子政策”の実行は党員の義務だとする記事を配信した。強引な政策や国民の価値観への介入は一人っ子政策を思い起こさせ、反発も広がる。国営の『新華社通信』が昨年、インターネット上で実施した第三子に関するアンケートでは、全体の9割が「全く考えていない」と回答した。北京市等地方政府は相次いで産休・育休期間の延長を決めたが、「人件費負担を企業に押しつけているだけ」との批判は根強い。企業が女性の採用を控えるようになる等、新たな差別を生んでいる。人口の減少は徐々に進む為、直ちに経済的な影響が広がるわけではない。但し、中長期的に経済成長の足枷になる。中国の生産年齢人口(※15~64歳)は、2013年をピークに減少を始めた(※⑤)。働き手の減少は生産や消費の足を引っ張る要因となる。2021年には65歳以上の人口が初めて2億人を超えた。高齢化率は14.2%となり、国際基準上の“高齢化社会”を超えて“高齢社会”に突入した。高齢人口の急増は社会保障費の増大を招き、現役世代や財政の重荷となる。少子高齢化は中国が直面する最大の課題と言える。今後、強権的な対策と相まって様々な問題が噴出する可能性が高い。中国を最大の貿易相手国とする日本も、細心の注意が要る。
2022年1月28日付掲載


国家統計局が今月17日に発表した人口統計によると、昨年の出生数は1062万人となった。前年より140万人、5年前と比べると4割(※約720万人)少ない(※①)。出生数の古いデータはないが、人口と出生率から算出すると、1949年の建国以来最少となる。1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率も、大きく下がったとみられる。人口学者によると1.1~1.2になると試算されており、日本(※1.34、2020年)を大きく下回る。『世界銀行』によると、1.2を下回る国は世界でも韓国やシンガポール等数えるほどしかない。出生数が大きく減った結果、昨年末の中国の人口は前年と比べて48万人の増加にとどまり、14億1260万人だったという。国連の最新の人口推計(※中位推計)は、中国の人口のピークを2031年としており、中国の人口減少は暫く先という印象を与えてきた。だが、この推計は合計特殊出生率が1.7台で推移するという、現実とかけ離れた前提で試算している。こうした過度に楽観的な予測には、懐疑的な見方が多い。中国の著名エコノミストや人口学者らで作る『育媧人口研究シンクタンク』は昨年12月、合計特殊出生率が1.2で推移する中位推計でも、2022年以降に人口が減少に転じ、2100年には6億8450万人と、人口が半減するとのリポートを発表した(※②)。推計によって振れ幅が大きいとはいえ、近年の出生数の急減を見る限り、中国の人口が減少に転じる時期が近付いていることは間違いない。国家統計局の寧吉喆局長は今月17日、「中国の人口はいつマイナスになるのか?」との質問には直接答えなかったが、「今後一定期間、14億人以上を維持する」と述べ、人口減の可能性を否定しなかった。


中国の少子化が止まらないのは何故か。中国政府の国家衛生健康委員会は今月20日の記者会見で、①20~34歳の女性の減少②晩婚化が進んで出産意欲も低下③出産・子育て・教育コストの高止まり――の3点を理由に挙げた。人口構造の問題から若者の結婚観・家族観の変化、経済的な負担まで要因は複合的だとの説明だ。実際、20~34歳の女性は2016~2020年の5年間、年平均で340万人減少し、2021年は前年に比べて473万人も少なかった。2020年の婚姻数は814万組にとどまり、2013年から7年で4割(※約530万組)減った(※③)。中国の女性が一生の間に産みたいと考える子供の数は、2017年時点の平均1.76人から2021年は1.64人に減った。住宅ローンや教育費等家計の負担が増す中、経済的な理由で出産に二の足を踏むケースが増えており、中国人民大学人口発展研究センターの宋健副主任は「出産をサポートする政策を整え、人々が直面する圧力を和らげる必要がある」と指摘する。より致命的だったのは、政策転換の遅れだろう。中国は2000年時点で高齢化率が7%となり、国際基準の“高齢化社会”に入った。一人っ子政策の弊害は明らかだったが、2015年末に廃止した後も、2016年から全ての夫婦に第二子を認め、2021年から第三子を容認と、段階的に制限を緩和したに過ぎない(※④)。中国共産党は昨年5月の政治局会議で、「青年の結婚観、恋愛観、家族観に対する教育・指導を強める」との方針を打ち出した。教育費の負担を減らす為、7月には学習塾を非営利組織化し、株式上場による資金調達も認めない通知を唐突に発表し、学習塾業界は壊滅的な状況に陥った。


婚姻件数を増やそうと、民政省は結婚時の経済的負担を軽くする“地味婚”を推進する実験区を設け、党中央宣伝部傘下のウェブメディア『中国報道網』は昨年12月、“三人っ子政策”の実行は党員の義務だとする記事を配信した。強引な政策や国民の価値観への介入は一人っ子政策を思い起こさせ、反発も広がる。国営の『新華社通信』が昨年、インターネット上で実施した第三子に関するアンケートでは、全体の9割が「全く考えていない」と回答した。北京市等地方政府は相次いで産休・育休期間の延長を決めたが、「人件費負担を企業に押しつけているだけ」との批判は根強い。企業が女性の採用を控えるようになる等、新たな差別を生んでいる。人口の減少は徐々に進む為、直ちに経済的な影響が広がるわけではない。但し、中長期的に経済成長の足枷になる。中国の生産年齢人口(※15~64歳)は、2013年をピークに減少を始めた(※⑤)。働き手の減少は生産や消費の足を引っ張る要因となる。2021年には65歳以上の人口が初めて2億人を超えた。高齢化率は14.2%となり、国際基準上の“高齢化社会”を超えて“高齢社会”に突入した。高齢人口の急増は社会保障費の増大を招き、現役世代や財政の重荷となる。少子高齢化は中国が直面する最大の課題と言える。今後、強権的な対策と相まって様々な問題が噴出する可能性が高い。中国を最大の貿易相手国とする日本も、細心の注意が要る。

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