fc2ブログ

【中小企業のリアル】(43) 雪ヶ谷化学工業(東京都品川区)――コロナ禍に挑みSDGs追求



20220131 14
コロナ禍で意外な業種が大打撃を受けている。化粧用スポンジで世界シェア70%を誇る特殊発泡体の専業メーカー『雪ヶ谷化学工業』もその一つだ。「主力商品が化粧品関連・環境関連で、不況の影響を受け難いこともあって、バブル崩壊やリーマンショックの時を含めて、今まで不況という実感を持ったことがなかったのですが、今回のコロナ禍で、主力の化粧用スポンジは売り上げ4割減です。緊急事態宣言等による外出制限やリモート勤務の影響で、皆化粧をしなくなり、出かける時も『マスクをしているから』と化粧が雑になったようです」と語るのは坂本昇社長だ。「しかし、不況に負けていられない。売り上げは落ちたが、競争力が落ちたわけではないので、社員の勉強会とSDGsの徹底、そして環境関連商品の開発に努めました」。雪ヶ谷の創業は1951年。現社長の祖父、坂本覚さんが創業者だ。中堅企業で働いていたが、ゴムをスポンジに加工する技術を持った友人と巡り合い、東京都大田区雪ヶ谷で創業した。天然ゴムを使ったマットレス等のクッション材やパッキン類を製造したが、高度成長の波に乗り、順調に業績を伸ばしていった。最初の飛躍は京都の女性下着メーカー大手との取引が始まり、ブラジャー用のパッドの生産が急拡大していったことだ。女性も洋装が一般的になり、下着にお金をかけるようになった頃で、売上は激増し、京都に専用の工場まで持つようになった。しかし、海外で開発された軽くて安く、臭いも少ないウレタンスポンジが輸入されるようになると、天然ゴムのブラパッドは用済みとなり、京都の工場も撤収することになってしまった。

次に飛躍を齎したのが、化粧用スポンジ素材の『ユキロン』だ。化粧用のスポンジは天然ゴムを原料としていたが、ファンデーションに含まれる油分が天然ゴムを膨張・劣化させ、耐久性がなかった。これに代わる材料を開発しようと必死に取り組み、1976年、遂にユキロ ンを開発した。ユキロンは柔軟且つ強固な独自の気泡構造を持っている為、へたり難い。その上、独自技術で配合した防菌剤がスポンジ骨格に確実に固着し、洗浄しても防菌性が低下し難く、永続的な抗菌性・防黴性を保つのが特長だ。『資生堂』・『コーセー』・『ランコム』・『エスティローダー』・『シャネル』・『クリスチャンディオール』・『ロレアル』・『イヴサンローラン』等、世界の一流メーカーから指名がある。雪ヶ谷の製品分野はそれだけにとどまらない。今、坂本社長が力を入れているのは、水処理施設等の高効率処理を実現する微生物固定化PVA(ポリビニルアルコール)担体の『Y-CUBE』だ。濾過材として使うが、高い親水性と優れた耐摩耗性を持ち合わせている。製造段階で気泡の大きさ、硬さ等をコントロールすることで、目的とする微生物の固定化が可能となり、水処理にかかるコストダウンが期待できるという。既に製紙工場や食品工場の排水処理を中心に実績を積み、半導体工場の純水リサイクルの前処理等に用途は広がっている。中国の深圳では河川浄化の施設でも採用され、地域の生活環境改善に貢献している。「公共用途では社会インフラが既にできている日本国内より、これからインフラを整備する途上国での拡販に注力したい」(坂本社長)。更に、坂本社長が注目している用途が陸上養殖だ。海面養殖と比べて水質も管理し易く、その海域の海水を汚さない。ある閉鎖循環型の陸上養殖施設では、何年にも亘ってY-CUBEの濾過実証が行なわれており、陸上養殖市場の拡大を待っている。海水もY-CUBEを通すことで、ビブリオ菌を10の5乗個から10の2乗個にまで減少させることができる。今は大腸菌がウヨウヨしている東京湾も、Y-CUBEを利用して泳げる海にできないか研究中だ。更に、微生物をY-CUBEの中で繁殖させ、汚水を分解する等、夢も広がる。製品と並ぶ雪ヶ谷のもう一つの特徴は、SDGsへの積極的な取り組みだ。製品の生産プロセスをSDGsに適合するように変え、炭酸ガスの排出量、有害物質の不使用等に最大限気を配り、省エネルギーも徹底している。稲敷の工場ではソーラー発電パネルで工場電力の3割を賄っている。また、合成ゴム主体のユキロンRPNにもできるだけ多くの天然ゴムを混ぜる等、製品もSDGsを意識している。ゴムの採取現場の多くは東南アジアだが、強制労働や児童労働等の問題がしばしば発生するので、現地で厳しく監視する体制も作っている。原料採取現場の労働環境にまで気を配っている企業は珍しい。「SDGsは企業で取り組めばコスト削減にも繋がる」(坂本社長)。

20220131 13
チームを編成し、施策アイデアを募ると、エネルギー削減や廃棄物削減の観点で多くのコスト削減効果も得られた。「雪ヶ谷の製品を採用することで、CO2排出量や世界の人権問題等の社会課題解決が進むとお客様に認識してもらいたい」(坂本社長)。坂本社長の就任は2013年。「私が社長に就いてからは、社員が活発に意見を出すようになったと自負しています。何故なら、私が何もしないから(笑)。父である先代は、技術もわかるし、金融や営業にも長けていた。私はそんなスーパーマンではないので、同じスタイルでは経営できない。だから、謂わば社員任せで、『多少転んだっていい。大怪我しないように頑張ってくれ』と見守り、大怪我しそうになったら、そこで初めて舵を取るというスタンスでいます。活躍の舞台を与えることで人は成長し、組織も活性化する筈ですから」。雪ヶ谷では、色々な背景を持った人に活躍してもらおうと、積極的に中途採用をしている。合皮メーカー、ボンドメーカー、不織布メーカー等、「様々な業種から集まった知恵と経験が我が社の財産」と坂本社長は言い切る。雪ヶ谷自慢のユキロンの開発にしても、当時は所謂“町工場”。そうした環境で新製品を開発するのは、“計算して開発する”というよりも“我武者羅に取り組んだらできちゃった”ということで、それは今も変わらないと考えているのだ。「会社の方針がどうこう以前に、社員一人ひとりがどういうものを作ったらお客さんに喜ばれるか、何が求められているのかを考えるのが大事だと思っています」(坂本社長)。坂本社長は、不況にあっても今やるべきことをしっかり見据え、前進することを考えている。


橋本久義(はしもと・ひさよし) 政策研究大学院大学名誉教授。1945年、福井県生まれ。東京大学工学部卒業後、通商産業省(※現在の経済産業省)に入省。情報産業局鋳鍛造課長や中小企業庁技術課長等を経て、1994年8月に埼玉大学教授。1997年10月より政策研究大学院大学教授。著書に『今世紀最後の好景気始動 JIS儒教精神が不況を救う』(かんき出版)・『中小企業が滅びれば日本経済も滅びる』(PHP研究所)等。


キャプチャ  2021年12月号掲載
スポンサーサイト



テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接