【ヘンな食べ物】(27) 謎の“ハッピーピザ”

20世紀最後の年だったと思うが、カンボジアの首都・プノンペンの宿で妙な噂を聞いた。市内のあるピザ屋でピザを頼むと、店員が「Are you happy?」と訊いてくる。そこで「Yes」と答えると、大麻入りのピザが出てくる。名付けて“ハッピーピザ”――。「本当だろうか?」と首を捻った。当時、既にカンボジアは混沌の内戦状態を抜け出して、真面な国作りに邁進していた。大麻は当然ながら違法であり、路上で声をかけてくる売人もいない。半信半疑ながら、メコン河沿いにあるその店に行ったのは、“謎”を放っておけない性格の為だった。行ってみれば、ピザ屋というより、かなりお洒落なイタリア料理店だった。店の前には国連のランドクルーザーやベンツが止められ、中も裕福そうな外国人ばかり。とても大麻入りの料理が出てきそうな雰囲気ではない。「やっぱりデマだったか」と思いつつテーブルに着くと、カンボジアでは珍しいくらいの美人の女性(※ウェイトレスというよりマネージャーという感じ)が、やはりこの国では珍しいほど愛想良くやってきた。私は、オーソドックスにマルゲリータピザを頼んだ。1枚5ドルは高いが、この程度の高級店では相場とも言える。女性は頷くと、ニコニコしながら「Happy?」と言った。何と、噂通りの展開である。驚きながら「Very very happy!」と力を込めると、彼女は「OK」と言って姿を消した。待つこと約15分。にっこり美人が持ってきた皿を見て、思わず吹き出しそうになった。湯気を立てているピザの表面が真っ黒になっていたからだ。何かの粉をびっしりかけて焼いてある。「これ、ハッピーピザ?」と訊くと、彼女は「イエース!」。カメラを取り出し、ピザと彼女に向けてパシャパシャ撮っても笑顔のまま。何だろう、この屈託の無さは。謎は深まる一方である…。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年3月2日号掲載
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