【「佳く生きる」為の処方箋】(41) 健康寿命を延ばす

毎年、お正月には4000通ほどの年賀状を頂きます。その多くが、以前手術をした患者さんやご家族からのものです。「今も現役でやっています」――。ある患者さんから貰った今年の年賀状に、そんな一言が添えられていました。21年前、心筋梗塞を起こして、冠動脈バイパス手術をした方で、御年78歳。個人タクシーの運転手さんです。“現役”という言葉に少し驚き、電話をしてみました。丁度、週末に先輩医師を誘ってゴルフに行く予定があったので、「送迎を頼んでみよう」と思ったのです。久々の再会をして、改めて驚きました。とてもお元気なのです。この21年間、再手術も無く、かかりつけ医の下でコレステロール値や血糖値等もきちんと管理されていました。「超音波検査等で心臓に異常は無いですか?」と聞くと、「『どこも悪くない』と言われています」とのこと。運転の腕も確かで、ご本人の希望は「80歳までは現役」でした。手術をした後、私自身が外来で経過を見ている患者さんは寧ろ少数派で、大多数の方は身近なかかりつけ医の下で診察を受けることになります。多くの場合、手術から年数が経つと患者さんがどんな状態でいるのか、中々情報が得られなくなります。しかし、手術をした者としては、患者さんのことはいつまでも気になるものです。再発や再手術のリスクが高い方は尚更です。実は、冒頭の患者さんも、そんなお一人でした。将来、再手術になる最も大きな危険因子は、若くして手術を受けることです。この患者さんの場合も、手術時の年齢が57歳と比較的若かったですし、元々コレステロール値等が高く、動脈硬化が進み易い状態にありました。

このような方は、バイパス手術から何年か経った後、心臓弁膜症の1つである大動脈弁狭窄症になって、再手術を受ける例が少なくないのです。大動脈弁は、全身に血液を送り出す左心室と大動脈との間にある弁のこと。これが固く開き難くなって、心臓からの血液の拍出が上手くいかなくなるのが大動脈弁狭窄症です。この病気も、狭心症や心筋梗塞と同様、主原因は動脈硬化なのです。ところが、この患者さんはそういうリスクを抱えていたにも拘わらず、術後、病気とは縁がありませんでした。理由は、自己管理に尽きます。定期的に診察を受け、処方された薬をきちんと飲み、検査結果をチェックする。奥さんの協力もあり、病気を招かないような生活習慣を心がけているのです。中でも大きいのは、スタチンをずっと服用して、悪玉コレステロール値を低く抑えていることでしょう。この薬は動脈硬化の進行を抑制しますから、心筋梗塞等の再発予防にも用いられます。私もよく処方しますが、改めて薬の効果を思い知った気がしました。尚、スタチンは現在、世界で最も多く使われている薬の1つですが、その元祖に当たるコンパクチンを青黴から初めて発見したのは、日本人研究者の遠藤章先生でした。 最近は“平均寿命”に対して、“健康寿命”という言葉が注目されています。“健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間”のことです。心臓の病気で手術を受けるとなると、“健康”の範疇からは大き く外れることになりますが、しかし、手術で悪いところを治し、その後も定期的な診察や服薬で自己管理をしていけば、日常生活を制限されることなく、普通に暮らすこともできます。今もタクシーの仕事を続けている前出の患者さんは、まさにその代表。病気を抱えていても、健康寿命を延ばすことは可能なのです。この続きは次回、また書くことにしましょう。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2017年3月2日号掲載
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