「身から出た錆」、末寺住職の怒りと悲鳴――密教寺院を揺るがす泥沼訴訟、真言宗高野山“金銭醜聞”の膿

20170306 05
異例の寒波が日本列島を覆った睦月、標高800mを超える霊山の山上盆地は、蓮華のように連なる8つの峰々に囲まれ、荘厳な静寂に包まれていた。“八葉の峰”と呼ばれるこの地は、真言密教の聖地である高野山である。816年、平安時代の高僧として著名な弘法大師空海が、真言密教の根本道場として開創して以来、1200年の時空を超え、幾多の人々から信仰を集めてきた。国家と国民の安泰を祈る至高の寺院で今、その高邁な信仰とは対極的な“金銭醜聞”が泥沼化している。当事者は空海の教えを忠実に守り、世に伝播すべき筈の僧侶である。訴訟にまで発展した金銭スキャンダルとその裏側に滞留する膿は、末寺や信徒をも苦悶させる。高野山金剛峯寺(和歌山県伊都郡高野町)を総本山とする宗派は、宗教法人『高野山真言宗』(以下“宗派”)である。日本の仏教界を代表するこの宗門は現在、巨額資金を巡る前代未聞の裁判を抱えており、その法廷に費やされる費用が財政を圧迫。全国に点在する約3600ヵ寺の末寺が、その財産規模に応じて、『総本山金剛峯寺』(※宗派とは別の宗教法人、以下“総本山”)に納める宗費の引き上げに繋がって、檀家に重くのしかかる。不浄のカネに端を発した係争のツケを信者が穴埋めする“負の輪廻転生”に陥っているのだ。JR名古屋駅から地下鉄を乗り継いで約30分。『名古屋市営地下鉄』八事駅で下車して歩くと、程なく樹木に覆われた広大な一角が現れる。総本山の別格本山と位置付けられる八事山興正寺(右画像)。別格本山とは、総本山・大本山に次ぐ高位の名刹だ。1686年に建立され、“尾張高野”と別称される。山門の正面を走る道路を挟んで、向かいに場違いなプレハブが突如として建ち、“興正寺檀信徒連絡寺務所”の看板が掲げられたのは、2015年11月のことだった。「悲しいかな、この興正寺とプレハブ小屋の非対称な風景こそ、高野山真言宗の“宗教内ゲバ”の最前線なのです…」。興正寺の檀家である初老の男性は漏らす。

興正寺の梅村正昭元住職は2014年1月、「寺有地を無断で売った」という宗規違反により、宗派から罷免されたが、今に至るまで興正寺を“実効支配”。話し合いでは万策尽きた為、対抗手段で建てられたのが同寺務所である。梅村氏は2012年、中京大学に隣接した約6万6000㎡に及ぶ寺の所有地を、同大学に138億8000万円で売却。この資金が、東京都港区のコンサルタント会社に約42億円、梅村氏が出資するイギリスの法人に約14億円、大田区のコンサルタント会社へ約5億円、渋谷区の芸能プロダクションへ約1億3000万円と其々流れたとされている。宗派は梅村氏の罷免と同時に、正当な住職となる特任住職ポストに、添田隆昭宗務総長を据えた。添田氏サイドは昨年9月、「梅村氏が中京大学への寺有地の無断売却で得たカネの大半が流れた先は、何れも梅村氏と個人的に結託している」として、梅村氏らを背任・業務上横領罪で名古屋地検に刑事告訴した。寺有財産の横領による寺院乗っ取りなのか。その訴えは未だ受理されておらず、真相は法廷闘争を待つしかないが、この問題の核心は、興正寺が高野山真言宗の名刹に数えられる一方で、総本山とは別の宗教法人格を持っていることに尽きる。つまり、“宗教上は一体的でも法制度では別物”という二重基準が、事を更に複雑にしている訳だ。宗派から任命された僧侶は今、この時もプレハブ小屋の中で、檀信徒の参拝や仏事を受け付けながら、“法的に正当な興正寺”として宗教活動に勤しむ。だが、梅村氏サイドの関係会社による興正寺の銀行預金の差押えの煽りで、特任住職側は資金枯渇の危機に直面。昨年9月、総本山の会計から2億5000万円の緊急貸し付けを決めて、急場を凌いだ。罷免後も、寺を占有しながら納税申告をしない梅村氏サイドに代わり、特任住職側が昨年2月の税務調査に基づく追徴税の約1億3952万円等を納付。今後も毎年、固定資産税や社会保険料等で多額の納付を迫られかねない状況で、特任住職サイドは新たに、追加の貸付金約2億円を盛り込んだ新年度予算案の編成をしたとみられる。ある関係者は「興正寺の預金は少なくとも十数億円ある」と指摘し、「差押えが解除されれば回収できる」と自信を示す。しかし抑々、総本山の会計は慢性赤字で、その額は年間2000万円に上る。これを埋める為、総本山は全国の末寺から集める宗費の引き上げに踏み切り、新年度から1700万円の増額となる予定だが、過疎化による檀家の減少で、地方の寺院に宗費の負担増は深刻だ。総本山から興正寺檀信徒連絡寺務所への貸付金は、新年度分を含めれば5億円を超え、これは宗費総額の2年分に相当する。末寺の住職の1人は「宗費が興正寺との対立の尻拭いや裁判に流れているのは納得できない」と憤りを隠さないが、総本山が興正寺の問題に投入した巨費を回収できる保証は無い。

20170306 06
総本山が抱えるもう1つの大きな裁判は、「乱脈な運営で財政を破綻の危機に陥れた」として、総本山が庄野光昭前宗務総長(左画像)と森寛勝前財務部長を訴えた総額8億7566万円に上る損害賠償請求事案である。この2人は、“内局”と呼ばれる執行部に属していた。総本山側は、庄野・森両氏が宗規に違反して購入したハイリスク債券から出た運用損失等を巡り、“損失の粉飾”と“不正隠し”を謀った責任を追及している。運用失敗で確定した損失5億7192万円の内、『野村證券』が販売したハイリスク債券(日経平均リンク債)による損失は4億391万円(投資額4億5000万円)に達する。庄野・森両氏は、就任翌年の2007年、野村證券から元本毀損の危険性が高い債券ばかりを購入。資産運用自体は以前の執行部から引き継いだが、この年を境にリスク分散を考慮しない投機的な運用へ大きく舵を切った。巨額損失が宗派の監査機関の調査で明らかになるまで、運用実態は隠されていたのだ。興正寺の特任住職を兼務する添田氏は、「梅村氏が興正寺の寺有地を無断売却したのは2012年3月で、それは庄野・森両氏が総本山と宗派と学園(※高野山大学を運営する学校法人)で乱脈経営を繰り広げていた時期と重なる。2つの“事件”の当事者たちの密接な関係を疑わざるを得ない」と糾弾する。2つの裁判での責任追及を通じ、“宗派財政の透明化”等再発防止の改革を進める宣言をしているが、「庄野・森両氏とも総本山と宗派が決めた人事で、身から出た錆」(末寺住職)、問われるのは宗教人としての自浄能力なのだ。「つまらない人は善行と悪行の区別がつかず、その因果も信じることがない。目の前の利益だけを見ているので、その因果は必ず返ってくる」――。この言葉を遺した空海は今、1200年後の弟子たちをどう見つめているのだろうか。


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