【嗚呼、みずほが溶けていく】(09) 信用リスクを不安視する声…大口融資先に燻る火種

中小には厳しいが大手には甘い――。企業向け融資を巡って、メガバンクを始めとする銀行は、常にそうした批判に晒されがちだ。程度の差こそあれ、融資のスタンスに銀行間で大きな違いはないように思えるが、こと『みずほ銀行』に関しては「社長のネームバリューを基にして貸し込んでいるんじゃないかというくらい、大手には審査も金利も甘々な印象」(ファンド関係者)という声が、業界内ではよく聞かれる。メガバンクともなれば、定量・定性両面で高度な信用リスク分析と与信管理をしている筈だが、それでもなお、みずほに対してそうした声が上がるのは、多くの人の頭に一部の大手企業との密接な取引関係が浮かんでいるからだろう。その代表格が、孫正義氏率いる『ソフトバンクグループ』だ。右画像の左表を見てもわかる通り、SBGの有利子負債とみずほの融資残高は、他の大手上場企業を圧倒する規模だ。グループ傘下の通信キャリア、ソフトバンク(※みずほを含む全体の銀行借入残高は1兆7725億円)の詳細は非公表だが、両社を合算したみずほの融資残高は、1兆円を優に超えるとみられている。「うちにとっての最大のリスクはSBG」「あの会社は審査も何も、完全に孫さんありき」「今後、孫さんが勇退したら、不良債権の山を抱えることになるのではないか」等と、みずほの幹部たちが取引の現状について漏らすことは、10年以上も前から続いており、今更驚くようなことではない。だが、長期間に亘って内部から危惧する声が上がっているにも拘わらず、これまでに正面を切って取引の見直しを求めるような意見が行内から出てきたという話は「聞いたことがない」(みずほOB)という。一体、何故なのか。
その最たる理由は、孫氏と『みずほフィナンシャルグループ』で現在会長を務める佐藤康博氏とが、呢懇の間柄であることだろう。休日のゴルフだけでなく、孫氏が若手の人材育成に向け設立した育英財団の理事を佐藤氏が務める等、公私を隔てることのない親交ぶりは、みずほの行員でなくともよく知られた話だ。金融庁のある幹部は、経営トップ同士の深い親交と融資に基づく「一蓮托生な関係は、以前からみずほの懸念材料としてみている」と話すが、過去には懸念を通り越して、黙って見ていられなかった出来事があった。それは今から5年前、SBGが投資家向けに巨額の社債を発行した時だ。その社債は、劣後特約付きの公募ハイブリッド債、所謂劣後債だった。劣後債とは、普通社債等と比較して経営破綻時に弁済順位が劣る債券のこと。投資家にとってはハイリスク&ハイリターンの商品だ。期間が実に5年以上と超長期に亘ることで当時話題になったものの、保険会社等機関投資家の反応は想像以上に低調だった。何故なら、「SBGは、トップの一声で財務の方針が180度変わってしまう会社。投資リスクとして、とてもではないが取り切れない」(大手保険会社)と考えていたからだ。そうした反応の悪さもあり、機関投資家向けは発行を2回に分け、発行総額は合計で710億円にとどまったのに対し、個人向けの発行総額は何と4000億円にも上ったのだ。折しもその年、日銀がマイナス金利を導入し、社債を始め債券の金利は一段と低下していた。その為、年3%という利率のSBGの劣後債に、個人が飛びついたわけだ。SBGが自らの資金調達の為に、機関投資家が取り切れないようなリスクを、個人に押し付けようとしているのではないか――。そうした懸念を強めた金融庁は、劣後債の引受会社となり、SBGを側面支援した『みずほ証券』を呼び出している。当時のみずほ証券の社長は、現在、みずほFGの社長を務める坂井辰史氏。金融庁は、個人に過大な投資リスクを負わせることについて、引き受けを担う証券会社としてどう考えているのか、佐藤氏を始めとするFG経営陣の言いなりになっているのではないかと問い質した。だが、みずほの関係者によると坂井氏は反論せず、頭を下げるばかりだったという。みずほと切っても切れない関係にある大口融資先として、業界内で危惧する声が出ているのは、何もSBGだけではない。「あんな稼ぎ方をしたら、もう一蓮托生ですね」。メガバンクのある幹部がそう語るのは、『昭和電工』を巡る取引だ。昭和電工は2020年、日立グループ御三家の一角とも言われた『日立化成』を買収。当時の日立化成の時価総額は昭和電工の2倍近くもあり、“小が大を呑み込む”M&Aとして話題を呼んだ。まさに社運を懸けた大勝負だったわけだが、この買収によって昭和電工の財務は悪化。早くも旧日立化成の事業の切り売りを迫られている。その裏側で暗躍しているのがみずほだ。買収時には、昭和電工本体に2950億円を融資した上で、買収の為の特別目的会社にも4000億円を融資。優先株による出資もしており、買収総額9640億円の大半を工面している。昭和電工側のフィナンシャルアドバイザー(FA)には、当然ながらみずほ証券が就いており、“Oneみずほ”としてまさにグループ一体で、がっぽりと収益を得てきたわけだ。みずほの“荒稼ぎ”は、こんな程度では終わらなかった。ラップフィルム事業とアルミニウム事業の売却手続きではみずほ証券がFAに就いた他、プリント配線板事業はみずほ系ファンドの『ポラリスキャピタルグループ』に売却。更に、鉛蓄電池事業についても『アドバンテッジパートナーズ(AP)』と『東京センチュリー』に売却している(※右上画像の右図)。つまり、譲渡が確定した全ての案件にみずほが絡んでおり、融資の金利やFAの手数料を得ていたのみならず、事業そのものも昭和電工に売らせるような格好になっているわけだ。中でも、鉛蓄電池事業の売却を巡っては、関係者が「ほぼ出来レースだった」と声を潜める。

何故なら、入札にはカナダの『ブルックフィールドアセットマネジメント』やアメリカの『アポログローバルマネジメント』も参加しており、肝心の提示額がAP・東京センチュリー連合を上回っているとみられていたからだ。ところが、「結果が出る前から、何故かAP・東京センチュリー連合に売却されるという観測が広まっていた」(投資ファンド関係者)という。勿論、事業売却においてシナジー等を重視した結果、提示額の低い会社に売却されるケースはある。だが、鉛蓄電池事業とシナジーがあるとすれば、「東京センチュリーのカーリース事業ぐらいしか思い浮かばない。ただ、それも(売却の決定打になるような)シナジーはない筈だ。最初からみずほ系に売るつもりだったのだろう」と関係者は疑いの目を向ける。こうしたみずほと昭和電工の一連の取引について、メガバンクの幹部は「財務的に苦しい会社に対して、グループ全体であそこまで搾り取るような取引は、うちではやらない」と呆れ顔だ。ここで左表を見てほしい。これは、みずほをメインバンクとし、2期連続で最終赤字を計上している上場企業を時価総額順で抽出したものだ。眺めれば、みずほの大口融資先で業績や財務が悪化している企業の概況を掴める筈だ。注目は、ランキングで2位につけた『楽天グループ』。モバイル事業への投資拡大で、昨年度は1000億円を超える最終赤字を計上している。楽天といえば、トップの三木谷浩史氏と、同じ旧興銀出身で旧みずほコーポレート銀行元頭取の齋藤宏氏との近しい関係も有名な話だ。そうした過去からの関係性が、融資リスクに目を瞑るような状況に繋がっていないことを願うばかりだ。 (取材・文/本誌 中村正毅・藤原宏成)

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