【崩壊する物流業界】(01) 利益無き繁忙に「NO!」…遂に反乱を起こした『ヤマト運輸』

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クロネコが遂にキレた。宅配便最大手の『ヤマト運輸』が、荷受数量に上限を設け、宅配便の総量規制に打って出る。これまで、採算に目を瞑って、荷物を際限なく受け入れてきたが、単価下落と人手不足で、遂に我慢の限界に達した。『ヤマト運輸労働組合』が、春季労使交渉で宅配便個数の抑制を会社側に求めた。具体的には、来年度の取扱個数を、今年度の数量を超えない水準に抑えることを要望した。今年度の個数(予想)は18.7億個(前年度比8%増)。この個数が、今後のヤマトのボーダーラインになる。労組が極一部の経営幹部と話し合いを進めてきたようで、会社側も概ね受け入れる見通しだ。ヤマト運輸を傘下に持つ『ヤマトホールディングス』の経営陣は目下、苦しい立場に追い込まれている。『Amazon.com』を始めとしたインターネット通販(EC)の市場規模は、2015年に約13.8兆円と、5年間で1.8倍に拡大した。それによって、ヤマトが運ぶ荷物が増え、中核であるデリバリー事業の売上高は着実に伸びている。ところが、営業利益を見ると、今年度は2年連続の減益になる見込みだ(右図)。今年1~3月期の3ヵ月だけを切り出すと、72億円の赤字(前年同期は15億円の赤字)となる。年末の繁忙期を終えた閑散期だが、赤字が5倍近くに膨れ上がる非常事態だ。

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利益が大幅に悪化する理由は、外形標準課税や社会保険料率の拡大等といった外部要因もあるが、インターネット通販の荷物が増え続けているという根本的な課題に行き着く。インターネット通販を利用する家庭が増える一方で、注文する商品は小型のものが多い。ヤマトにとっては、受け取れる運賃は安くなる為、採算が悪化するのだ。事実、宅配便の個数は増加している反面、単価は下がっている(左図)。業界全体でも、インターネット通販の隆盛が見て取れる。国内物流の9割を占めるトラック輸送では、宅配便の個数が増え、運ぶものの重量は軽くなっている(右下図)。大口顧客のAmazonを始め、増え続けるインターネット通販の荷物に翻弄されるヤマト。そこに追い打ちをかけるのが、配達を担うドライバーの人手不足だ。首都圏のある営業所では、この3年で荷物が2割以上も増加した。物量の増加に対応すべく、昨年よりセールスドライバーを4人、配達を一緒に担うパート社員・フィールドキャストを15人増員したという。それでも、増えた荷物を配達し切れない。結局、外部の運送業者に配達の一部を委託することで、何とか乗り切っている。「社員やパートの採用が思うように進まない。外部委託の増加が利益を圧迫している」と、『シティグループ証券』株式調査部ヴァイスプレジデントの姫野良太氏は指摘する。

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実際、デリバリー事業の外部委託費は急激に増えている。昨年4~12月は1029億円と、前年同期と比較すると140億円も増えた。一昨年4~12月は前年同期比5.5億円しか増えていないことを考えると、如何に異常な増え方なのかがわかる。人材はヤマトに限らず、同業他社でも逼迫している。その為、ヤマトは他社とドライバーの取り合いになっており、外部に委託する際の単価もどんどん上がっている。インターネット通販等、単価の安い荷物の増加が重なる“ダブルパンチ”で、宅配便の採算が急激に悪化するという悪循環に陥っている。インターネット通販の悪影響は単価だけではない。「ピンポーン」。平日朝9時過ぎ、荷物を抱えたヤマトのドライバーがインターホンを鳴らした。暫くして再度鳴らす。それから5秒ほど待ったが、反応は全く無い。仕方なく、不在連絡票をポストに残し、次の配達先へ向かう。淡々と熟しているように見えるが、内心は違う。「この時間で不在だと、『今日は幸先が悪いな』と思ってテンションが下がります」。届け先が受け取る確率が高いのは、午前中の早い時間帯と夕方以降に偏っている。「午前は11時を過ぎると外出される方が増える。最初の3時間でどれだけ受け取ってもらえるかが勝負」(ヤマトの配達員)の為、出端を挫かれた格好だ。国土交通省の調査によると、再配達に回る荷物の数は宅配便全体の2割に上り、そこに割かれている労働力は年間9万人に相当する(左下図)。再配達の際は、追加で運賃が受け取れる訳はないので、増えれば増えるほどコストが嵩むことになる。

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ヤマトは再配達削減に向けて、会員サービス『クロネコメンバーズ』の利用促進策や、都心部を中心としたロッカーの設置を行っている(※詳細は次回)が、荷物の増加スピードに全く追いついていない。こうした状況を改善する方法はある。運賃の値上げだ。抑々、日本の運賃単価は低い。売上高に占める物流コストの割合を見ると、アメリカは上昇と下降を繰り返している一方、日本は長期に亘って下落し続けている(右下図)。ヤマトは一昨年、“適正料金の収受”という形で、一斉に値上げを行った。2014年度に、宅配便単価は前年度比3.7%上昇した。値上げに反発した荷主もいた為、その年の宅配便の個数は減少したが、収支は大きく改善している。「値上げには相当な意識を持って取り組む」。今年1月末に開かれた証券アナリスト向けの決算説明会で、ヤマトホールディングスの山内雅喜社長はそう宣言したという。5月にも対応策を発表すると明言している。参加者の1人は言う。「昨年後半に山内社長と話した時と、まるで雰囲気が違った。繁忙期である12月の収支悪化を見て、愕然としたのだろう」。カギを握るのは、やはり大口顧客であるAmazonだ。同社に対しても、この2~3年で価格を引き上げてきた。だが、強気の姿勢をどこまで貫けるのかは不透明だ。「ヤマトの売り上げに占めるAmazonの割合は1割を超えている。それを失ってもいいという覚悟で臨む必要があるが、実際に失うと今後は人手がだぶついて、赤字になってしまう可能性がある」(ヤマト幹部)。ライバルの動向も無視できない。宅配便のシェアをじわじわと伸ばしている『日本郵便』だ。昨年末、同社は「6月からはがき等の郵便料金を値上げする」と発表した。

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市場関係者からは、「独占市場の郵便で値上げをし、そこで得た利益を元にゆうパックを値下げし、シェアの拡大を図るのでは?」という声が聞こえてくる。ヤマトのある幹部は「日本郵便には優秀な社員が多い。高度な戦略で、シェアを一気に取ってくるかもしれない」と、日本郵便に対する不安を口にする。現在、Amazonは「全国に宅配するにはヤマトの配達網に頼る他ないが、ヤマトが捌き切れない中で、各地の地元の宅配業者にも頼んでいる状況」(物流コンサルタント)。都市部を中心に、ヤマト以外の中小業者を活用する例も目立っており、ヤマトの心中は穏やかではない。値上げ幅も焦点だ。『SMBC日興証券』アナリストの長谷川浩史氏は言う。「ヤマトの経営陣は、一昨年の値上げを力ずくでやった部分があって、顧客が一気に離れたことをかなり気にしている。大きな値上げはできないのではないか。ただ、人手不足で今後も人件費が上がることを考えると、中途半端な値上げの効果は直ぐに消えてしまうが…」。値上げ分の使い道も重要だ。投資家は、「値上げで収益が改善し、配当が増える」と期待する。ただ、「今回は人件費や外部委託費に回って利益は改善しない」となった場合、株式市場は評価しないだろう。八方塞がりの状況で、ヤマトは“宅配便の総量規制”という荒業を選ぶ他なくなった。Amazon等の大口荷主は、値上げを呑まなければ荷受けされない可能性も出てくる。“送料無料”で急膨張してきたインターネット通販業者、更には便利さに慣れ切った消費者に、物流の現場は遂に“NO”を突き付けた。 (取材・文/本誌 鈴木良英)


キャプチャ  2017年3月4日号掲載
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